
本作『ひらいて』(2021年10月22日公開)は、
美しき芥川賞作家・綿矢りさが、高校生による禁断の三角関係を描いた同名小説を、


『ミスミソウ』(2018年)、『樹海村』(2021年)の山田杏奈主演で映画化したもので、

監督は、オムニバス映画『21世紀の女の子/I wanna be your cat』(2019年)で注目を集めた若手監督・首藤凜。

私は、綿矢りさの良い読者ではないが、原作となる「ひらいて」は読んでいたし、
山田杏奈は注目している女優であったし、
首藤凜監督作品『21世紀の女の子/I wanna be your cat』も鑑賞し、
レビューを書いていたので、
映画『ひらいて』には関心があった。
だが、
〈この映画を見たい!〉
と、強く思ったのは、
ある女優が重要な役で出演していたからであった。
その女優の名は、芋生悠。
昨年(2020年)、外山文治監督作品『ソワレ』を見て、
芋生悠の演技と存在感に感銘を受け、
そのレビューで、私は次のように記した。(全文はコチラから)
もう一人の主人公・タカラを演じた芋生悠。



【芋生悠】(いもう・はるか)
1997年12月18日、熊本県生まれ。
2014年、「ジュノン・ガールズ・コンテスト」にてファイナリストに選ばれる。
翌年、女優業をスタート。
2016年、『バレンタインナイトメア』で映画デビュー。
『マタードガス・バタフライ』(2016年)で映画初主演を飾る。
『東京喰種 トーキョーグール』(2017年)や、
『斉木楠雄のψ難』(2017年)などでも印象的な役どころを好演。
主な出演作に、
『恋するふたり』(2019年)、
『左様なら』(2019年)、
『37 Seconds』(2020年)、
『#ハンド全力』(2020年)などがある。
豊原功補演出の「後家安とその妹」では舞台女優としての力量も発揮。
写真集に、初舞台「欲浅物語」の舞台裏を追いかけた「はじめての舞台」がある。
趣味は美術で、本人のTwitterなど、ネット上でいくつか描いた絵を見られる。
高校も美術コースで、油絵専攻だった。
特技は書道、空手、水泳、長距離走、百人一首、バスケットボールなどで、
特に書道は、師範の資格を取得しており、
ファースト写真集『はじめての舞台』(2018年)では題字を書いている。

私が初めて芋生悠という女優を認知したのは、
映画『野球部員、演劇の舞台に立つ!』(2018年2月24日公開)においてだった。
演劇部の美術担当の川上智花を演じていて、

この配役には、
高校が美術コースで油絵専攻だったことや、
趣味は美術と公言していることなども影響しているのかなと思った。

本作では、体当たりとも言える演技をしていて、

裸も厭わぬ演技は、見る者の心を打つ。

以来、芋生悠の出演作は、なるべく見るようにしていたのだ。
本作は、芋生悠の主演作ではないが、
主演と同じくらい重要な役とのことで、
ワクワクしながら公開初日に映画館に向かったのだった。

高校3年生の木村愛(山田杏奈)は、
成績もよく社交的でクラスの人気者。

そんな彼女の片想いの相手は、
同じクラスの西村たとえ(作間龍斗)。

目立たず、教室でもひっそりと過ごす地味なタイプのたとえは、
どこか人と関わりを持つことを避けているように見え、
愛はなかなか近づけずにいた。
そんなたとえが誰かからの手紙を大事そうに読んでいる姿を偶然目撃した愛は、

その手紙が気になって仕方がない。
ある日の深夜、
学校に潜り込もうという男子たちの誘いに乗った彼女は、
「教室に忘れ物をした」とごまかして単独行動をとり、
たとえのロッカーの中から手紙を発見する。

それは、たとえの「秘密の恋人」からの手紙で、

たとえの彼女は、糖尿病の持病を抱える陰気な少女・新藤美雪(芋生悠)だった。

学校でも目立たない美雪とたとえが密かに交際していることを知った愛の思いは乱れるが、
その気持ちを隠して美雪に接近し、
たとえと付き合っていることを確かめると、
猛烈に嫉妬しながらも、彼女に興味を抱き、
美雪との関係を深めていくのだった……


木村愛(山田杏奈)は、
好きな男の子の彼女・新藤美雪(芋生悠)に接近し、
誘惑のようなことをするのだが、

美雪は、思ってもみない方向から自分を受け入れてくれ、
戸惑うと共に、そんな美雪の奇妙な関係性に、愛は強く惹かれていく。
この屈折した同性愛が、本作の主旋律を成すのだが、
山田杏奈と芋生悠が、
女子高校生のガラスのような心情を繊細に演じ、感動させられた。

首藤凜監督が17歳の頃に綿矢りさの小説「ひらいて」に出会い、感動し、
「この映画を撮るために監督になった」
と、どこかで語っていたが、
そんな監督の思いがこもった秀作であったと思う。
女子同士の同性愛とはちょっと違うけれど、
日本の女子高生版『燃ゆる女の肖像』、
日本の女子高生版『アンモナイトの目覚め』といった感じもして、
私が『燃ゆる女の肖像』のレビューのサブタイトルに使った、
……女性こそが美しく、貴く、尊いものだと思わされた……
という想いが蘇えった。

主人公の木村愛を演じた山田杏奈。

山田杏奈という女優を初めて認知したのは、
芋生悠と同じく、
『野球部員、演劇の舞台に立つ!』(2018年)
という映画であったのだが、


ここ数年はホラー映画に出ているというイメージが強くて、
山田杏奈の出演作とはしばらく縁がなかった。
ところが、現在、NHKで土曜日18:05から放送中のドラマ「大江戸もののけ物語」で、
ヒロインのおようを演じており、

その清楚で健気な佇まいにすっかり魅せられてしまった。

『ひらいて』の木村愛という役は、
時代劇のおようとは真逆といってもいいほどかけ離れた役であったが、
孤独をまとった佇まいは共通しており、
山田杏奈演じる木村愛に魅せられた。
首藤凜監督は、キャスティング理由を、
愛は絶対に10代の女優さんに演じて欲しかったんです。当事者として感じてほしかったし、愛の気持ちがわからなくてもいいから、愛として生きてくれる同世代の女優さんで、女の子同士のベッドシーンもしっかり演じきってくれる人を探していました。愛と美雪のベッドシーンはとても重要で、こだわって撮りたいと思っていたので。
山田さんに会ったとき、とても面白い人だと思いました。芸歴も長くて真面目できちんとしているのですが、素の部分をあまり隠さないというか、眠いときはすごく眠そうにしているし(笑)、自意識からはみ出してくる部分が面白くて、愛に似ていると感じ、一緒にお仕事したい、木村愛を任せたいと思いました。(「映画board」インタビューより)
と語っていたが、
山田杏奈は、魅力的かつ不可解な主人公を見事に演じ切っており、感心させられた。

新藤美雪を演じた芋生悠。

芋生悠の演技に関しては、『ソワレ』以上に魅せられてしまった。
ある意味、山田杏奈が演じた主人公・木村愛よりも難役で、
首藤凜監督は、
美雪は、私の中では特に原作とは大きく違うキャラクターなんです。病弱なのは同じだけれど、原作では大変な美少女の設定です。綿矢さんの文章では、その容姿だけではなく内面の魅力が子細に伝わって来るのですが、映像でそれをやると「そりゃ、こんな美少女好きになっちゃうわ」という入りになってしまいかねない。
映画では、愛が持っていないものを美雪は持っているというのを、あえてわかりずらく見せたくて、芋生さんとは最初に美雪について、いろいろ話をしました。(「映画board」インタビューより)
と語っていたが、
「愛が持っていないものを美雪は持っている」という部分が巧く表現されていて、
芋生悠に、芋生悠の表現力に、121分間、釘づけであった。
原作者の綿矢りさも、
芋生さん演じる美雪の笑顔は、その笑顔を見て愛のブレーキきかなくなっていく感じが伝わってきました。包容力ともまた違う魅力ですね。美雪がまっすぐ愛を見て「神様みたいに可愛いね」って言うシーンの、邪気が全然ない感じとか。自分の母親との関係も、絶対に傷つけない良い娘でいようとしていて。嫉妬心や警戒心が全然ないところがすごく“美雪”って感じでした。(「SCREEN ONLINE」インタビューより)
と、芋生悠を絶賛していたが、
「神様みたいに可愛いね」という言葉は、美雪から愛に発せられるが、
私は美雪こそ、神様みたいに可愛くて美しいと思った。(コラコラ)
芋生悠の次作にも期待したところだが、
次作は、清水崇監督のホラー映画『牛首村』。(笑)
木村拓哉と工藤静香夫妻の次女・Kōki,の女優デビュー作にして映画初主演作なので、
見てみたい気持ちもあるが、果たして……

西村たとえを演じた作間龍斗。

首藤凜監督は、キャスティング理由を、
たとえ役は、あまりしゃべる役ではないので、女の子が「私だけが見つけた!」と思える、ちょっと異質な男の子を探していました。テレビCMに出演している作間さんを見たとき「しゃべらないのに雰囲気のある人だな」と思って気になっていたんです。そのあと作間さんがジャニーズJr.のHiHi Jetsのメンバーだと知って、HiHi Jetsの動画も観たのですが、キラキラしたジャニーズの中にいても、どこか異質な雰囲気があったので、「どういう方なんだろう」とお会いしたんです。
実際に会ったとき「すごくスタイルが良くて、綺麗な男の子が来た!」と、最初は思ったのですが、話してみると、やっぱり少し異質な印象がありました。同世代の男の子の中でも、物の捉え方など大人びていて、なんだろう、ちょっとおじいちゃんみたいな感じ(笑)。
昔からジャニーズで活動していたことも影響しているかもしれませんが、同世代の普通の男の子とは違う感性の持ち主だと思いました。それで、たとえくんを作間さんにお願いすることにしたんです。(「映画board」インタビューより)
と語っていたが、
女の子が「私だけが見つけた!」と思える、ちょっと異質な男の子……そのままに、
グイグイくる木村愛に対して、警戒している感じや、少しおどおどしているところが自然で、
自然体で演じているのか、
作間龍斗がそのまま西村たとえであったのか、
どちらにしても、
首藤凜監督のキャスティングが間違っていなかったということだ。

本作には、この他にも、
私の好きな女優の、
養護教員・守屋を演じた木下あかり、

国語教諭・藤谷を演じた河井青葉が出演していたし、

ベテラン俳優の、
愛の母・木村頼子を演じた板谷由夏、

美雪の母・新藤泉を演じた田中美佐子、

たとえの父・西村崇を演じた萩原聖人などが、
若い俳優が多い中で存在感を示し、作品を締めていた。

芋生悠を目当てに見に行ったのであるが、
映画そのものにも、俳優に関しても、
収穫の多い作品であった。
見て良かったと思った。