
本作『かそけきサンカヨウ』を見たいと思った理由は、5つ。
①今泉力哉監督作品であること。

私の好きな監督の一人で、これまで、
『愛がなんだ』(2019年)
『アイネクライネナハトムジーク』(2019年)
『mellow』(2020年)
『あの頃。』(2021年)
『街の上で』(2021年)
のレビューを書いている。
今泉力哉監督作品は、
前衛的だとか、これまで見たことない映像世界というのではなく、
ありがちな題材で、ゆるめのテンポでストーリーが展開するのだが、
凡庸な映画にならずに、最後まで興味を持って鑑賞させられてしまう。
そして、
主演俳優のみならず、
脇役の俳優も丁寧に演出し、
時には主演俳優よりも際立たせることもあり、
常に新しい発見がある。
『愛がなんだ』では、深川麻衣、若葉竜也、江口のりこ、
『アイネクライネナハトムジーク』では、恒松祐里、森絵梨佳、
『mellow メロウ』では、岡崎紗絵、志田彩良、松木エレナ、
『あの頃。』では、仲野太賀、若葉竜也、中田青渚、芹澤興人、
『街の上で』では、中田青渚、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり
というように、
今泉力哉監督作品をきっかけに知ることができ、好きになった俳優、
知ってはいたが、あらためて良い俳優であることを再認識させられた俳優も多い。
かように、今泉力哉監督作品は私の中で評価が高く、
新作『かそけきサンカヨウ』も楽しみにしていた。
②原作が窪美澄の小説であること。

窪美澄の小説が原作のタナダユキ監督作品『ふがいない僕は空を見た』(2012年)を見て、
……田畑智子の熱演が光る傑作……
とのサブタイトルを付してレビューを書き、
私は、2012年公開の日本映画のベストテンで、3位に選出した。
映画が良かったので、原作の窪美澄の小説も読んでみたのだが、
女性の「性」を真摯に追求し続ける作家……という感じで、
原作にも惹かれるものがあり、窪美澄という作家の名が私の脳にしっかり刻まれた。
だが、以降、窪美澄の小説が映画化されることはなく、残念に思っていたところ、
TVドラマで「やめるときも、すこやかなるときも」(2020年1月21日~3月24日、日本テレビ)が映像化され、私の好きな奈緒の好演もあって傑作ドラマになっていて感動した。
なので、映画『かそけきサンカヨウ』の原作が窪美澄の小説と知って、
〈この作品は絶対に見よう!〉
と思っていた。
③主演が志田彩良であること。

志田彩良という女優を知ったのは、
TVドラマ「チア☆ダン」(2018年7月13日~9月14日、 TBS)であったが、

志田彩良という女優を強烈に印象付けられたのは、
今泉力哉監督作品『mellow メロウ』であった。
……岡崎紗絵、志田彩良、松木エレナが魅力的な恋愛群像劇……
とのサブタイトルを付してレビューを書いたのだが、
そこで私は志田彩良について次のように記している。
近くの美容室の娘、中学生の宏美を演じた志田彩良。

【志田彩良】
1999年7月28日生まれ、神奈川県出身。
主な出演作品は、
テレビドラマでは、
「チア☆ダン」(2018年/TBS)、
「his~恋するつもりなんてなかった~」(2019年/メ~テレ)、
など。
映画では、
『ひかりのたび』(2017年)
『きらきら眼鏡』(2018年)
『パンとバスと2度目のハツコイ」(2018年)
など。
2019年、今泉力哉と玉田企画の舞台「街の下で」で初舞台。
大人びた雰囲気で、
とても中学生には見えなかったが、
中学の後輩たちから憧れられる役で、
特に、後輩・水野陽子(松木エレナ)とのやりとりが素晴らしかった。

中学では、誰よりも大人びた先輩であるが、
実社会では、まだ大人には相手にされない女の子であり、
その揺れる心が巧く表現されていた。
今泉力哉監督作品に多く出演しており、
これからが楽しみな女優である。

最近では、
TVドラマ「ドラゴン桜」第2シリーズ(2021年4月25日~6月27日、TBS)での、
小杉麻里役が良かったし、(このドラマで共演した鈴鹿央士と、映画『かそけきサンカヨウ』でも再び共演している)

〈志田彩良の主演映画なら絶対に見たい!〉
と思った。
④菊池亜希子、西田尚美、石田ひかりがキャスティングされている。



『森崎書店の日々』(2010年)の菊池亜希子、
『ひみつの花園』(1997年)の西田尚美、
『ふたり』(1991年)の石田ひかり。
思い出深い、私の好きな作品で主演していた3人なので、
〈この3人が揃って出演している映画なら見たい!〉
と思った。
⑤タイトルに私の好きな花の名「サンカヨウ」があったから。

サンカヨウは九州には自生しない花なので、
北アルプスに登山したときに初めて目にし、好きになった。
槍ヶ岳に登ったときにも見たし、
剱岳に登ったときにも、白馬岳に登ったときにも見た。
だが、一番印象に残っているは、
2013年に、新穂高温泉から入り、双六岳、三俣蓮華岳、鷲羽岳、祖父岳、雲ノ平、薬師岳を経て、折立から出るルートを歩いたときだった。
遠征2日目。
わさび平小屋から歩き出し、小池新道を登っているときであった。
その日は朝から雨が降っており、景色はまったく見えず、少なからずガッカリし、
私は足もとに咲く高山植物だけを楽しみに歩いていた。
そんなとき、サンカヨウの花に出逢った。
普段は真っ白い花びらのサンカヨウだが、(2012年、栂海新道で撮影)

雨に濡れると花びらが半透明になる。(2013年、小池新道で撮影)

その、向う側が透けて見るほどになったサンカヨウの花びらに見惚れてしまった。
その後、立ち寄った鏡平山荘で、私は、「北アルプスで一番美しい花」に出逢うのだが、
詳しいことが知りたい方はコチラから。(コラコラ)
この夏の美しい思い出と共に、サンカヨウは私にとって特別の花になっているのだ。
だから、タイトルに「サンカヨウ」が使われている映画は見なければ……と思った。
今年(2021年)の10月15日に公開された作品であるが、
佐賀では約2ヶ月遅れで(シアターシエマで)上映され始めた。
で、12月14日に、牛尾山に登った後に、鑑賞したのだった。

幼い頃に母が家を出て、
ひとりで暮らしを整えられるようになっていった国木田陽(志田彩良)は、

帰宅してすぐに台所に立ち、
父とふたり分の夕飯の支度にとりかかるのが日課だ。
ある夜、父・直(井浦新)が思いがけないことを陽に告げる。
「恋人ができた。その人と結婚しようと思う」

ふたり暮らしは終わりを告げ、
父の再婚相手である美子(菊池亜希子)とその連れ子の4歳のひなたと、
4人家族の新たな暮らしが始まる。

新しい暮らしへの戸惑いを、
同じ高校の美術部に所属する幼なじみの清原陸(鈴鹿央士)に打ち明ける陽。

実の母・佐千代(石田ひかり)への想いを募らせていた陽は、
それが母であることは伏せたまま、
画家である佐千代の個展に陸と一緒に行く約束をするが……

サンカヨウは雨に濡れると花びらが半透明になるのだが、
雨に濡れたサンカヨウのように、透明感のある美しい映画であった。
何度でも見たいと思わせてくれる映画であり、
私の好きな映画……であった。
今泉力哉監督作品というと、どうしても『愛がなんだ』の、
テルコ(岸井ゆきの)とマモル(成田凌)とすみれ(江口のりこ)の、
クセ強めの3人の(恋愛という)イメージが先行するので、
本作『かそけきサンカヨウ』は、今泉力哉監督作品にしては異質のものに見えがちだが、
ぜんぜんそんなことはなくて、
『愛がなんだ』においても、今泉力哉監督らしさは、
上記の3人のシーンよりも、むしろ、
ナカハラ(若葉竜也)と葉子(深川麻衣)の関係を描いた部分にあり、
そのことに関して、私は、レビューで、次のように記している。
カメラマンのアシスタントをしていたナカハラは、
その後、小さな画廊のようなところで、「一瞬の夢」という写真の個展を開く。

そこへ、葉子がやってくる。

「どうして……」
と驚くナカハラに対し、
「あなたの名前で検索したら、出てきたから……」
と答える。
このシーンは、原作にはないらしいが、
このシーンを付け加えたことで、
ナカハラと葉子の、それぞれの性格や心情がよりよく表現できていたように思った。
自分を撮ったナカハラの写真を見て、
葉子が、自分に対するナカハラの想いを知る(感じる)シーンが秀逸。

その後の二人がどうなるのかは分らない(描かれていない)が、
どうなろうとも、葉子が個展に来てくれたことで(そのことだけで)、
ナカハラはこれからも生きていけるのではないかと思った。

深川麻衣自身も、舞台挨拶のとき、「印象に残っているシーンは?」と訊かれて、
私は原作にはなかった写真展のところです。脚本を読んだときも、あのシーンがあるとないとではすごく違うと感じて、とっても好きなシーンです。
と答えていたが、
私にとっても、この映画で一番好きなシーンであった。

『愛がなんだ』は原作が角田光代の同名小説ということもあり、
前半は彼女の個性に引きずられている部分もあるが、(そこを評価する人が多いのも事実)
私は、(原作にはない)ナカハラと葉子とのシーンの方により魅力を感じたし、
今泉力哉監督の本質は、むしろナカハラと葉子の方にあるのではないか……
その今泉力哉監督の良き部分を本作『かそけきサンカヨウ』は継承していると思った。

本作は、窪美澄の小説「かそけきサンカヨウ」を、
今泉力哉監督自ら「映画化したい」と希望し、実現したもので、
今泉力哉監督が望むシチュエーションがこの小説にあったということだと思うが、
窪美澄はこの小説に込めた思いを次のように語っている。
今作に関しては、それこそ「幽けき」心の動きを書いてみたいと思いました。小さな世界をさらに顕微鏡で見ている感じで、ドラマチックな展開も抑揚もない。本当に地味な作品です。ただ、岩清水のように清らかで美しい物語になればいいなと思いながら書きました。(「カドブン」スペシャル対談より)
そのことに関し、今泉力哉監督も次のように語る。
僕もオリジナルの作品をつくるとき、葛藤や衝突の山の高さが低いんです。他人がつくった映画を観ていて、たまにクライマックス的な大きい山を見てしまうと「つくりものだ……」と思ってしまうときがあって。僕は小さな山でも十分感動できるので。僕が描きたいのは、低い山、小さな山なんですよね。窪さんがおっしゃったように、こぼれ落ちてしまう感情や、スポットが当てづらい物事に興味がある。そういう視点は似ているかもしれませんね。(「カドブン」スペシャル対談より)
登山が好きな私は、
「岩清水のように清らかで美しい物語になればいいなと思いながら書きました」
という窪美澄の言葉、
「僕は小さな山でも十分感動できるので。僕が描きたいのは、低い山、小さな山なんですよね」
という今泉力哉監督の言葉に共感するし、
映画『かそけきサンカヨウ』は本当に、
小さな山のように小さな物語ではあったが、
岩清水のような清らかで美しい物語であったと思う。

主人公の国木田陽を演じた志田彩良。

これまでも映画やTVドラマで彼女を見てきたが、
今回、主演ということもあって、
志田彩良という女優をじっくり見させてもらった。
父親の再婚に戸惑い、
同級生への思いに心を揺らし、
悩みながら成長していく女子高校生の陽を演じていたのだが、
大人ではないが、子どもでもないという、
十代の女性の心情を繊細に演じていて感心させられた。
そして、つくづく好い女優だなと思った。
今後、どのような女優に育っていくのか、楽しみでならない。

父の再婚相手で陽の新しい母親・美子を演じた菊池亜希子。

彼女が登場するだけで、場の雰囲気が変化するのが判った。
独特の雰囲気を纏った女優だと思う。
菊池亜希子の初主演映画『森崎書店の日々』(2013年)は私の好きな作品であるのだが、
そのレビューで、私は、
とても自然体で、なんだかドキュメンタリーでも見ているような感じだった。
オーバーアクションの熱演タイプが多い若手俳優の中で、きわめて貴重な存在。
これからが楽しみな女優だ。
と書いたのだが、(全文はコチラから)
本作『かそけきサンカヨウ』での演技も自然体で、
フワッと包み込むような雰囲気があり、
『森崎書店の日々』のときの彼女が8年の年月を経て再び現れたような、
そんな気がした。

『かそけきサンカヨウ』も好きな映画になったのは、彼女の存在が大きい。

陽の産みの親・佐千代を演じた石田ひかり。

原作では少ししか登場しないが、
映画では登場シーンを増やしてあり、
原作よりも映画の方が重要度が増し、佐千代の存在が大きくなっている。
石田ひかりをキャスティングした理由もそこにあるのだろうが、
陽と(血を分けた親子であるという)同質の透明感があり、
陽との絆のようなものも自然に解らせてくれた。
若い頃の石田ひかりも良かったが、
今の石田ひかりの方が私にはより輝いて見えた。

陸の母・清原夏紀を演じた西田尚美。

原作では、陸が陽に語る言葉のなかでは「母」として登場するが、
清原夏紀という名前を持った人物としては登場せず、
映画でのみの役柄である。
陸の家では、祖母(父の母親)と同居しており、(梅沢昌代が演じている)
祖母の言いなりになっている(ように見える)母をふがいないと感じている陸に対し、
終盤、陸に、祖母に対する素直な思いを語るシーンは秀逸で、
大人は子供が考えるほど単純じゃないということを陸に解らしめる。
原作にはないこの重要なシーンを付け加え、
西田尚美という優れた女優をキャスティングした今泉力哉監督の才能に目を瞠った。

陽と陸の同級生・鈴木沙樹を演じた中井友望。

鈴木沙樹にも原作にはないシーンがあり、
それは、陽から告白された陸が、沙樹に相談するシーン。
陸が、陽への気持ちが自分でも分らず、
〈もしかして沙樹の方が好きなのかも……〉
と思いつつ沙樹に相談するのだが、
沙樹は陸の自分への思いを勘違いだときっちり正し、
「一番言いたいことが言えないってことはさ、それって好きってことなんじゃないの?」
と、断言する。
雨が降っている中でのこのシーンは、
青春映画としても名シーンで、
沙樹を演じた中井友望という女優の名もしっかりと私の心に刻まれた。

本作のレビューのサブタイトルを、字数の関係で、
……志田彩良、菊池亜希子が好い今泉力哉監督作品……
としたが、本当は、
……志田彩良、菊池亜希子、石田ひかり、西田尚美、中井友望が好い今泉力哉監督作品……
としたかった。
それほど女優たちの演技が光っていた作品であった。