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映画『茜色に焼かれる』 …コロナ禍の理不尽な日常を描いた石井裕也監督の傑作…


 

石井裕也監督作品である。


石井裕也監督作品と初めて出合ったのは、
川の底からこんにちは』(2009年)であった。
この作品は、私の好きな満島ひかりの主演作という理由で見たのだが、
その面白さに、石井裕也監督の名もしっかり記憶された。
以降、
『あぜ道のダンディ』(2011年)
ハラがコレなんで』(2011年)
舟を編む』(2013年)
『ぼくたちの家族』(2014年)
バンクーバーの朝日』(2014年)
映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年)
町田くんの世界』(2019年)
と見続けてきて、
優れた監督として、しっかり認知されている。
特に、『舟を編む』以降は傑作揃いで、
「鑑賞する映画は出演している女優で決める」主義の私ではあるが、
石井裕也監督の作品ならば見てみたい……〉
と、監督の名で鑑賞を決める数少ない監督の一人なのである。
そんな石井裕也監督の新作『茜色に焼かれる』も当然のことながら、
〈見たい!〉
と思った。
尾野真千子の4年ぶりとなる単独主演映画とのことで、
社会的弱者として世の中の歪みに翻弄されながらも、
信念を貫き、たくましく生きる母子の姿を描いた作品とのこと。
尾野真千子は好きな女優だし、
オダギリジョー永瀬正敏らがキャスティングされているのも楽しみ。
(2021年)5月21日に公開された作品であるが、
佐賀では1ヶ月以上遅れて6月末からの公開となった。
で、7月1日の(私の)公休日に、天山に登山した後に、
上映館であるシアターシエマに駆けつけたのだった。



7年前、
理不尽な交通事故で夫・陽一(オダギリジョー)を亡くした母と子。
母の田中良子尾野真千子)はかつて演劇に傾倒していたことがあり、芝居が得意だった。
ひとりで中学生の息子・純平(和田庵)を育て、


夫への賠償金は受け取らず、
施設に入院している義父の面倒もみて、
夫の愛人の子供の養育費まで(死んだ夫に代りに)送金している。
コロナ禍により経営していたカフェが破綻し、
昼間は花屋のバイト、
夜は風俗店で働いているが、
仕事を掛け持ちしていても家計は苦しく、
その上、花屋からは人減らしのための嫌がらせを受けるようになる。


純平も同級生たちから、
「父親の事故で賠償金をたくさんもらったんだろう」とか、
「お前の母親は売春している」とか言われ、
いやがらせや暴力などのイジメを受けるようになる。


いじめの事実を知った良子は、学校へ文句を言いに行くが、
教師の対応はあまりにも誠意がなく、呆れるばかり。


そんな八方塞がりの状況の中、
良子は、数年ぶりに会った同級生・熊木直樹(大塚ヒロタ)と好い関係になりかけ、


風俗店を辞めてまで誠意を示そうとするが、
相手が遊びだと判り、激怒する。


良子は何か問題が生じるたびに、
「大丈夫。まぁ、がんばりましょ」
と言うのが口癖になっており、
相手にも、自分にも言い聞かせるように度々口にするのだが……



映画は、主人公・良子(尾野真千子)の夫である陽一(オダギリジョー)が、
自転車に乗っているシーンから始まる。


横断歩道を渡ろうとして、走ってきた車にはね飛ばされ、
別の車のフロントガラスに激突し、死亡する。
車を運転していたのは、元政府高官の高齢者で、(似たような事が実際にあったような)
車のブレーキとアクセルを踏み間違えたことが原因だったのだが、
この元政府高官が、アルツハイマーを患っていたことで、
罪に問われることもなく、単なる事故として処理されてしまう。
本人からもその家族からも謝罪の言葉もなかったことから、
良子は賠償金の受け取りを拒否するが、
相手の弁護士からは、
「保険金なので、そちらが受け取ろうが受け取るまいが、我々としてはどちらでもいいんですよ」
と言われてしまう。
7年後、この加害者である元政府高官が亡くなったとき、良子はその葬式に行くが、
元政府高官の遺族から、
「なぜ来たんですか?」「嫌がらせですか?」「あなたは頭がおかしい!」
と追い返されてしまう。


夫の事故死の意味をずっと考え続けている良子には、
なぜ自分がこんな仕打ちをうけるのか理解できないでいる。
何事も、どこかで区切りをつけないと先へ進めないし、心の安定も得られないものだが、
本作の主人公は、自分が納得するまでは区切りをつけようとはしない。
夫への賠償金を受け取らないだけではなく、
施設に入院している義父の面倒もみて、(入院費16万円の内、10万円ほどを負担している)
夫の愛人の子供の養育費まで(死んだ夫に代りに)送金している。
他人から見れば、しなくてもいいことをしているようにしか見えないが、
良子本人は亡き夫を深く愛していたということもあって、
すべてを納得ずくでおこなっている。
バイト先の花屋からは難癖をつけられた上に解雇され、
数年ぶりに会った同級生・熊木直樹(大塚ヒロタ)から、
「僕が君たちを支えるよ」
と言われたことで、熊木を真剣に愛するようになるが、
風俗店を辞めた上で、正直に風俗店に勤めていたことを告白すると、
それまでは「離婚した」と言っていたのに、
「もっと気楽な関係でいようよ。僕には妻も子もいるから……」
と、軽くあしらわれてしまう。
これでもかというように、
地道に暮らす母と子に理不尽なことが何度も襲い掛かる。


尾野真千子が演じる良子は、理不尽なことが起きても飄々としているようにも見えるが、
時に貧乏ゆすりをしたり、黙り込んだりして、
心の内にマグマが熱く燃え滾っているのが判る。
このなんとも複雑な思いを抱えた良子の内面を、
尾野真千子は実に繊細に表現していて感心させられた。
尾野真千子の代表作と言えば、
河瀨直美監督作品の『萌の朱雀』(1997年)や『殯の森』(2007年)、
是枝裕和監督作品の『そして父になる』(2013年)などを思い浮かべる人が多いと思うが、
それらが演じさせられた代表作だとすれば、
石井裕也監督作品『茜色に焼かれる』は、まさに、
(演じさせられたのではなく)自ら演じた真の代表作と言えるのではないかと思った。
第8回「一日の王」映画賞・日本映画(2021年公開作品)における、
最優秀主演女優賞の有力候補として名乗りを上げたことは間違いない。



尾野真千子の圧倒的な演技だけでも、この映画を見る価値は十分にあるのだが、
この映画では、もう一人、素晴らしい演技をする女優を目撃することになる。
それは、
良子(尾野真千子)の風俗店での同僚・ケイを演じた片山友希だ。


ケイは、父親に性的虐待を受けてきたという過去があり、
今は父親とは離れて生活しているが、
幼い頃から糖尿病を患っており、
その薬代や生活費を稼ぐため、風俗店勤めをしている。
同居しているのはヒモのようなDV男で、
妊娠しても、
「誰の子か判らんから堕ろせ」
と、産婦人科へ無理矢理連れて行かれて中絶させられてしまう。


その際、子宮頸がんを患っていること(それも初期段階ではないこと)が判明する。
ケイにも、良子と同じように、(いやそれ以上に)理不尽なことが次々と襲い掛かるのだ。
不幸を絵に描いたような女性なのだが、
ときおり見せる笑顔が可愛く、
野に咲くスミレのように可憐なのだ。
そんなケイを片山友希は自身と同化しているように演じ、
見る者の目を釘付けにする。

ここまで不安な状態で撮影したのは初めてで、これがダメだったら俳優を辞めた方がいいだろうと思えた初めての作品でした。見終わった後、しばらく熱が冷めなかったんです。撮影中は、余裕がなくて何も感じられませんでしたが、「これはすごいぞ! この映画は!」と見て気づきました。不安だった分、監督が私を信じてくれたと気づいて涙が出ました。(「キネマの誘惑」インタビューより)

と、片山友希は語っていたが、
覚悟の演技であったことが判るし、
私にとっても片山友希という女優を強烈に印象づけられた作品であった。
片山友希のこれまでの出演作では、『ここは退屈迎えに来て』(2018年)で、
禿げ上がった47歳の男・皆川(マキタスポーツ)と(援助)交際中の女子高生なっちゃんを演じていたのが印象に残っている程度であったが、


本作で、素晴らしい女優であることをしっかり認知させられたし、
第8回「一日の王」映画賞・日本映画(2021年公開作品)における、
最優秀助演女優賞の有力候補者としてノミネートされるのは間違いない。


ある日、ケイと酒を飲んで酔い潰れた良子=母親を迎えに来た純平は、
ケイから電話番号を教えてもらい、ケイにほのかな恋心を芽生えさせる。
それは、純平の初恋であったかもしれない。
年齢は離れているが、この純平とケイの関係が好い。


純平はケイを好きになることで大人への階段を上がり、
ケイは純平から純粋な愛を受け取ることで自分をちょっとだけ好きになる。
ラスト近くに、ケイが、
「今度純平君をデートに誘ってもいいかな」
と良子に笑いながら訊くところは、心にグッときたし、
これ以上の愛の言葉はないように感じた。
私も、中学生の頃に、もしケイと出逢ったならば、
好きになったと思うし、
ケイという女性が一生忘れられなくなったと思う。



良子から養育費を受け取っている(良子の)亡き夫・陽一の愛人・幸子を演じた前田亜季
この映画に出演していることは知らなかったので、
スクリーンに現れたときはビックリしたし、
出演シーンは短かったが、
(昔から顔が大好きだったので)逢えて嬉しかった。



この幸子(前田亜季)を、なんとかしようとする、
(陽一のかつてのバンド仲間の)滝を演じた芹澤興人。


一度見たら忘れられない顔をした俳優で、
今泉力哉監督作品『あの頃。』(2021年)、『街の上で』(2021年)にも出演していた。
ちょっとマイナー気味なアクの強い作品によく出ており。
本作でも、幸子だけではなく、
良子までもをどうにかしようとする狡猾で助平な男を実に巧く演じていた。



良子とケイが勤務する風俗店の店長・中村を演じた永瀬正敏


『名も無い日』(2021年5月28日公開)での演技を先日見たばかりなのだが、
『名も無い日』とは真逆とも言える役であったが、
存在感のある、さすがの演技で、本作をキリリと締めてした。
主役を張れる大物俳優が脇を固めていると、
なにかあっても彼が助けてくれそうで、
妙な安心感があったし、頼もしかった。



この他、
亮子の亡き夫・陽一を演じたオダギリジョー


陽一を轢き殺した元政府高官の息子・有島耕を演じた鶴見辰吾


弁護士を演じた嶋田久作などが、
確かな演技で作品を質の高いものにしていた。



石井裕也監督作品だから……と鑑賞した作品であったが、
期待以上の出来で、
〈さすが~〉
と思わされた。
石井裕也監督作品としては、
『アジアの天使』(2021年7月2日公開)
も公開されたばかりだが、
この作品も佐賀では約1ヶ月半遅れの8月20日からの上映が決まっている。
韓国人スタッフ、キャストと共にオール韓国ロケで撮りあげた作品とのことで、
池松壮亮オダギリジョーの他、『金子文子と朴烈』のチェ・ヒソなどもキャスティングされているという。
『アジアの天使』も必ず見に行くつもり。



本作『茜色に焼かれる』のレビューのサブタイトルを、
……コロナ禍の理不尽な日常を描いた石井裕也監督の傑作……
と、したが、
もうひとつの案として、
……尾野真千子と片山友希の演技が素晴らしい石井裕也監督の傑作……
というのもあった。(字数が多いので不採用)
それほど、本作では、尾野真千子と片山友希の演技に圧倒されたということだ。
映画鑑賞から4日が過ぎたが、
尾野真千子と片山友希の名演がいつまでも心に残り、
興奮が冷めやらない。



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