
本作『PLAN 75』を見たいと思った理由は只一つ。
私が現在もっとも注目している女優・河合優実が出演しているから。

『サマーフィルムにのって』(2021年8月6日公開)
で、河合優実に出逢い、

『由宇子の天秤』(2021年9月17日公開)
で、河合優実の演技に驚嘆し、

『ちょっと思い出しただけ』(2022年2月11日公開)
で、河合優実の美しさに痺れ、

『愛なのに』(2022年2月25日公開)
で、河合優実のすべてに魅入らされてしまった。

『女子高生に殺されたい』(2022年4月1日公開)
に至っては、「河合優実に殺されてもイイ」とさえ思った。(爆)

今の私は、完全に、完璧に、「河合優実に取り憑かれている」のである。(コラコラ)
なので、小松菜奈や広瀬すずなどと同様に、
〈河合優実の出演作は全て見たい〉
と思うようになった。
そうして『PLAN 75』も私の鑑賞リストに載ったのだ。
調べてみると、
本作が長編デビュー作となる早川千絵監督が、

是枝裕和監督が総合監修を務めたオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」の一編として発表した短編「PLAN75」を自ら長編化したもので、
75歳以上が自ら生死を選択できる制度が施行された近未来の日本を舞台に、
その制度に翻弄される人々の行く末を描いたものだとか。
主演は倍賞千恵子。

河合優実の他、磯村勇斗、たかお鷹、ステファニー・アリアンらが共演している。
とにかく河合優実に早く逢いたくて、
私は公開初日(2022年6月17日)に映画館に駆けつけたのだった。

少子高齢化が一層進んだ近い将来の日本。
満75歳から生死の選択権を与える制度「プラン75」が国会で可決・施行され、
当初は様々な議論を呼んだものの、
超高齢化社会の問題解決策として世間に受け入れられた。

夫と死別し、ひとり静かに暮らす78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)は、
ホテルの客室清掃員として働いていたが、
ある日突然、高齢を理由に解雇されてしまう。

交通誘導員として働き始めるが、

住む場所も失いそうになった彼女は、「プラン75」の申請を検討し始める。

一方、
市役所の「プラン75」の申請窓口で働く岡部ヒロム(磯村勇斗)や、

死を選んだお年寄りに“その日”が来る直前までサポートするコールセンタースタッフの成宮瑶子(河合優実)は、「プラン75」という制度の在り方に疑問を抱くようになる。

また、フィリピンから単身来日した介護職のマリア(ステファニー・アリアン)は、
幼い娘の手術費用を稼ぐため、より高給の「プラン75」関連施設に転職し、
利用者の遺品処理など、複雑な思いを抱えて作業に勤しむ日々を送る。

果たして、
「プラン75」に翻弄される人々が最後に見出した答えとは……

結論から先に言うと、「傑作」であった。
〈河合優実を見に行っただけなのに、とんでもない「傑作」に出逢ってしまった……〉
というのが、偽ざる正直な感想。
驚きと衝撃が私の躰を貫き、
時間が経った今も、その傷痕(と言うと大袈裟かもしれないが)が疼いている。
こう書くと、刺激的な描写の多い「衝撃作」を思い浮かべる方もおられると思うが、
これが、まったく違う。
本作は、むしろ静謐な(ドキュメンタリータッチの)作品で、
主義主張を行わず、説明的な言葉やシーンがまったくない映画であったのだ。
それでいて、鑑賞者のイマジネーションを恐ろしいほどに刺激する。
説明的な描写はほとんどないのに、
監督が伝えたい(と思っているであろう)ことは、鑑賞者にもしっかり伝わってくる。
最近の日本映画は、過剰に説明し、何を言いたいかをはっきり主張する作品が多いのだが、
真逆と言ってもいいほどに説明を排し、想像の余白を(十二分に)残した作品なのだ。

映画を見る前は、
(ちょっと極端な)SF的な設定と思っていた「プラン75」であるが、
映画を見始めると、「プラン75」を何の違和感もなく受け入れている自分がいた。
スムーズに私の中に入ってきたのだ。
このことに(ふと)気づいたとき、我ながら、少なからず戦慄した。
映画は、
津久井ゆりやま園障害者殺傷事件を彷彿させる衝撃的なシーンから始まる。
ライフルを手にした若者が、老人のいる施設を襲撃し、
「社会の役に立たない老人は生きている価値がない」
と呟く。
残忍なシーンはないのだが、
この冒頭シーンで、不穏な時代の空気感を巧く表現しており、
「プラン75」の施行へ世論が一気に傾き、国会で可決され、
超高齢化社会の問題解決策として「プラン75」が世間に受け入れられていく。
映画の鑑賞者も、映画の中の世間の人々と同じ感覚で、
この「プラン75」を受け入れてしまう仕組みになっているのだ。
なので、「プラン75」の劇中CM映像も、すんなり心に入ってくる。(笑)
これは実に恐ろしい体験であった。
長編映画デビュー作にして「傑作」をものした早川千絵監督は、
そもそも、どうしてこの映画を作ろうと思ったのか?
私は10年ほどニューヨークに住んで2008年に帰国したのですが、久し振りに帰ってきた日本では自己責任論という考え方がとても大きくなっていました。
社会的に弱い立場にいる人たちへの圧力が厳しく、みんなが生きづらい社会になっていた。それが年々ひどくなると感じていた2016年夏、相模原の障害者施設で起きた事件にものすごい衝撃を受けました。こういう社会になってしまったから起こった事件なのではないかと考えるうちに「プラン75」という設定を思いつきました。このまま行くと、本当に日本でこういうことが起きてしまうかもしれないと思ったのがきっかけです。(パンフレットのインタビューより)
早川千絵監督はこう語っていたが、

確かに、2000年半ば以降、日本では「自己責任」という言葉が跋扈し、
社会的に弱い立場の人を叩く傾向にあった。
今に続く「不寛容な時代」の幕開けであったかもしれない。
2025年には日本の国民の5人に1人は75歳以上になると言われており、
高齢者の多さが社会問題になってきている。
そんな現代背景を上手く取り込み、
「プラン75」の施行によって、高齢者は次々と排除されていく。
当事者である高齢者は、この制度をどう受け止めるのか?
(いずれ自分も高齢者になる)若い世代は、この制度をどう考えるのか?
映画は、登場人物たちの日常を淡々と描きながら、
見る者に静かに問いかけてくる。

この映画を「傑作」にしている第一の功労者は、
やはり、主人公の角谷ミチを演じた倍賞千恵子であろう。

多くの皺がある素顔に近い顔で演じていたのだが、
その静かな演技が見事で、唸らされた。
説明的な描写がほとんどない映画なので、
表現は難しかったと思うが、その苦労を、
台本ではもっと描かれているところを、監督はずいぶんけずっていらっしゃいます。演じながら、何にも言わないでいることの難しさを思いました。ミチが思っていることを、その場にいるだけで何も言わずに表現するには、自分の肉体がそうなっていないと表現できませんから。(パンフレットのインタビューより)
と、語っていたが、
ただ佇んでいるだけで、ミチの心情が見る者にも伝わってきて秀逸であった。

映画では78歳という設定であるが、
演じた実際の彼女は1941年6月29日生まれなので80歳。(2022年6月19日現在)
〈もう80代だったのか……〉
と感慨深い。
『男はつらいよ』シリーズ(1969年~2019年)
における、寅さんの妹・さくらの役で有名だが、
私にとっての倍賞千恵子は、それより前の、
ヒット曲「さよならはダンスの後に」(1965年)の歌手として強く印象づけられている。
この曲が毎日ラジオから流れていて、
当時、小学5年生だった私の心に、甘く切ない「大人の歌」として刻み込まれた。
この曲が入ったCDを買い、今も車で時々聴いているが、
聴くだけで、あの当時の世相や自分の心情が蘇ってきて懐かしい。
後年、アニメ『美少女戦士セーラームーン』の主題歌「ムーンライト伝説」を聴いたとき、
妙に懐かしく感じたのだが、
曲が「さよならはダンスの後に」に酷似しているということで訴訟になり、
最終的に著作権使用料の一部を「さよならはダンスの後に」の作曲者(小川寛興)に分配することで和解した経緯を後から知った。
「さよならはダンスの後に」が好きという下地があったからこそ、
「ムーンライト伝説」も好きになったのだと、
妙に納得したものだった。
話が脱線してしまったが、
本年度のいろんな映画賞で主演女優賞の候補となり、
実際に最優秀主演女優賞を受賞する(であろう)レベルの演技であったと思う。

市役所の「プラン75」の申請窓口で働く岡部ヒロムを演じた磯村勇斗。

『ヤクザと家族 The Family』(2021年)のレビューで、
愛子(寺島しのぶ)の息子・翼を演じた磯村勇斗。

『恋は雨上がりのように』(2018年5月25日公開)では、
軟弱なチャラ男というイメージであったが、
TVドラマ「今日から俺は!!」(2018年10月14日~12月16日、日本テレビ系)では、
イメージを一新するような不良の巣窟・開久高校の“頭”相良を演じ、
そのあまりのハマリ様に大いに驚かされ、そのギャップを楽しませてもらった。
本作での役は、「今日から俺は!!」の相良の延長線上にあるとも言えるが、
漫画チックだったTVドラマとは違って、演技に深みと凄みがあり、
そこに磯村勇斗という俳優の成長を感じることができた。
とくに、ラストシーンの彼の表情とセリフは素晴らしかったと思う。

と書いたのだが、
今年1月に公開された『前科者』(2022年)のレビューでも、
佳代の幼なじみの刑事・滝本真司を演じた磯村勇斗。

NHKの朝ドラ『ひよっこ』(2017年)では、
ヒロイン・みね子(有村架純)に思いを寄せた後に、
結婚相手となる前田秀俊(ヒデ)役を演じていたので、
有村架純とは4年ぶりの共演となった。
『今日から俺は!!劇場版』(2020年)
『ヤクザと家族 The Family』(2021年)
『東京リベンジャーズ』(2021年)
などを経て、
俳優として、朝ドラ『ひよっこ』のときよりも数倍大きくなっている印象があり、
本作『前科者』でも、佳代(有村架純)と対峙しても負けないオーラを纏っていた。
中学時代に同級生だった佳代と真司は、
過去のある事件によって複雑な関係にあるのだが、
その事件が、佳代が保護司になる動機、キッカケになっており、
(それはまた真司が刑事になる動機、キッカケでもあったろう)
佳代の人生に関わる重要な人物として滝本真司という存在があった。
その真司を磯村勇斗は真摯に演じ、
作品の質を高めていたと思う。

と書き、
俳優として成長しているのを感じたのだが、
本作『PLAN 75』では、俳優として、さらに大きく飛翔しているのを感じた。
「プラン75」の申請者に、市役所の職員として淡々と説明しながらも、
申請に来た伯父の岡部幸夫(たかお鷹)と再会したことで、

心情に変化が生じ、

意外な行動をとることになる青年を、静謐に、真摯に演じており、
主演作ではないものの、磯村勇斗という俳優の初期の代表作になったと思った。

彼も、本年度のいろんな映画賞で、助演男優賞に輝くことであろう。

「PLAN 75」関連施設で働く女性・マリアを演じたステファニー・アリアン。

フィリピンから単身来日した介護職のマリアは、
生まれつき心臓が弱い幼い娘の手術費用を稼ぐため、
より高給の「プラン75」関連施設に転職し、
利用者の遺品整理など、複雑な思いを抱えて作業に取り組む毎日だ。
過酷な仕事をさせられている海外から出稼ぎに来た外国人労働者の象徴として描かれている部分もあるが、早川千絵監督には、違う狙いがあったようだ。
あのキャラクターを入れたのは、フィリピンという国が、家族の結束やコミュニティーのつながりがとても強く、それこそが今、日本が失っているものではないかと思うからです。フィリピン人の友人を見ていても、すごく明るくて、困っている人がいたら赤の他人でもすぐ助ける。迷惑をかけたくないからと人に助けてもらうことをちゅうちょしてしまう日本とは正反対ですよね。(「週刊エコノミスト」インタビューより)
今の日本社会との対比という意味でのキャスティングであったようだ。
そのマリアを演じたステファニー・アリアンの、
わざとらしさのない、真っ直ぐで素直な演技は素晴らしく、
彼女の演技が、本作を「見るべき映画」に押し上げる一助になっていたことは間違いない。

コールセンタースタッフの成宮瑶子を演じた河合優実。

私は、河合優実が出演していうということで本作『PLAN 75』を見たのだが、
なかなか彼女がスクリーンに現れず、やきもきしていたところ、
上映時間(112分)の半分を過ぎた頃にやっと登場し、ホッとした。(笑)


ミチ(倍賞千恵子)は、孫ほど年若い担当の成宮瑶子(河合優実)を「先生」と呼び、
毎回15分の会話を楽しみにしているのだが、
やがて二人は実際に対面し(規則では会うことは禁じられている)、さらに打ち解けていく。

それまで「プラン75」に何の疑問も持たすにいた瑶子は、
年齢によって命の線引きをすることに理不尽さを感じ始める。
疑問点や理不尽さを、こちらも(ミチやヒロムと同様に)言葉で発するのではなく、
表情や躰の動きで表現しなければならず、とても難しかったと思う。
出演シーンはそれほど多くはないが、
限られた時間のなかで、河合優実は、しっかりと女優としての実力を示し、
並みの女優ではないことを強く印象づけた。

今年(2022年)の河合優実の出演作は、
『ちょっと思い出しただけ』(2022年2月11日公開、松居大悟監督)
『愛なのに』(2022年2月25日公開、城定秀夫監督)
『女子高生に殺されたい』(2022年4月1日公開、城定秀夫監督)
『冬薔薇』(2022年6月3日公開、阪本順治監督)
『PLAN75』(2022年6月17日公開、早川千絵監督)
『百花』(2022年9月9日公開予定、川村元気監督)
『線は、僕を描く』(2022年10月21日公開予定、小泉徳宏監督)
『ある男』(2022年秋公開予定、石川慶監督)
と、8本もあり、
佐賀でも全作品見ることができそうなので、すごく楽しみ。
今年はこれまで、
『ちょっと思い出しただけ』『愛なのに』『女子高生に殺されたい』『PLAN75』
の4作を見ているが、(『冬薔薇』は佐賀ではシアターシエマで7月22日公開予定)
それぞれ、まったく違った役で、まったく異なった演技をしており、
この4作を見ただけでも、河合優実の凄さを感じさせられている。
河合優実もまた、本年度のいろんな映画賞で助演女優賞を受賞するであろうし、
「一日の王」映画賞でも、最優秀助演女優賞の最有力候補である。

この他、
ヒロムの伯父・岡部幸夫を演じた、たかお鷹、

ミチの職場の同僚・牧稲子を演じた大方斐紗子、

マリアと同じ「PLAN 75」関連施設で働く藤丸釜足を演じた串田和美などが、
印象深い演技で作品の質を高めていた。

早川千絵監督自身は、すでに、
2022年5月の第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で、
カメラドール(新人監督賞)に選ばれているが、

日本でも、本年度のいろんな映画賞で監督賞を受賞することであろう。

早川千絵監督の脚本と演出力、
倍賞千恵子、磯村勇斗、ステファニー・アリアン、河合優実のそれぞれの演技、
音楽、美術、照明、撮影などのスタッフの優秀さを見るにつけ、
今年(2022年)の日本映画は、本作『PLAN 75』を抜きにしては語れないであろう。
現代版『楢山節考』とも言うべきこの映画に引き合わせてくれた河合優実に感謝したい。
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