
本作『LOVE LIFE』の存在は、
私の好きな女優・木村文乃の出演予定作品を調べているときに知った。

木村文乃という女優をこのブログで初めて論じたのは、10年前、
武井咲&松坂桃李主演の映画『今日、恋をはじめます』(2012年)においてだった。
そこで、私は、木村文乃について、次のように記している。
菜奈役の木村文乃。
原作コミックにはない映画のオリジナルキャラクターである菜奈という役を好演している。

中学時代、宇宙の勉強が大好きな京汰とは、一緒に研究者になることを夢見ていた間柄。
心地よかった京汰との微妙な関係が壊れるのを恐れ、
自分から「好き」と言えず逆にふってしまった……という過去を持つ。

木村文乃を意識して見るようになったのは、
NHKの朝ドラ『梅ちゃん先生』に出演しているのを観てから。
以前はあまりテレビを観なかったのだが、
最近は、かなり観るようになった。
カーナビやケータイやDVDプレーヤーなど、
ワンセグでテレビを観る機会がかなり増えたこともあるが、
日本の場合、映画スターとTVタレントの境界が曖昧で、
テレビを観ていないと、映画の出演者のことがよく分からないということがある。
さらに、邦画界はここ数年、T Vドラマを映画化したものが大半を占めるようになり、
ある程度T Vドラマを観ていないと、映画も語れないようになっている。
で、NHKの朝ドラ『梅ちゃん先生』を観たときのことなのだが、
看護婦の野島静子役で出ていた木村文乃にすっかり魅せられてしまったのだ。
謎めいた過去をもつ女性の役で、脇役ながら光り輝いていた。
それ以降、私は木村文乃見たさに『梅ちゃん先生』を観ていたと言っていい。

映画『今日、恋をはじめます』では、
日比野つばき(武井咲)と椿京汰(松坂桃李)との仲を邪魔するような役柄なのだが、
悪女という感じではなく、
なんだか爽やかで、好感がもてる“横恋慕”するヒール役という感じで、
「さすが木村文乃!」と掛け声をかけたいほどだった。

その後も、木村文乃の出演作は、ほとんど見ていて、
以下の作品についてはレビューも書いている。
『ボクたちの交換日記』(2013年)
『すべては君に逢えたから』「遠距離恋愛」(2013年)
『小さいおうち』(2014年)
『ニシノユキヒコの恋と冒険』(2014年)
『くちびるに歌を』(2015年)
『イニシエーション・ラブ』(2015年)
『ピース オブ ケイク』(2015年)
『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』(2016年)
『RANMARU 神の舌を持つ男』(2016年)
『追憶』(2017年)
『火花』(2017年)
『伊藤くん A to E』(2018年)
『羊の木』(2018年)
『体操しようよ』(2018年)
『居眠り磐音』(2019年)
『ザ・ファブル』(2019年)
『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』(2021年)
かように好きな木村文乃の新作主演映画『LOVE LIFE』は、
ぜひとも見たいと思った。


監督は、
『淵に立つ』(2016年)で、カンヌ国際映画祭ある視点部門の審査員賞を受賞するなど、
国際的に高い評価を得ている深田晃司監督。
このブログでも、『淵に立つ』の他、
『よこがお』(2019年)のレビューも書いていて、
私の好きな監督の一人である。


ミュージシャン・矢野顕子のアルバム「LOVE LIFE」に収録された同名楽曲をモチーフに、

「愛」と「人生」に向き合う夫婦の物語を描いているとのことで、
木村文乃が演じる主人公・妙子は、
愛する息子、そして再婚した夫と幸せな生活を送っていたが、
ある悲劇をきっかけに大きく運命が変わっていく……という物語らしい。

夫の二郎役に、永山絢斗、

妙子の元夫・パク役に、ろう者の俳優・手話表現モデルとしても活躍する砂田アトム、

二郎と再会する元恋人を山崎紘菜が務めている。

この手の映画は、佐賀では、2~3ヶ月遅れで上映されるのが普通なのだが、
本作に限っては、嬉しいことに、本来の公開日(2022年9月9日)に公開された。
で、ワクワクしながら上映館であるシアターシエマに駆けつけたのだった。

妙子(木村文乃)が暮らす部屋からは、

集合住宅の中央にある広場が⼀望できる。

向かいの棟には、
再婚した夫・⼆郎(永山絢斗)の両親が住んでいる。

小さな問題を抱えつつも、
愛する夫と愛する息子・敬太とのかけがえのない幸せな日々。

しかし、結婚して1年が経とうとするある日、夫婦を悲しい出来事が襲う。
哀しみに打ち沈む妙⼦の前に⼀⼈の男が現れる。
失踪した前の夫であり敬太の父親でもあるパク(砂田アトム)だった。

再会を機に、ろう者であるパクの身の周りの世話をするようになる妙子。

一方、⼆郎は以前付き合っていた山崎(山崎紘菜)と会っていた。

哀しみの先で、
妙⼦はどんな「愛」を選択するのか、
どんな「人生」を選択するのか……

深田晃司監督にしては珍しく、
メロドラマ的要素の強い物語であった。
いや、メロドラマ的要素は他の深田晃司監督作品にもあったが、
他の作品が純文学的な物語であったのに比べ、
本作『LOVE LIFE』は、大衆的な要素の強いものであった。

深田晃司監督は語る。
もともと自分はメロドラマというジャンルが大好きなんですが、本作は僕にとってメロドラマで、メロドラマの面白さというのは恋愛が成就する幸福感よりも、むしろ誰かを選ぶということは誰かを選ばないということの選択であり、恋愛が持っている本質的な残酷さがあると思っているんです。結局幸せな結婚があって、誰かを夫に選ぶということは、別の誰かを夫に選ばないということで。それはもう誰もがそういった残酷な選択をしながら生きている。それがメロドラマというジャンルだと明確に立ち上がってくるわけです。ですので、意地が悪いと思われるかもしれないけれど(笑)、それもまた人間の本質だと思っているんです。(「映画.com」インタビューより)
残酷な選択、裏切り、嘘というのは、
深田晃司監督作品の重要なテーマであるが、
今回の作品は、それがより大衆的に提示されているように感じた。
それは、深田晃司監督が(20歳のときに聴いた)矢野顕子の歌「LOVE LIFE」からインスパイアされた物語……ということと無関係ではないだろう。
深田晃司監督は、同じインタビューで、
「この歌を最高のタイミングで映画館に響かせることが、一番のモチベーションで……」
とも語っていたが、
事実、
最高のタイミングで「LOVE LIFE」のタイトルがスクリーンに表示され、
最高のタイミングでこの曲が流れ出す。
まるで、その一瞬のために、それまでの物語があったかのように……
そういう意味では、
1950年代から1970年代を中心に作られた歌謡映画の最新バージョンであるのかもしれない。

本作では、
妙子の元夫・パク(砂田アトム)が韓国籍のろう者という設定で、
韓国語手話が登場する。
昨年(2021年)見た『ドライブ・マイ・カー』を思い出させたが、
砂田アトムはもちろん、
木村文乃の手話表現も見事で、
動作や表情で伝達しなければならないという難しさはあったであろうが、
その先にある感動がより強められているように感じた。

手話の方が物事を伝えやすいと感じました。手話って曖昧な表現が少ないんです。“好き”“嫌い”もはっきり伝えられるので、思いを“察する”必要がありません。その意味では手話は気持ちよかったですね。発する言葉では嘘をつけるけど、手話は嘘がないうえに表情も加わるので正直な思いが伝わる。俳優としてはもちろんですが、一人の人間として手話を好きになりました。(「シネマトゥデイ」インタビューより)
とは、木村文乃の弁。

終盤、妙子(木村文乃)が、ある情景に遭遇したことから、
突然、踊り出すシーンがあるのだが、(予告編の最後にそのシーンがちょっとだけある)
これは、
『ジョジョ・ラビット』や、
『母なる証明』でのダンスシーンを想起させ、
心が震えた。
女優・木村文乃が、さらなる高みへ駆け上る瞬間を目撃したように感じた。

本作『LOVE LIFE』を鑑賞後、
〈木村文乃という女優の代表作が誕生した……〉
と思った。
木村文乃の映画出演作は多く、
優れた作品も少なくないが、
主演作は意外に少なく、(代表作はやはり主演作でなければという思いが私にはある)
代表作と呼べるような作品はこれまでなかったように感じる。
深田晃司監督作品によって代表作と呼べるものが誕生したことは、
木村文乃にとって、とても幸運なことであるし、
これからの女優としての活動にも良い影響を及ぼすことであろう。

本作は、
第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品され、
木村文乃も、深田晃司監督や砂田アトムと共に、レッドカーペットの上を歩いている。

惜しくも受賞は逃したが、
木村文乃にとっては貴重な体験になったに違いない。

私は、このレビューのサブタイトルを、
……木村文乃の代表作となった深田晃司監督作品……
としたが、
今後、より良い作品とめぐり逢い、代表作を更新していくことを切に願う。
それができる女優だと思っている。