
本作『愛にイナズマ』(2023年10月27日公開)を見たいと思った理由は二つ。
➀石井裕也監督作品であるから。

➁松岡茉優の主演作(窪田正孝とのW主演)であるから。

石井裕也監督の作品は、これまで、
『川の底からこんにちは』(2009年)
『あぜ道のダンディ』(2011年)
『ハラがコレなんで』(2011年)
『舟を編む』(2013年)
『ぼくたちの家族』(2014年)
『バンクーバーの朝日』(2014年)
『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年)
『町田くんの世界』(2019年)
『茜色に焼かれる』(2021年)
『月』(2023年)
などを見続けてきて、
優れた監督として、しっかり認知されている。
石井裕也監督の新作ならば見たいと思った。

松岡茉優に関しては、
『愛のむきだし』(2009年)
『ポテチ』(2012年)
『桐島、部活やめるってよ』(2012年)
『悪の教典』(2012年)
『映画 鈴木先生』(2013年)
などの出演映画で名前は知ってはいたものの、
(私好みの)美しい女優として、しっかり認知されたのは、
(意外にも)映画ではなくTVドラマで(しかも時代劇)、
『銀二貫』(2014年・NHK)で、真帆・おてつ(幼少期は芦田愛菜)を演じた時であった。
そのキリッとした目と、

清潔感のある美しい顔立ちにすっかり魅せられてしまった。

以降、注目するようになり、
『ちはやふる -下の句-』(2016年)
『ちはやふる -結び-』(2018年)
『blank13』(2018年)
『万引き家族』(2018年)
『蜜蜂と遠雷』(2019年)
『ひとよ』(2019年)
『劇場』(2020年)
『騙し絵の牙』(2021年)
などの出演作でレビューを書き、松岡茉優を論じてきた。
彼女の新作(しかも主演作)ならば見たいと思った。

で、公開直後に、
(佐賀での上映館である)イオンシネマ佐賀大和で鑑賞したのだった。

26歳の折村花子(松岡茉優)は、
幼少時からの夢だった映画監督デビューを目前に控え、気合いに満ちていた。

だが、物事はそう思うようにはいかない。
滞納した家賃は限界で、強制退去寸前。
業界の常識を押し付けてくる助監督・荒川(三浦貴大)からは露骨なセクハラを受け、
怒り心頭だ。
そんなとき、ふと立ち寄ったバーで、
魅力的だが空気を読めない男性・舘正夫(窪田正孝)と運命的な出会いを果たす。

ようやく人生が輝き始めたかに思えた矢先、
花子は卑劣なプロデューサー・原(MEGUMI)にだまされ、全てを失ってしまう。

ギャラももらえず、大切な企画も奪われた。
失意の底に突き落とされた花子を励ますように正夫が言う。
「花子さん、どうするんですか? 映画諦めるんですか?」
花子が答える。
「舐められたままで終われるか! 負けませんよ、私は」

イナズマが轟く中、反撃を決意した花子が頼ったのは、10年以上音信不通の家族だった。
妻に愛想を尽かされた父・浩(佐藤浩市)、
口だけがうまい長男・誠一(池松壮亮)、
真面目ゆえにストレスを溜め込む次兄・雄二(若葉竜也)。

そんなダメダメな家族が抱える“ある秘密”を暴き、
「自分にしか撮れない映画で世の中を見返してやる!」
と息巻く花子。
突然現れた二人に戸惑いながらも、花子に協力し、
カメラの前で少しずつ隠していた本音を見せ始める父と兄たち。

修復不能に思えたイビツな家族の物語は、思いもよらない方向に進んでいく。
そして、“ある秘密”がもたらす真実にとめどなく涙が流れる……

石井裕也監督がオリジナル脚本で描いたコメディドラマということで、
大いなる期待を持って鑑賞したのだが、
悲願の映画監督デビュー目前で“すべての夢を奪われた”花子(松岡茉優)が、
卑劣なプロデューサー・原(MEGUMI)や、監督の座を奪った荒川(三浦貴大)に対し、
運命的な出逢いをした正夫(窪田正孝)や、花子の“クセ強家族”と共に、
反撃していく物語……と思いきや、
後半、この家族が抱える“ある秘密”が明らかになった時、
物語は思いもよらない方向へと進み、驚きの展開をみせる。
期待は裏切られるが、
それは単に期待したものではなかったというガッカリではなく、
期待以上のものがやってきたという歓びに満ちたサプライズの如きものであった。
なので、期待以上の面白作であったし、大いに楽しませてもらった。
松岡茉優、窪田正孝、佐藤浩市、池松壮亮、若葉竜也という実力のある5人の俳優の、
ハイレベルな丁々発止のやりとりが笑いや感動を生む傑作であった。
石井裕也監督には『ぼくたちの家族』という家族映画の秀作があるが、(コチラを参照)
この『ぼくたちの家族』を進化させ、ポップ&ハッピーなタッチで描いたのが、
本作『愛にイナズマ』であったと言えよう。

『愛にイナズマ』は、“アフターコロナ”の現代が舞台なのであるが、
本作の脚本を石井裕也監督は(誰に頼まれるでもなく)2週間ほどで書き上げたのだという。
コロナ禍になって1年半ぐらい経ったころ、それまで感じた特大の苦しみや悲しみがあったにもかかわらず、いずれ何事も無かったように終わりが来るんだろうなと、そんな予感めいたものを感じたんです。人の存在がいくら蔑ろにされても、いずれは何事も無くうやむやにされていく。でも振り返ると、そういうことはこれまでも往々にしてあったなと。
また、コロナに端を発したワケのわからない新しいルールがどんどん出てきて、それを批判なく受け入れてしまうヤバさ、受け入れなければ徹底的に社会から糾弾されるヤバさもありました。そういう異常性は、コロナが暴いた事実だと思うんです。そういったものが着想のきっかけになったと思います。(「CINEMORE」インタビューより)
石井裕也監督は(着想のきっかけ)をこう話していたが、
コロナ禍だからこそ生まれた家族映画の傑作と言えるかもしれない。

監督以外で(まず)褒められるべきは、主演の一人、(折村花子を演じた)松岡茉優であろう。

ややもすればエキセントリックな演技をしがちな役柄ではあるのだが、
序盤は抑えめの演技で見る者の共感を誘い、
ここぞという時に(思い切り)振り切った演技で魅せる。
過去の作品では演技のやりすぎを感じることもあったが、
本作ではそれがない。
そのやりすぎない演技が、笑いを生み、見る者を泣かせもする。
松岡茉優は本当に好い女優になったな~と思う。

主演のもう一人、(舘正夫を演じた)窪田正孝。

(アベノマスクらしき)小さなマスクをして登場するシーンからして可笑しく、笑わされた。
彼はこの(アベノマスクらしき)マスクをたくさん所持しており、
何かある毎に取り出して皆に配ったりするのも(風刺が効いていて)実に可笑しかった。

映画の後半は家族映画の様相を呈するのだが、
家族ではない正夫が一人いるだけで、ギスギスした家族関係が緩和され、中和されていた。
花子(松岡茉優)も、正夫がいることで(興奮していても)落ち着きを取り戻し、
家族愛に目覚めていく。
正夫という部外者が一人いることで、
家族というものがより浮き彫りになっていたような気がした。
正夫を演じた窪田正孝の自然な演技が、それを可能にしたと思った。

卑劣なプロデューサー・原を演じたMEGUMI。

私は、MEGUMIを見ていたら、
同じような題材(家族映画)の、
『台風家族』(2019年)
『ひとよ』(2019年)
という二つの映画を思い出した。(コチラを参照)
なぜなら、(奇しくも)MEGUMIが3作共に出演していたから。
この2作に比べ、『愛にイナズマ』は格段に良かった。
それは、MEGUMIの演技が良かったから……とも言える。
花子の企画を奪い、ギャラも払わず、
言いつのる花子に対し、
「でもほら私、権限無いから。ごめんね。まあさ、頑張ろう。」
と、いけしゃあしゃあと言ってのけるプロデューサーを、
MEGUMIは実に巧く演じていた。

業界の常識を押し付けてくる助監督・荒川を演じた三浦貴大。

デリカシーが無く、図々しく、プライベートな領域にまでズカズカと土足で踏み込んで来るような姑息で卑劣な男を演じているのだが、
〈こういう男、どの業界にもいるよな~〉
と思わせるリアルな演技で、本作を盛り上げていた。
三浦貴大は本当に好い役者になったと思った。

携帯ショップの女を演じた趣里。

花子の父・浩(佐藤浩市)が、家族の皆と、妻の携帯の解約に携帯ショップへ行くのだが、
その携帯ショップで浩の担当をする店員の役が趣里で、
出演シーンは短いのだが、鮮烈な印象を残す。
5人(松岡茉優、窪田正孝、佐藤浩市、池松壮亮、若葉竜也)を相手に、
1人(趣里)で立ち向かう役で、(笑)
撮影終了後、豪華俳優陣を相手にして、
「アベンジャーズみたいな方々が強すぎて、終わってホッとしています」
と語っていたが、目力の強さで負けていなかったと思う。
かつて、趣里の主演作『生きてるだけで、愛。』(2018年)のレビューを、
……剥き出しの趣里が疾走する関根光才監督の傑作……
とのサブタイトルを付して書いたとき、
私は趣里について、若き日の岸田今日子に似ているとした上で、
趣里も、きっと将来、岸田今日子のような、
存在感のある個性的な大女優になっていくことだろう。
そういう意味でも、見ておくべき作品だと思われる。
と書いた。(全文はコチラから)
約5年前に書いたレビューであるが、
現在、趣里は、NHK朝ドラの主役を演じているし、
大女優への一歩を踏み出している感じがする。
私の予言もあながち間違いではなかったと思うのだが、如何。

その他、
花子の父・治を演じた佐藤浩市、

花子の長兄・誠一を演じた池松壮亮、

花子の次兄・雄二を演じた若葉竜也、

社会から理不尽で衝撃的な仕打ちを受ける新⼈俳優・落合を演じる仲野太賀、

誠一が雇われている会社のパワハラ社長を演じる高良健吾、

従業員の人生を大切にする運送会社の社長を演じる北村有起哉、

社会の不条理を知りながらも懸命に生きる料理屋の店主を演じる益岡徹など、

確かな演技力と存在感を持つ俳優陣が、本作を傑作へと押し上げていた。

前期高齢者の私は、少し長めの上映時間(140分)を心配していたが、
映像世界に引き込まれて、それほど長くは感じずに楽しむことができた。
今年(2023年)は、『月』『愛にイナズマ』の2作の秀作、傑作を公開した石井裕也監督。
これからも石井裕也監督作品から目が離せない。