
私が利用している図書館のHPの「新着情報」欄で、
私の好きな山岳カメラマン・星野秀樹氏の著書、
『山に登る』(アリス館、2025年5月刊)という本を見つけた。
「貸出可能」となっていたので、早速、図書館に行って探すが、
「ない!」。
図書館スタッフに訊いて調べてもらうと、
「これは児童書ですね」
と言って、隣にある児童室から持ってきてくれた。
まさか児童書だとは思わなかったので、ビックリ。
星野秀樹氏の山岳写真と文章による「絵本」であったのだが、
星野秀樹氏は、優れた山岳カメラマンであると同時に、
優れた文章家でもあるので、

児童書『山に登る』にも興味を持たされた。
早速、借りて帰り、読み始めたのだった。

山がある、山がある。
どこまでも、はてしなく。
登っても、登っても。
まだまだ、山が続いている。
遠く、遠く、どこまでも遠く。
深い森をぬけ、お花畑をとおって、
小さな池のある草原から、
あの山をこえていこう。
一日中、山を歩き続けてテントをはった。
ああ、今日もよく歩いたな。
ゆっくりごはんを食べて、のんびり一日をふり返る。

あるときめざしたのは、冬の山。
視界を閉ざす吹雪。
行く手をさえぎる深い雪。
ふり続く雪、雪、雪……。
ふきつける風、風、風……。
吹雪がやむと、白い怪物のような山が、
小さなぼくたちを見下ろしていた。
見上げた空は高く、青く、すみわたっている。
さあ、一歩一歩雪をふみしめ、あの頂をめざして登っていこう。

山では、いつも同じことのくり返し。
登る。休む。下る。飲む。食べる。ねる。
それでも山は、まだまだ続く。ひと山こえると、またひと山。
ああ、もうつかれたよ。荷物は重いし、足だってクタクタだ。
いったいなぜ、山に登るの?

星野秀樹氏は、そこにひとつの答えを導き出しているのだが、
それは、まだ山登りをあまりしたことのない子どもたちへの、
カメラマンとしての答えであったように思う。
この絵本を手にした大人たちは、
「なぜ、山に登るの?」という問いに対する、
それぞれの答えを持っていることだろう。
私の場合はどうだろう?
険しい山に立ち向かい、歩き切ったときの喜び。
ふだん見ることのできない美しい風景や花に出会えた悦び。
テントの中で嵐が過ぎ去るのを待ち、翌朝晴れたときの歓び。
それらを味わいたくて登っていた時期もあったが、
高齢者になってからは、
「初めてお越し下さった方へ」にも書いているように、
美しい風景を眺め、可愛い花を見る。(視覚)
美味しい空気を吸い、岩清水を飲む。(味覚)
心地よい鳥の声、小川のせせらぎの音。(聴覚)
香しい花の匂いや森の匂い。(嗅覚)
土を踏む感触、木や岩の手触り。(触覚)
という、
五感すべてで感じる幸福を得るために登っているような気がする。

とりわけ、70代になった今は、
深呼吸して「山の匂い」を胸いっぱいに吸い込んだときに、
幸福感を感じるようになった。
小学生の時、遠足で山に行った時と同じ「山の匂い」。
土の匂いなのか、木々の匂いなのか、山野草の匂いなのか……
山でしか味わえない特別な匂い。
この「山の匂い」に出逢いたくて、
今の私は山に登っているのかもしれない……

そんなことを考えさせてくれた絵本『山に登る』だった。
