
『カラマーゾフの兄弟』読了計画の第22回は、
第3部、第9編「予審」の、

第6節「検事はミーチャを追い込んだ」
第7節「ミーチャの大きな秘密、一笑に付された」
第8節「証人尋問、餓鬼(がきんこ)」
第9節「ミーチャ、護送される」
を読みたいと思う。


第3部、第9編、第6節「検事はミーチャを追い込んだ」

【要約】
予審判事のネリュードフは、衣服をはじめ、もろもろについても詳細かつ厳密に検査する必要があり、義務があると言い、ミーチャに服を脱ぐように命じた。彼らの側に、「尊大で人を見下すような」態度が感じられたことから、ミーチャはいらつくが、いったん裸にされると、自分がまるで彼らに対し罪があるような気になった。すべての所持品が証人たちに提示され、検査調書が作られ、やがて予審判事は出て行き、そのあと衣類が運びだされた。代わりの衣服が提供されたが、それはカルガーノフが(この思いがけない事態に)寄付したものだった。「証人尋問に移ります」と予審判事は告げるが、ミーチャは、「もうたくさんです。どこへなりと追放してください。死刑にしてください。でも、これ以上、ぼくをいらいらさせないでください。ぼくは黙秘します」と言う。彼が黙り込むと、検事が、ミーチャが逃げ出したタイミングで「庭に出るドア」が開いていたとグリゴーリーが証言したこと、フョードルのベッドの横から3000ルーブルが抜かれた封筒が出てきたことを明かした。すると、ミーチャは、椅子から跳びあがり、「嘘だ、嘘だ!」と叫び、封筒の場所を知っていたのはスメルジャコフだけであり、スメルジャコフこそが真犯人だと主張した。しかし、予審判事は、「封筒が枕の下に隠されていた」とミーチャ自身がすでに供述していたことを指摘し、ミーチャを追い込んでいく。追い詰められたミーチャは、誰から借金したのか明かす決意をする。
予審制では、予審判事の心証によって裁判にかけられるかどうかの判断が下される。
裁判の必要があると判断された者だけを起訴するので、
裁判の件数は絞り込まれるが、起訴されえるとほぼ有罪となる。
戦前の日本も予審制だったとか。
第3部、第9編、第7節「ミーチャの大きな秘密、一笑に付された」

【要約】
ミーチャは口を開いた。「ひと月前、(前の婚約者の)カテリーナさんがぼくを呼んで、モスクワにいる自分の姉と、もう一人の親戚に送金してほしいと言って、このぼくに3000ルーブルを預けました。ぼくはそのとき別の女性(グルーシェニカ)を好きになったばかりでした。ぼくはそこでグルーシェニカをこのモークロエに誘い、二日間でその3000ルーブルのうちの半分、つまり1500ルーブルを使い果たし、残りの半分をに香袋の代わりに首にぶらさげ、昨日その袋を開けて、使いだしたんです。残りの800ルーブルが、みなさんのお手元にあるというわけですよ」。これを聞いた検事は、「この程度の秘密を明かすことが、あなたにとってそれほどの苦しみに値するものとは、にわかに信じられないのですよ……なにしろあなたはさっき、告白するぐらいなら流刑地に行ったほうがましだ、とまで叫んでおられたじゃないですか……」と言った。ミーチャはかっかして、「1500ルーブルが恥辱なわけじゃないんです。この1500ルーブルを、3000ルーブルから取り分けたってところが、問題なんです」と答えた。検事が、「重要なのは、あなたが3000ルーブルを着服したということであって、それらをどう処分したか、ということではないはずです。ちなみに、あなたはどうして、そんな処分の仕方をなさったんですか」と問うと、ミーチャは、「取り分けたのは、卑劣なもくろみからです。つまり計算していたんです。なぜって、この場合、計算することこそが卑劣なんですから……そしてまるひと月、この卑劣なふるまいが続いたんです!」と答えた。検事は即座に「わかりません」と言った。「ぼくは泥棒じゃない。散財はしたが、盗みはしなかった。泥棒というのは卑怯者より卑劣なんです。それがぼくの信念です」と、必死にその胸のうちを語るミーチャであったが、相手が話している内容を信じていないと感じ、絶望する。
ミーチャの「恥辱」の感覚は独特で、判事たちを混乱に陥れる。
ミーチャのなかでは、金を返さない「卑怯者」になることは、
殺人を犯すことよりも「恥」として認識されているのだが、
一方で、手に入った金はすぐに使ってしまうという執着の無さが、
ミーチャのなかに同居しており、読む我々としても理解に苦しめられる。
ドストエフスキー自身も賭博にのめり込むなど、凄まじい浪費生活を送り、
膨らんだ借金のために債務監獄に投げ込まれる寸前までいったことがあり、
こういったミーチャの恥辱の意識は、
ドストエフスキーの本音に通じるものがあるのかもしれない。
第3部、第9編、第8節「証人尋問、餓鬼(がきんこ)」

【要約】
証人尋問が始まった。尋問側が注意を向けた最も重要な点は、3000ルーブルに関する質問だった。ミーチャが最初(ひと月前)のどんちゃん騒ぎで使ったのは3000ルーブルか、1500ルーブルか。二度目(昨日)のどんちゃん騒ぎで使ったのは3000ルーブルか、1500ルーブルか。悲しいことに、彼に有利になるような証言はなく、宿の主人トリフォーン、御者のアンドレイ、百姓のステパンやセミョーン、知的な青年カルガーノフなど、すべての証言はミーチャのそれに背くものばかりだった。そして、それらの幾人かは、彼の供述を覆すような新証言まで提供した。二人のポーランド人の証言は、尋問者たちの異常な好奇心を呼んだ。ミーチャが、グルーシェニカと別れるように買収にかかり、3000ルーブルの手切れ金を渡すために、手付金として700ルーブル、残りの2300ルーブルを「明日の朝、町で」手渡すとの条件つきで提示し、「現金は持ち合わせていないが、町に行けばある」と、神にかけて誓ったというのだ。検事から、「明日かならず手渡すと請け負った残りの2300ルーブルは、いったいどこで手に入れるつもりでいたのか?」と問われ、ミーチャは、「現金ではなく、チェルマシニャーの領地に関する(サムソーノフやホフラコーワ夫人に提示したのと同じ)権利書を渡そうと思っていた」と答えたが、検事は「言い逃れの無邪気さ」に薄笑いを浮かべた。グルーシェニカの番が回ってきて、彼女は問われたことを正直に答えていったが、最後に、「わたしはこの人を知っています。この人は、思ったことをなんでも口にしてしまう人なんです。人を笑わせるためだったり、頑固なせいだったり。でも、良心に恥じることなら、ぜったいに嘘はつきません。真実をそのまま、はっきり言います、それを信じてください!」と訴えた。尋問が終わり、ミーチャは一瞬、眠りに落ちた。そして奇妙な夢を見た。馬車に乗って進んで行くと、村の入り口で、両腕に乳飲み子を抱いた、痩せてやつれた女に出会う。乳飲み子は泣いている。「どうして泣いているんだ?」と訊くと、「餓鬼(がきんこ)ですものねえ、餓鬼だから泣いているんですよ」と女は答えた。ミーチャは、母親と子どもを見ながら、その人たちのために何かをしてあげたいと思った。目が覚めると、頭の下に枕があるのに気づき、驚く。だれか親切な人が枕をあててくれたのだろう。彼の心はもう涙に打ちふるえているようだった。彼はテーブルに近づくと、どんな内容の調書にもサインすると宣言した。
ここで、ミーチャに、回心が起こる。
フョードル殺しの罪を引き受けようとする、ある種の諦念が芽生えるのだ。
ミーチャが見る夢「餓鬼(がきんこ)」の夢が、浄化の決定的なきっかけになる。
第2部でイワンが語った、虐待に苦しむ子どものモチーフと通じるものがあり、
考えさせられる。
ミーチャは、この夢を通して、「父殺し」の持つ原罪的意味を知ることになる。
第3部、第9編、第9節「ミーチャ、護送される」

【要約】
調書のサインがすむと、「拘留状」が読み上げられ、囚人であること、すぐに町に連行されて、あるきわめて不愉快な場所に拘留されることが通達された。ミーチャは、「ぼくは、告発の苦しみを、すべての人々の責めを、受け入れます。ぼくは苦しみたい、苦しみでもって浄化されたい。でも、やっぱり最後に聞き届けてほしい。親父の血にかんして、ぼくは無実です! 罰を受け入れるのは、親父を殺したからじゃない。殺したいと思ったから、ひょっとするとじっさいに殺しかねなかったから、なんです……でも、やはり、あなたたちと戦っていくつもりです。それを、あなたたちに宣言しておきます。最後の最後まで、あなたたちと戦うでしょう。でも、その先は神さまが決めてくれるはずです!」と言った。予審判事は、「審理は、まだ終わったわけではありません。続きがまだ町でありのです。無事、あなたの無実が証明されますことを……カラマーゾフさん」と、いくぶん戸惑いながら言った。ミーチャは、「もういちど彼女(グルーシェニカ)に会って、最後の別れを告げてもよろしいでしょうか?」と訊ね、それは受け入れられた。グルーシェニカはミーチャに深々をお辞儀をして言った。「あんたのもの、って言ったわ、これからも、あんたのものよ、一生あんたについていくわ、どこに送られることになっても。さようなら、あんたは、無実の罪で、自分をほろぼした!」。
これで、第3巻を読了した。
次回は、いよいよ第4巻(第4部)へ入っていくことになる。
楽しみでならない。
