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一人読書会『アンナ・カレーニナ』(トルストイ)③ ……第1部、24章~34章……

 

一人読書会『アンナ・カレーニナ』の3回目は、

第1部の24章~34章を読んでみたいと思う。

 

24章

 

「そうだ、おれには何かしら嫌なところ、反感を呼ぶようなところがあるんだ」シチェルバツキー家から出てきたリョーヴィンはそんなことを思いながら兄のもとを目指して歩き出した。「彼女は彼を選んで当然だった。当たり前の話で、こちらは誰に対しても何ひとつ文句を言える筋合いではない。おれ自身が悪いんだ。そもそもおれは何の権利があって、彼女がこのおれと人生を共にしようと望むなんて思ったのだろう? いったい何さまのつもりだったんだ」そこでふと兄ニコライのことを思い出した彼は、そのまま喜んでその追憶に身を任せた。兄のところに着くまでの長い道中ずっと、リョーヴィンは兄ニコライの人生に起こった自分の知る限りの出来事を、ありありと脳裏に思い描いていた。何もかもひどく忌まわしい思い出ではあったが、ニコライを知らない人が持つであろう印象に比べれば、リョーヴィンの心ははるかに穏やかだった。ホテルに着き、ドアマンから兄の部屋番号を聞き、訪ねると、兄の他に、クリツキーという男(ニコライの友人)と、マリア・ニコラエヴナという女(ニコライの伴侶)がいた。兄は弟を見ると、「やあ、コースチャか!」と喜んだものの、すぐに表情を一変させ、「おまえたちのことは知らないし、知りたくもない。おまえは、おまえたちは何がほしいんだ?」と言った。「ぼくはただ単に、兄さんに会いに来ただけです」とリョーヴィンが言うと、「じゃあ、ただ来たんだな?」と言って、クリツキーとマリアを紹介してくれた。

 

25章

 

「ほら、あれが見えるか……」ニコライは、いくつかの鉄材のようなものを細紐で結わえたものを指さした。「あれが、おれたちが取り掛かろうとしている新事業の出発点だ。生産協同組合というやつさ。そこでは生産物も利益も、そして肝心なことに生産の道具も、全部が共有されるんだ」。リョーヴィンはほとんど聞いていなかった。その協同組合とは、自分自身への軽蔑から逃れるための、頼みの綱に過ぎなかった。「おまえはこういうことを軽蔑しているんだろう。それで結構、さあ帰れ! 買えるんだ!」ニコライがわめいたので、リョーヴィンは「ぼくは少しも軽蔑なんかしてません」とおずおずと言った。クリツキーとニコライが出て行き、マリアと二人で残されたリョーヴィンは、彼女にたずねた。「兄とはもう長いのですか?」「もう二年目になります。あの人はとても体が弱ってきました。お酒の飲みすぎです」「たくさん飲むのですか?」「ええ」。そこへニコライが戻ってきた。「何の話をしていたんだ?」「別に」リョーヴィンはまごついて答えた。ニコライが「なんで結婚しないんだ?」と訊いてきたので、リョーヴィンは、「チャンスがなかったんです」と答えた。ニコライは酒を飲み続け、舌が乱れはじめ、話題はあちこちに飛び移った。そして、完全に酔っ払ったところで寝かしつけた。マリアは必要なときはリョーヴィンに手紙で知らせること、そして自分のところへ来て一緒に暮らすように兄を説得することを約束した。

 

26章

 

翌朝、リョーヴィンはモスクワを後にし、晩には自分の田舎に帰りついた。そして、仕事の段取りを考えたりしているうちに、自分に起きたことをまったく違う風に考えるようになっていた。自分は自分であると感じ、別の人間になりたいという気持ちは失せていた。いまやただひたすら、今までの自分よりももっと善い自分になりたかった。第一に、彼はこの日を境にもはや二度と、結婚しさえすればとびきり幸せになれるなどという甘い期待は持つまい。第二に、彼はプロポーズをしようとしていた際に思い起こして散々苦しんだような、忌まわしい肉欲におぼれることは二度とすまいと決心した。今後、決して兄を忘れないこと、いつも兄の消息を追って目を放さず、万一のことがあったらすぐに援助する準備をしておくことを心に誓った。「ご主人さま、お早いお帰りで」屋敷の家政婦役をつとめているばあやアガーフィアが言った。「すっかり飽き飽きしたんだよ。やっぱり家が一番さ」そう答えると彼は書斎に向かった。管理人が入ってきて、留守中の出来事が報告され、その中に、品評会で購入した高価な牝牛パーヴァが子を産んだという嬉しい報告もあった。彼は牛舎に行き、子牛を見た。「母親似だ! 毛色は父親のほうだな。これはいい。背も高いし腰骨も張っている。なあ、ワシーリー、上出来だろう?」彼は管理人に話しかけた。「どちらに似たって悪いはずがありませんよ。ところで請負人のセミョーンが旦那さまのお発ちになった翌日やってきました。あの男と話をつけなくてはならないでしょう、旦那さま」と管理人が告げた。

 

27章

 

母屋は大きな古い建物で、リョーヴィンは一人暮らしだったにもかかわらず、家中を暖房して使っていた。この家はリョーヴィンにとって全体でひとつの世界をなすものだった。これは彼の父と母がそこに暮らし、そこで死んでいった世界だった。親たちの暮らしは、リョーヴィンにとって完成の極致と思えるものであり、彼はそうした暮らしを自分の妻と、家族とともに再現することを夢見ていたのだった。彼が思い浮かべる未来の妻とは、母親のように美しくて神聖な女性の理想の再現でなくてはならなかった。リョーヴィンにとって結婚とは、一生が幸福か否かを左右する人生最大の事業であった。しかるに今彼は、その結婚をあきらめなければならなかったのである。主人が帰ってきた喜びに駆け回って吠えていたメスの老犬ラスカが、彼に近寄り、手の下に頭を突っ込んで哀れっぽくクンクンと鳴きながら、撫でてくれとせがんだ。「犬のくせに……ご主人が戻られて、寂しがっていらっしゃるのがわかるんですね」アガーフィアが言った。「なぜ寂しがっていると?」「わたしの目は節穴じゃありませんからね。この年になればご主人のお気持ちくらいわかりますよ。子供のころからご奉公しているんですから。でも大丈夫ですよ、旦那さま。お体がご丈夫で、心が疚しくさえなければ」。リョーヴィンは驚いて彼女をじっと見つめた。老犬を見ているうちに彼は思った。「おれもこんな風に生きよう! おれもこんな風に生きていこう! 大丈夫……何もかもうまくいくさ」。

 

28章

 

舞踏会の翌朝早く、アンナは夫に宛てて本日モスクワを発つという電報を打った。キティは頭痛がするからという手紙をよこして訪ねてこなかった。アンナは午前中ずっと出発の準備にかかりきりだった。ドリーには、アンナはなにか落ち着きがなく、気がかりにとらわれているように感じられた。「今日のあなたは変ね!」ドリーは彼女に言った。「義姉さんはどうしてわたしが明日じゃなくて今日帰るのかおわかりになる? これはずっと胸につかえていたことなんだけど、義姉さんには打ち明けさせていただくわ」思い切ったようにアンナは言った。「なぜキティさんが食事に来なかったのか、義姉さんにはおわかり? あの人、わたしに嫉妬しているのよ。わたしがだめにしてしまったの……わたしのせいでせっかくの舞踏会があの人には楽しみじゃなくて、苦しみになってしまったのよ。義姉さんにこうしてお話しするのも、わたしはたとえ一分だって自分を疑いたくないからよ」。だがそう言い切ったとたん、彼女は自分の言葉が正しくないのを感じた。実際は、彼女は自分を疑っていたどころか、ヴロンスキーのことを思うたびに胸のときめきを覚えていたのであり、わざわざ予定より早く帰るのも、ひとえにこれ以上彼に会うまいという気持ちからなのであった。「わたしはただ仲立ちをしようと思っていただけなのに、急にまったく別の展開になってしまって。ひっとしたらわたし、心ならずも……」アンナは顔を赤らめて言いよどんだが、「もしも彼の側が少しでも本気だったとしたら、わたしもう絶望するしかないわ」と続けた。「でもね、アンナさん、わたしこの結婚話は、キティにとってそんなに惜しい話じゃないと思うのよ。もしもあのヴロンスキーさんが一目であなたに恋してしまうような人だったら、いっそ二人は別れたほうがいいかなって思うの」とドリーは言った。

 

29章

 

「ああ、ようやく何もかも終わったわ!」客車の入り口に陣取っていた兄と最後の別れを交わしたとき、アンナの頭に浮かんだのはそんな考えだった。彼女は小間使のアンヌシカの隣に腰を下ろして、ぼんやりと灯がともった寝台車の中を見回した。「おかげさまで明日はセリョージャと夫に会える。そうして今までどおり楽しい、なじみの生活が続いていくんだわ」。アンナはアンヌシカに読書灯を取ってこさせて、読書することにした。最初は読書に身が入らなかったが、やがて読んだことが頭に入るようになっていた。アンナは読みかつ理解していたが、どうも読書というものが、つまり他人の人生の反映を追いかけることがつまらなく感じられた。自分が生きたいという気持ちが強すぎたのだ。彼女は本を置くと、モスクワでの思い出を逐一たどってみた。すべて楽しい、良い思い出だった。あの舞踏会を思い出し、ヴロンスキーとその憧れに満ちた従順な顔を思い出し、自分と彼のかかわりのすべてを思い出した。何ひとつ恥ずべきことはなかった。しかし同時に、まさに思い出がそこのところまで来ると、恥の感覚が強まるのであった。「いったいどうしたっていうの? まさかわたしとあの将校のお坊ちゃんの間に、ただの知り合い同士の関係を超えるようなものが何かあるというの?」。すべてが朦朧としてきて、アンナは深い穴に落ち込んだような気がした。どこかの駅に着いたので、アンナは外に出た。タラップには強風が吹きつけていたが、列車のかげになるプラットホームの上は穏やかだった。彼女は喜んで、胸いっぱいに雪まじりの冷たい大気を吸い込み、車両の脇にたたずんでプラットホームと明かりのついた駅舎を見回した。

 

30章

 

新鮮な空気を心ゆくまで味わおうともう一度深呼吸してから、そろそろ車両に戻ろうとしたアンナが手すりにつかまるためにマフから手を出した時、すぐそばに立っていた軍のコートを着た男が、ゆれる灯火の光をさえぎる格好になった。ふと振り向いたアンナは、即座にヴロンスキーの顔を認めた。彼は帽子のひさしに手を当てて彼女に一礼すると、何か必要なものはないか、お役に立てることはないかとたずねた。彼女は何も返事をせぬまま、かなり長いこと彼の姿に見入っていた。自分にとってヴロンスキーなどはどこにでもいる十把一からげのありふれた青年の一人に過ぎない̶̶この数日間何度となくアンナは心のうちでそうくりかえし、つい先ほども同じことを思ったところだった。しかし今こうして彼と会った最初の瞬間に彼女をとらえたのは、喜ばしい誇らしさの感覚であった。「あなたが乗っていらっしゃるとは存じませんでしたわ。どうしてこの汽車に?」「それは、あなたがいらっしゃるところにぼくもいたいから、この汽車の乗ったのです」「あなたがおっしゃったのはいけないことです。おねがいです、もしあなたが善い方なら、どうかいまおっしゃったことを忘れてください。わたしも忘れますから」「あなたの一つ一つの言葉、一つ一つのしぐさを、ぼくはけっして忘れないし、忘れることはできません……」「もう結構、およしください!」アンナはすばやく客車の入り口に入り込んだ。彼女は感覚によって、あの一分ばかりの会話が二人の仲を恐ろしいほど近づけたのを理解した。彼女はそのことにうろたえ、かつ喜んだのである。彼女は一晩中眠らなかった。汽車がペテルブルグに着いて、最初にアンナが注意を引かれたのが夫の顔だった。彼女の姿を認めると夫は唇にいつものからかうような笑みを浮かべ近寄ってきた。夫の鈍い視線を受け止めると、なにか不快な感情が胸をしめつけた。とくに彼女を驚かせたのは、夫と会ったとたんに感じた自分への不満感であった。これまで彼女はその感情に自分で気がつかなかったのだが、いまやはっきりと、痛いほどにそれを意識したのだった。

 

31章

 

ヴロンスキーは一晩中眠らなかった。自分の車両に戻ってからずっと、ひたすらアンナと会ったときの状況を、彼女の発した言葉をつぶさに反芻しつづけていたが、するりとありうべき未来のさまざまな情景が脳裏に浮かんできて、思わず胸が苦しくなるのだった。ペテルブルグに着いて汽車を降りたヴロンスキーは、自分の車両の脇にたたずんで、アンナが出てくるのを待ち構えた。だが彼女を見つける前に、彼は彼女の夫の姿に気づいた。「ああそうか! 夫だ!」このときになってようやくヴロンスキーは、夫が彼女と結びついた存在だということをはっきりと理解した。かれは相手の実在を納得すると同時に不快な感覚を味わった。彼は、彼女を愛する絶対の権利を持つ者は自分だけだと思っていたのだ。ヴロンスキーは彼女のいるところへ近寄っていった。「よくお休みになられましたか?」そう言って彼はアンナと夫に同時に一礼した。挨拶の意味は夫の解釈に任せ、自分が誰かわかろうがわかるまいがどうでもいいというつもりだった。「ありがとうございます。おかげでとてもよく休めました」アンナは答えた。カレーニンは不満そうにヴロンスキーを見つめながら、誰だったか思い起こそうとしている様子だった。「こちらヴロンスキー伯爵です」アンナは言った。「お宅にお招きいただければ光栄なのですが」とヴロンスキーが言うと、カレーニンはどんよりとした目でちらりと見て、「どうぞいらしてください」と言った。

 

32章

 

家で最初にアンナを出迎えたのは息子だった。「ママ、ママ!」と叫びながら、息子は階段を駆け下りてきた。だが息子も夫と同じく、失望に似た感覚をアンナにもたらした。彼女は息子を実際よりも良く想像していたのだ。だからありのままの息子で満足するためには、現実のレベルまで基準を下げる必要があった。リディア夫人の来訪が告げられ、リディア夫人が帰ると、今度は友達のある局長夫人が訪れて町のニュースを一部始終話して聞かせた。3時にはこの友達は帰ったが、また夕食に戻ってくると約束した。夫のカレーニンは省に出ていた。一人になると、アンナは夕食まで息子の食事に付き合い、荷物を片付け、たまっていた言伝や手紙を読んで返事を書いた。昨日の自分の状態を思い起こすと、彼女はあきれるばかりだった。「いったい何があったというの? 何もなかったでしょう。ヴロンスキーは浅はかなことを言ったけれど、それは簡単にけりをつけることができるし、わたしの対応も適切なものだった。このことを夫に話す必要はないし、話すべきではない。話せば重要でないことを重要視することになってしまうから」

 

33章

 

レーニンは4時に役所から帰ってきたが、妻の部屋に寄らずに自分の書斎に入って、待ち受けていた請願者に対応したり、秘書官が届けた書類に署名したりした。やがて夕食の客(カレーニン家では常に3人ほどの夕食の客がいた)たちが集まってきた。食事の合間にカレーニンは妻とモスクワの事情について話を交わし、さも馬鹿にしたような笑みを浮かべてオブロンスキーの消息をたずねた。食後、夫は客たちと半時間ほど過ごしてから、再び笑顔で妻の手を握り、評議会へと出かけていった。この晩アンナは招かれていた公爵夫人の家にも行かず、予約していた劇場にも行かなかった。理由は、あてにしていたドレスが出来上がっていなかったからである。苛々した気持ちを和らげようとしてアンナは子供部屋に行き、ずっと息子の相手をしていた。どこへも出かけずに楽しい一晩を過ごしたことに彼女は満足していた。昨晩の汽車の中であれほど重大に思えたこともすべて、社交生活のありふれたつまらぬ出来事のひとつに過ぎず、自分は誰に対しても、自分自身に対しても恥じるところはまったくないのだということが、はっきり感じられたのであった。9時半に夫が帰宅し、読書をするために書斎に入った。アンナがモスクワへ手紙を書いて過ごした。12時ちょうどにカレーニンが姿を現し、「そろそろ時間だよ」と意味ありげににやっと笑って寝室に入っていった。彼女は着替えをして寝室に入っていったが、モスクワにいたころあれほどまでに彼女の目からも笑みからも発散していた生気が、今の彼女の顔には見られなかった。いやそれどころか、今やあの火は彼女の内側で消されてしまったか、あるいはどこか奥深くに仕舞いこまれてしまったかのようであった。

 

34章

 

今回ペテルブルグを留守にするにあたって、ヴロンスキーはモルスカヤ街の大きなアパートを友人で気の合った同僚のペトリツキーに預けておいた。ペトリツキーは若い中尉で、格別の名門ではなく、裕福でないうえに借金だらけ、晩はいつも酔っ払っていて、さまざまな事情で何度も営倉入りしていたが、それでも同僚や上官から愛されていた。ヴロンスキーが部屋に入ると、ペトリツキーの女友達のシリトン男爵夫人がおしゃべりしながらコーヒーをいれているところだった。コート姿のペトリツキーと、軍服のままのカメロフスキー騎兵大尉が彼女の周りに坐っていた。「ところで、あなたの奥さまは?」夫人が突然そうたずねた。「奥さまは連れてかえっていらっしゃらなかったの? こちらではもうあなたは結婚したことになっているのよ」「いいえ、奥さま。わが身はジプシーの生まれゆえ、ジプシーとして死んでゆきます」「それは素敵、なおさら素敵だわ。お手をちょうだい」それから夫人はヴロンスキーを放さず、彼に向かって冗談まじりに自分の最近の人生設計を語り、助言してくれと頼んだ。冗談半分の助言を与えていたヴロンスキーは、たちまちこの手の女性の相手をする際のなじみの呼吸を取り戻した。やがて男爵夫人とカメロフスキーが帰ると、ペトリツキーはあれこれ面白いニュースを披露しはじめた。一通りニュースを聞いてしまうと、ヴロンスキーは従僕の助けを借りて制服に着替え、連帯へ帰還の報告に出かけた。報告の後は兄のところとベッツィのところへ出かけ、それから何軒かの家を訪問してみるともりだった。アンナと出会う可能性のある社交界への瀬踏みである。ペテルブルグ生活の常で、いったん家を出たら帰宅は深夜になるはずだった。

 

24章から27章は、

シチェルバツキー家から出てきたリョーヴィンが、

兄のニコライがいるホテルを訪ね、自分の田舎に帰り着くまでの話である。

「彼女は彼を選んで当然だった。当たり前の話で、こちらは誰に対しても何ひとつ文句を言える筋合いではない。おれ自身が悪いんだ。そもそもおれは何の権利があって、彼女がこのおれと人生を共にしようと望むなんて思ったのだろう? いったい何さまのつもりだったんだ」

と、キティにプロポーズし、フラれたことを冷静に分析する。

そして、自分は自分であると感じ、

別の人間になりたいという気持ちは失せ、

ただひたすら、今までの自分よりももっと善い自分になろうと決意する。

結婚しさえすればとびきり幸せになれるなどという甘い期待は持つまい。

プロポーズをしようとしていた際に思い起こして散々苦しんだような、

忌まわしい肉欲におぼれることは二度とすまいと決心する。

さらに、今後、決して兄を忘れないこと、

いつも兄の消息を追って目を放さず、

万一のことがあったらすぐに援助する準備をしておくことを心に誓う。

 

28章から29章は、

舞踏会の翌朝のアンナの様子、そして、汽車に乗り込むまでが語られる。

「義姉さんはどうしてわたしが明日じゃなくて今日帰るのかおわかりになる? これはずっと胸につかえていたことなんだけど、義姉さんには打ち明けさせていただくわ」

今日帰ることにした理由をアンナはドリーに話す。

「なぜキティさんが食事に来なかったのか、義姉さんにはおわかり? あの人、わたしに嫉妬しているのよ。わたしがだめにしてしまったの……わたしのせいでせっかくの舞踏会があの人には楽しみじゃなくて、苦しみになってしまったのよ」

こう話したものの、

ヴロンスキーのことを思うたびに胸のときめきを覚え、

わざわざ予定より早く帰るのも、

ひとえにこれ以上彼に会うまいという気持ちからなのであった。

 

30章で、

アンナは、彼女を追って同じ汽車に乗っていたヴロンスキーと出会う。

「あなたが乗っていらっしゃるとは存じませんでしたわ。どうしてこの汽車に?」

と問うアンナに、ヴロンスキーは、

「それは、あなたがいらっしゃるところにぼくもいたいから、この汽車の乗ったのです」

と答える。

これは実質的な愛の告白であった。

すぐさまアンナは、

「あなたがおっしゃったのはいけないことです。おねがいです、もしあなたが善い方なら、どうかいまおっしゃったことを忘れてください。わたしも忘れますから」

と言うが、ヴロンスキーは、

「あなたの一つ一つの言葉、一つ一つのしぐさを、ぼくはけっして忘れないし、忘れることはできません……」

とさらなる愛の言葉を重ねる。

アンナはすばやく客車の入り口に入り込むが、

あの一分ほどの会話が二人の仲を恐ろしいほど近づけたのを理解する。

汽車がペテルブルグに着いて、夫の出迎えを受けるが、

夫の鈍い視線を受け止めると、なにか不快な感情が胸をしめつける。

 

31章で、

ヴロンスキーは、アンナが出てくるのを待ち構えるが、

彼女を見つける前に、彼は彼女の夫の姿に気づく。

このときになってようやくヴロンスキーは、

夫が彼女と結びついた存在だということをはっきりと理解し、

同時に不快な感覚を味わった。

 

31章から33章までは、帰宅してからのアンナの様子、

34章は、帰宅してからのヴロンスキーの様子が語られる。

 

キティとヴロンスキーが結ばれる筈の舞踏会が、

アンナとヴロンスキーの出逢いの場となり、

今回読み進めた11の章(24章~34章)で、

アンナとヴロンスキーの気持ちまでもが急接近する。

 

学生時代は、アンナを中心とした読み方をしていたように思うが、

70代になった今は、リョーヴィンの生き方がとても気になるし、

リョーヴィンに肩入れした読み方になるような気がする。

それからキティの今後の心の動きにも注目していきたい。

展開はある程度知っているが、

約半世紀ぶりの再読なので、ワクワク感が止まらない。

 

今回で、第1部を読了したことになる。

次回から、物語は第2部へと入って行く。

 




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