
沖田修一監督作品である。

このブログでも、
『横道世之介』(2013年)
『滝を見にいく』(2014年)
『モリのいる場所』(2018年)
『おらおらでひとりいぐも』(2020年)
などのレビューを書いているし、
好きな監督の一人である。
どこか浮世離れしたような個性的な登場人物を、
ゆったりとした時間の中で丁寧に描いた作品が多く、
クスッと笑えるようなユーモアもあり、
どの作品も人間愛にあふれている。
そんな沖田修一監督の新作『子供はわかってあげない』は、
田島列島の人気同名コミックを原作としており、


沖田修一監督初のコミック原作の実写化。
『モリのいる場所』『おらおらでひとりいぐも』と、
お年寄りが主人公の映画が続いていたので、
高校生の少女が主人公の映画を沖田修一監督が撮ることに新鮮さを感じたし、
主演が上白石萌音の妹・上白石萌歌ということで、
〈ぜひ見たい!〉
と思った。
(2021年)8月20日に公開された作品であるが、
佐賀では(何故か)2週間遅れの9月3日から公開された。
しかも1日1回の上映で、上映時間も17:10からと中途半端な時間帯。
仕事帰りに見に行くこともできず、
公休日の先日、やっと見ることができたのだった。

もうすぐ夏休みのある日、
高校2年生の朔田美波(上白石萌歌)は、水泳部の練習中に、

ちょっと変わった書道部員のもじくんこと門司昭平(細田佳央太)と、

学校の屋上で運命的な出逢いをした。

アニメ「魔法左官少女バッファローKOTEKO」のことで意気投合した美波ともじくん。

美波のもとに突然届いた「謎のお札」をきっかけに、
2人は幼い頃に行方がわからなくなった美波の実の父を捜すことになった。
女性のような見た目で、探偵をしているというもじくんの兄・明大(千葉雄大)の協力により、

実の父・藁谷友充(豊川悦司)はあっさりと捜し当ててしまった。
美波は今の家族には内緒で、友充に会いに行くが……

映画の冒頭、突然、少女アニメが始まり、
それが、けっこうな時間続くので、
私が見に行った映画館がシネコン(イオンシネマ佐賀大和)だったこともあって、
〈間違えてアニメ映画のスクリーンへ入ってしまったのか……〉
と、少々慌てた。

なので、アニメが終わり、
上白石萌歌の顔が大写しされたときは、ホッとした。(笑)

後から考えれば、沖田修一監督は、
『おらおらでひとりいぐも』などでもアニメを使っていたし、
「沖田修一らしい」と言えば、言えないもこともないのだが、
劇中アニメ「魔法左官少女バッファローKOTEKO」のクオリティが高かったこともあって、
大いに驚かされたし、
〈やるな、沖田修一監督!〉
と思わされた。

本編が始まると、
それは上白石萌歌の躍動感あふれる青春映画であった。

上白石萌歌が演じる高校2年生の朔田美波は、
本当ならば迷わず部長に推薦されるほどの実力と人望もあるのだが、
野心がなく、のほほんとした性格から、
部活の顧問からは「タルンドル朔田」なんて呼ばれている。
そんな風に毎日を楽しく過ごしている美波であったが、
少し気になるのは、自分が幼い頃に母と離婚した父親とのこと。
今暮らしている父・朔田清(古舘寛治)とは大の仲良しで、
アニメ「魔法左官少女バッファローKOTEKO」を見ながら一緒に踊るほどの仲なのだが、
実は、母・由起(斉藤由貴)の再婚相手なのである。

実の父親から、意味深な「お札」が郵送されてきたことをきっかけに、
実の父親捜しが始まるが、
〈今の家族が壊れてしまうかもしれない……〉
という心配もしている。

だから(今の)両親に内緒で「実の父親」捜しを開始するのだが、
その“ひと夏の冒険”によって、少女はちょっぴり大人へと成長する。
……そんな物語。

今年67歳になる私は、高校時代から約50年(なんと半世紀!)が過ぎたが、
小学、中学、高校時代の“夏休み”の思い出の記憶は鮮烈で、
今でもいくつものエピソードを思い出すことができる。
夏休みは、1年……365日の中の10分の1ほどのわずかな期間なのだが、
その短い期間に体験することは特別なものがあり、
太陽の光や、強烈な暑さが、その体験を色濃いものにしている。

本作『子供はわかってあげない』を見て、
私の半世紀以上前の夏休みの日々が思い出され、
様々なシーンで胸が熱くなった。

美波ともじくんは、
好きなアニメが一緒というだけですぐに仲良くなってしまうのだが、
プールにいる美波が、
校舎の屋上で(習字の筆で)「KOTEKO」の絵を描いているもじくんを見つけ、
走って行き、話しかけ、急速に親しくなっていく過程を、
沖田修一監督は長回しで撮影している。
その疾走感が、沖田修一監督作品にしては珍しいし、素晴らしい。

一方、美波が実の父親に会いに行くシーンは、
もじくんと出逢うシーンとは真逆で、
従来の沖田修一監督作品のよう……と言うべきか、
ゆっくりゆっくりと近づいて行き、ジワジワと親しくなっていく。
その対比が見事で、唸らされた。
もじくんと、実の父親に対する美波の心情が巧く表現されていたし、
キラキラ青春映画等にはない感動がそこにあった。

主演の、朔田美波を演じた上白石萌歌は、
NHKの大河ドラマ「いだてん」での前畑秀子役を演じていたりしたので、
水泳が上手いということでキャスティングされたのかと思いきや、
どうやらそうでもなかったようだ。
上白石さんはオーディションで選んだんですけど、泳げるという要素よりも、そのとき、19歳で、子供らしさはまだ残りつつ、大人になろうとしている年齢で、素朴なところが美波役にぴったり合うと思いました。もともと、2016年から18年までの『午後の紅茶』のCMの自然な印象も強く残っていて、ちょうどいい時期だったんじゃないでしょうか。(「LEE」インタビューより)
と、沖田修一監督は語っていたが、
「子供らしさはまだ残りつつ、大人になろうとしている年齢で、素朴なところが美波役にぴったり合うと思いました」
というところに共感した。

上白石萌歌は2000年2月28日生まれの21歳なのだが、(2021年9月現在)
撮影時は19歳だったとのことで、
大人になりきれていない少女の危うさ、心の不安定さがにじみ出ており、
『午後の紅茶』のCMも思い出され、
胸がキュンとなった。
姉の上白石萌音は、とにかく「明るい」というイメージがあるが、
上白石萌歌には、「明るさ」の他に、
「暗さ」も同居したイメージがあり、(あくまでも個人の感想です)
その陰影も上白石萌歌の魅力になっていると思う。
明治学院大学に進学し、美術史を学んでおり、
仕事と学業を両立させながら、
自分のアーティスティックな才能も伸ばしている姿にも感心させられる。

もじくんこと門司昭平を演じた細田佳央太。

彼を始めて素晴らしい俳優として認知したのは、
『町田くんの世界』(2019年)という映画であったのだが、
そのレビューで私は、
……細田佳央太と関水渚が素晴らしい石井裕也監督作品……
とのサブタイトルを付して、
細田佳央太のことを、次のように記している。
町田くんを演じた細田佳央太。

2001年生まれ。東京都出身。
小学2年生の時テレビ出演に興味を持ち、
母親が履歴書を送ったことがキッカケで芸能の道へ。
今までにCM出演や、登場人物の幼少期役を演じるなどの演技経験はあったものの、
本作が初主演映画作品となる。
演技経験ほぼゼロからの主演抜擢理由について、石井監督は、
「オーディションで一人だけ異彩を放っていて、理屈でも経験でもない、作品に人生を捧げられる人だと感じました。この人と組めば間違いないと16歳(当時)に思わせられました。」
と語る。
今後も、未発表だが、話題のドラマ・映画作品への出演が控えている。
善人のかたまり・町田くんを演ずるのに、
彼ほど適した若き俳優はいないのではあるまいか……
そう思わせるほどの適役であった。

けっして野蛮な作品にはしたくない、という思いが僕の中にはありました。なぜなら、この映画で僕は若い人のみずみずしさであったり、青春期の身体的な躍動を撮りたかったからです。そうなると、自ずと新人を起用するという発想に着地するんですね。しかも、町田くんというキャラクターは特殊で、彼には恋というものが何であるかわからない。その上、神様みたいだし、見返りを期待せずに他者に奉仕する。じゃあどういう人に演じてほしいかなと考えた時、「こう芝居すれば、神様みたいになるよね」とテクニカルなアプローチをされるのはイヤだし、あり得ない。むしろ芝居について何もわからない、ものすごく無垢な人にしかできないのではないかと。多少の経験にかぶれた僕から見ると、何も色がついていない若い俳優は崇高に映るんですよ。美しいとさえ思えてくる。そういう人にしか町田くんというキャラクターは演じられないと信じてオーディションした結果、細田(佳央太)くんに出会えたというわけです。(『キネマ旬報』2019年6月下旬号)
石井監督はこう語っていたが、

町田くんを演ずる細田佳央太の出現は、
私にとっては、
大林宣彦監督作品の、
『転校生』(1982年)で尾美としのり、
『青春デンデケデケデケ』(1992年)で林泰文が登場したときのような、
新鮮な感動と驚きをもたらしてくれた。
将来性が感じられ、素晴らしい役者になっていくような気がする。

この予言通り、
細田佳央太は、その後、
「ドラゴン桜」第2シリーズ(2021年4月25日~6月27日、TBS)の原健太役で、
大人気となり、演技力も高く評価されて、若手実力派俳優に育っている。
本作『子供はわかってあげない』は、
「ドラゴン桜」第2シリーズよりも前の撮影だったと思うが、
主役の上白石萌歌を立てつつ、しっかり自分の演技でも魅せている。

細田佳央太の俳優としての成長過程を見ることのできる貴重な作品と言える。

美波の実の父親・藁谷友充を演じた豊川悦司や、

もじくんの兄・門司明大(性転換手術を受けて現在は女性という設定)を演じた千葉雄大や、

美波の母親・朔田由起を演じた斉藤由貴や、

朔田由起の再婚相手で、美波の現在の父親・朔田清を演じた古舘寛治などが、
若い二人を支える素晴らしい演技で、本作の質を高めていた。

明大が居候する古書店の店主・善さんとして、
作家の高橋源一郎が出演していて、
書物に囲まれて生きてきた、ちょっと浮世離れした雰囲気のある人物を演じているのが、
似合っていたし、好いキャスティングだと思った。

2020年に公表された最新の統計(2019年)では、
日本の離婚率は約35%で、
3組に1組は離婚する時代になっており、
実の父親を捜しに行くという設定も特別なものではなくなっている。
本作を見て、
ごく普通の高校2年生の女の子のひと夏の冒険に付き合い、


(コロナ禍で誰もが規制された不完全燃焼な夏を過ごした2021年の夏に)
眩しいような10代の夏を体験することができた。

こんな体験ができるのは、映画ならではのことと思われる。
映画を見続けてきた(こられた)幸せをかみしめた瞬間であった。