
今泉力哉監督作品である。

今泉力哉監督作品との出合いは、2年前、
『愛がなんだ』(2019年4月19日公開)においてだった。
この作品は、
①角田光代の小説が原作(映画化されると傑作になる確率が高い)
②岸井ゆきのの主演作(『森山中教習所』で注目した女優の主演作)
という理由で見た。
期待以上の出来で、傑作と思ったし、
第6回 「一日の王」映画賞・日本映画(2019年公開作品)ベストテンにおいて、
作品賞で第3位に選出し、
岸井ゆきを最優秀主演女優賞の候補にノミネートした。(惜しくも受賞は逸す)

今泉力哉監督作品との2度目の出合いは、
『アイネクライネナハトムジーク』(2019年9月20日公開)であった。
この作品は、
①多部未華子の主演作(大好きな多部未華子主演作)
②今泉力哉監督作品(『愛がなんだ』を見て今泉力哉監督作品なら期待できると思った)
という理由で見た。
多部未華子に逢いたくて見に行った作品だったが、
群像劇ということもあって、彼女の出演シーンは思ったよりも少なかった。
だが、貫地谷しほり、恒松祐里、森絵梨佳という素敵な女優にも逢うことができ、
群像劇として成功していたし、見て損のない作品になっていると思った。

今泉力哉監督作品との3度目の出合いは、
『mellow メロウ』(2020年1月17日公開)であった。
この作品は、
純粋に、「今泉力哉監督作品だから……」という理由で見た。
(「鑑賞する映画を出演している女優で選ぶ」主義の私としては、)
『mellow メロウ』に出演している女優たちは、私の知らない人ばかりだったし、
主演の田中圭にもまったく興味なかったので、
今泉力哉監督作品でなかったならば、見なかった作品である。
……岡崎紗絵、志田彩良、松木エレナが魅力的な恋愛群像劇……
とのサブタイトルを付してレビューを書いたのだが、
主役は男性であるけれども、
彼を取り巻く女優たちが活き活きと演技をしており、
“女性映画”と言ってもイイような秀作であった。

今泉力哉監督作品との4度目の出合いは、
『あの頃。』(2021年2月19日公開)であった。
この作品も、
主要キャストはほとんど男ばかりの映画だったので、
純粋に、「今泉力哉監督作品だから……」という理由で見た。
前3作とは違い、恋愛映画ではなく、
オタク同士の友情を描いた映画で、
松坂桃李、仲野太賀の熱演が光った佳作であった。

今泉力哉監督作品は、
前衛的だとか、これまで見たことない映像世界というのではなく、
ありがちな題材で、ゆるめのテンポでストーリーが展開するのだが、
凡庸な映画にならずに、最後まで興味を持って鑑賞させられてしまう。
そして、
主演俳優のみならず、
脇役の俳優も丁寧に演出し、
時には主演俳優よりも際立たせることもあり、
常に新しい発見がある。
『愛がなんだ』では、深川麻衣、若葉竜也、江口のりこ、
『アイネクライネナハトムジーク』では、恒松祐里、森絵梨佳、
『mellow メロウ』では、岡崎紗絵、志田彩良、松木エレナ、
『あの頃。』では、仲野太賀、若葉竜也、中田青渚、芹澤興人
というように、
今泉力哉監督作品をきっかけに知ることができ、好きになった俳優、
知ってはいたが、あらためて良い俳優であることを再認識させられた俳優も多い。
かように、今泉力哉監督作品は私の中で評価が高く、
新作『街の上で』も楽しみにしていた。
主演は、
今泉力哉監督作品『愛がなんだ』や『あの頃。』などで印象深い演技をしてきた若葉竜也。
下北沢を舞台に、1人の青年と4人の女性たちの出会いを、
オリジナル脚本(今泉力哉、大橋裕之)で描いた恋愛群像劇だとか。
『あの頃。』の出演していた中田青渚、芹澤興人、
『愛がなんだ』に出演していた成田凌(友情出演)などもキャスティングされている。
当初、2020年5月1日の劇場公開予定であったが、
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、封切りは約1年延期になり、
今年(2021年)の4月9日にやっと公開された作品である。
(3ヶ月遅れの公開が普通の)佐賀では珍しく、
約1ヶ月遅れで上映され始めた。
で、ワクワクしながら上映館であるシアターシエマへ駆けつけたのだった。

下北沢の古着屋で働いている荒川青(若葉竜也)は、
恋人・川瀬雪(穂志もえか)の浮気を責めたところ、
逆に「別れてほしい」と言われてしまう。

行きつけの古本屋で、
青は、店員の田辺冬子(古川琴音)に、
「亡くなった店長とデキていたの?」
と無神経な問いかけをして傷つけてしまう。

青が働く古着屋で、青が本を読んでいると、
美大生の高橋町子(萩原みのり)が訪ねてきて、青に、
「自分が卒業制作として監督する映画に出演してほしい」
とお願いしてくる。
青は、「無理無理」と言いながらも引き受けることになる。

撮影の日、
青が控室とされたマンションの一室へ行くと、
朝ドラにも出演している有名な男優・間宮武(成田凌)も出演すると聞かされ驚く。
やってきた武はさすがの演技で撮影シーンをこなすが、

青は、ただ本を読んでいるシーンだけなのに、ガチガチに緊張してしまい、
何度もNGを出してしまう。
監督の町子は諦め、スタッフの一人で別バージョンを撮り、
「あなたの撮影シーンは使われないかもしれない」
と青に告げる。

撮影の打ち上げに付いて行った青は、
町子と、青の代役をした男が、青のことで口論をしているのを目撃する。

孤立し、いたたまれなくなっている青の隣に、
映画の衣装担当の城定イハ(中田青渚)がやってきて、
「あの二人はくっついたり離れたりを繰り返している」
と、フランクに話しかけてくる。

打ち上げが終わり、二次会へ向かう学生たちを見送り、帰ろうとすると、
「私も二次会へは行かない」
と言うイハが、青を自分の住まいに誘う。

付いて行くと、そこは撮影の際に控室とされていたマンションの一室だった。
ガラステーブルをはさんでお茶を飲みながらの恋バナ談義する二人。
青は、雪が初めて付き合った人だと話し、
イハは3人と付き合ったことがあり、
2人目の人を今でも好きで、その人は関取で、肉体関係はなかったと話す。
夜も更け、「泊まっていけば……」と言うイハに、
青は、「そうしようかな……」と答えるのだった。

物語は、この後も続くのだが、
全部を語ってしまうと、これから見ようとする人たちの楽しみを奪うことになるので、
ストーリー紹介はこのくらいにして……(笑)
本作『街の上で』は、
いつもの今泉力哉監督作品らしく、
ゆるめのテンポでストーリーが展開するのだが、
それでいて、(前期高齢者でも)眠くならず、(笑)
凡庸な映画に陥ることもなく、
上映時間が、少し長めの130分間もあるのに、
最後まで興味を持って鑑賞させられてしまった。
私にとっては、実に「好き」な映画であったし、
すべてが愛おしく感じられ、
〈何度でも見たい!〉
と思わされた作品であった。
今泉力哉監督作品で、
芸術的な意味で最も優れているのは『愛がなんだ』だと思うが、
最も好きな作品は『街の上で』と断言できる。(これまでは『mellow メロウ』であった)

舞台となっている下北沢には、
昭和53年(1978年)頃から昭和55年(1980年)頃によく行った。
当時、小田急線沿線に住んでおり、
下北沢駅で井の頭線に乗り換えて通勤していたこともあって、
友人と待ち合わせをしたり、食事をしたり、
下北沢駅から歩いて三軒茶屋へ遊びに行ったり……と、
かなり頻繁に界隈を徘徊していた。(笑)
あの頃は、まだ本多劇場もなかったし、
狭い路地が多い、猥雑な街という印象であった。
もう40年以上経っているし、(現在40歳の人もまだこの世に存在しなかった大昔!)
〈店も建物もほとんどが入れ替わり、街の雰囲気も変わってしまっているだろう……〉
と思って(映画を)見ていたのだが、
(いかにも下北沢らしいという場所で撮影されていたということもあろうが……)
不思議なことに街そのものの雰囲気は40年前とそれほど変わっておらず、
懐かしさを感じながら鑑賞できた。


『花束みたいな恋をした』を見たときに、そのレビューで、
日常生活が淡々と描かれ、
固有名詞の多い日常会話が延々と続く故に、
それを見ている我々も、自分の体験と重なる部分が多く、
身につまされるシーンが多くなる。
パンフレットに、
――これはきっと、私たちの物語。
とのキャッチコピーがあったが、言い得て妙。
私にも、大学の入学式で見初めて、大学4年間付き合った彼女がいたが、
社会人になるとすれ違うことが多くなり、結局交際5年目に別れた経験があった。
なので、上映時間の124分間、
私も、若き頃を思い出し、キュンキュンさせられっ放しであった。
と書いたのだが、
本作『街の上で』も、
『花束みたいな恋をした』以上に身につまされた。(コラコラ)
私は、主人公の荒川青ほど純情でなかったし、繊細でもなかったが、
彼の一部分は私にも確かにあるし、
本作の登場人物のような人々にも多く邂逅した。
人はすべて入れ替わっても、下北沢という街には、今も、
同じような人が、同じように暮らし、歩いているのだと、
郷愁にも似た感慨を抱きながら本作を鑑賞していた。


荒川青を演じた若葉竜也。

単独主演作は、本作が初めてとのことだったが、
変な力みもなく、肩の力が抜けた好い演技をしていた。
これまで他の作品で多く彼の演技を見てきたが、
その演技の集大成として本作があったように思う。

もっとも感心したのは、
青がイハ(中田青渚)の住むマンションに行き、“恋バナ”をするシーン。
これが実にリアルで、
青(つまり若葉竜也)がちょっと考えるような、口ごもるようなシーンもあったりしたので、
〈アドリブもあったのかな……〉
と思っていたら、
アドリブは一切なかったとのこと。
ちなみに、あのくだりは全部セリフ通りなんです。でも、僕は途中でセリフが吹っ飛んで、中田さんに助けてもらうという展開に(笑)。それでもOKが出たんですよ。(「映画.com」インタビューより)
と、若葉竜也は語っていたが、
若葉竜也の(それに中田青渚も)演技が素晴らしかったこともあって、
この「17分ワンカット」のシーンは、
(語り継がれるであろう)本作の名シーンとなっている。

町子の映画の衣装スタッフ・城定イハを演じた中田青渚。

青との“恋バナ”シーンが素晴らしかったのは、
若葉竜也の演技の良さもあるが、
相手が中田青渚でなかったならば、もっとギクシャクしたものになっていたかもしれない。
中田青渚の演技には弾力性があり、
それは相手を撥ね返しもするが、
ときに優しく包み込み、受け入れる。
実に稀有な才能を持った女優だと思う。
今泉力哉監督作品『あの頃。』で中田青渚を見て、
劔(松坂桃李)が思いを寄せる女子大生・靖子を演じていた中田青渚。
劔がハロプロを通して出会った仲間たちと結成したバンド「恋愛研究会。」のイベントに、
友人とともに訪れるシーンや、

イベントを笑顔で楽しそうに観覧する姿に、何か光るものを感じた。

とレビューに書いたのだが、
本作を見て、その輝きが増したように感じた。
これからもっと凄い女優になっていくような気がする。

青の元恋人・川瀬雪を演じた穂志もえか。

どこかで見た顔だと思っていたら、
モトーラ世理奈を目当てで見た映画『少女邂逅』(2018年6月30日公開)に出演していたのを思い出した。
このときは、保紫萌香の名で出演していたので、すぐに思いつかなかったのだ。
顔も大人びて、随分と美しくなっていた。

映画でも、前半よりも、後半の方がより魅力的になっているように感じた。

なんだか、竹久夢二の絵に出てくる女性のようであった。

古本屋の店員・田辺冬子を演じた古川琴音。

『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018年)
『チワワちゃん』(2019年)
『21世紀の女の子「回転てん子とどりーむ母ちゃん」』(2019年)
『花束みたいな恋をした』(2021年)
などにも出演していたようなのだが、あまり記憶に残っていなくて、(スミマセン)
連続テレビ小説「エール」(第92回~第120回・最終回)で、
主人公夫妻の一人娘・古山華を演じているのを観て、素晴らしい女優と認知した。
強い目力と、(二階堂ふみの娘役ではあったが)二階堂ふみに似た顔立ちが強く印象に残っている。
本作『街の上で』では、古本屋の店員ということで、

ちょっと地味だが、強烈な個性を感じさせる女性を演じ、秀逸であった。

美大生の映画監督・高橋町子を演じた萩原みのり。

いかにも映画の監督をしそうな知的で好奇心いっぱいの目をしていて、

女としての魅力を特性として活かしつつも、
言うべきことはしっかり主張し、男性と対等に渡り合う美大生を、
見事に演じ切っていて感心させられた。

本作の企画の始まりは、
今泉監督のもとへ届いた、
「映画祭で披露する映画を、下北沢を舞台にして撮ってほしい」
という下北沢映画祭からのオファーだったとか。
2018年9月にアイデア出しが始動し、
2019年7月下旬にクランクイン。
2019年8、9月の編集作業を経て、
2019年10月13日に世界初上映が行われ、
当初、2020年5月1日の劇場公開を予定していた。
なので、撮影したのは2年前で、
そのときには、成田凌はまだ朝ドラには出演していなかった。
ところが新型コロナウイルスの影響で、公開が1年延びて、
成田凌が朝ドラ「おちょやん」出演中に、『街の上で』が公開となり、
朝ドラにも出演しているという設定の男優が、実際にも朝ドラに出演しているという、
面白い構造が生じた。
成田凌だけではなく、
若葉竜也(「おちょやん」)や古川琴音(「エール」)も、
映画公開前に“朝ドラ俳優”になってしまった。(笑)
穂志もえかは、現在放送中の「大豆田とわ子と三人の元夫」(2021年4月13日~、フジテレビ)に出演中だし、
中田青渚も、「ここは今から倫理です。」(2021年1月16日~3月13日、NHK総合)をはじめとして、多くのTVドラマや映画に出演している。
萩原みのりも深夜ドラマ枠で放送された「RISKY」(2021年3月26日~5月7日、毎日放送)で、地上波連続ドラマ初主演を果たし、活躍の場が益々広がっている。
将来性を見込んだ今泉力哉監督のキャスティング。
その期待に、見事に応えている若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚の5人の若手俳優たち。

映画を見ていると、登場人物たちが今も実際にいるような気がしてくるし、
演じている若手俳優たちの現在とリンクし、
私自身、不思議な空間を彷徨っているような気にさせられてしまった。
登場人物の誰かが言っていた、
「長いだの短いだの、時間の概念なんてどうでもいい」
という言葉が思い出される。
40年の時空を一気に飛び越え、
私は、下北沢の街を歩き、そこに生きる人々と話をし、恋をした。
映画を見ただけで、そんな体験ができるなんて……
それは、本作『街の上で』がきっと好い作品であるからだろう。
またいつか下北沢の街を歩きたいと思った。