
2015年(2014年公開作品を対象)に創設した「一日の王」映画賞も、
第7回となった。
ブログ「一日の王」管理人・タクが、
たった一人で選出する日本でいちばん小さな映画賞で、
何のしがらみもなく極私的に選び、
勝手に表彰する。(笑)
昨年(2020年)は新型コロナウィルスの影響で、
公開予定されていた映画が次々と公開延期になり、
非常事態宣言後は、映画館も一時閉鎖されるなど、
映画界にとっては災難の年であった。
公開された作品も例年よりも少なく、
「山路ふみ子映画賞」が中止になるなどしたことから、
「一日の王」映画賞の発表もどうしようかと迷ったのではあるが、
こういうときこそ「するべき」と思い直し、
発表することにした。
作品賞は、1位から10位まで、ベストテンとして10作を選出。
監督賞、主演女優賞、主演男優賞、助演女優賞、助演男優賞は、
5名(~10名)ずつを選出し、
最優秀を、各部門1名ずつを決める。(赤字が最優秀)
この他、
新人賞(1名)と、外国映画の作品賞(1作)を選出する。
普段、レビューを書くときには点数はつけないし、
あまり映画や俳優に順位はつけたくはないのだが、
まあ、一年に一度のお祭りということで、
気軽に楽しんでもらえたら嬉しい。
【作品賞】
①『風の電話』

②『朝が来る』

③『MOTHER マザー』

④『海辺の映画館』

⑤『罪の声』

⑥『スパイの妻〈劇場版〉』

⑦『劇場』

⑧『浅田家!』

⑨『宇宙でいちばんあかるい屋根』

⑩『アルプススタンドのはしの方』

その年の1月に公開された作品ならば、
本来なら年末になる頃には印象が薄れてくるものなのだが、
『風の電話』は昨年(2020年)1月に公開された作品であるにもかかわらず、
逆に、時間が経てば経つほど印象が濃くなっていった。
本作のレビューで、私は次のように記している。
最初に言っておかなければならないのは、
この『風の電話』という映画は、
東日本大震災の被災者を扱った、一般的な、
“お涙頂戴”的な物語でもなければ、
“感動”を無理強いするような物語でもなく、
“説教”臭さがプンプンするような映画でもないということだ。
要するに(よくありがちな)解り易い作品ではないのだ。
先程も述べたが、
諏訪敦彦監督は、
セリフが一切なく、状況とその推移を示した「構成台本」をもとに、俳優と共に登場人物の感情の流れを作り上げる演出で知られる。
だが、『風の電話』は、諏訪敦彦監督と脚本家・狗飼恭子が書いた台本があり、
それはとても素晴らしい本だったらしい。
出演者の西島秀俊も、三浦友和も、
〈今回は台本ありでやるのだな……〉
と思ったそうだが、
(想像通りというか予想通り)最終的には本の骨格だけを残して、後はセリフが全部ないものになったそうだ。
だから、一般的な映画でありがちな、
打てば響くような言葉の応酬はこの映画にはない。
どのシーンにも、独特の“間”(ま)があり、
フィクションなのに、ドキュメンタリーのような雰囲気が醸し出されている。

完成度とかストーリーの面白さなどでは、
他にも優れた作品がたくさんあったが、
心に残る作品ということで言えば、本作『風の電話』が随一であった。

上記ベスト10以外にも、
『ラストレター』
『ロマンスドール』
『影裏』
『Red』
『初恋』
『Fukushima 50』
『糸』
『ステップ』
『青くて痛くて脆い』
『ソワレ』
『人数の町』
『喜劇 愛妻物語』
『甘いお酒でうがい』
『星の子』
『おらおらでひとりいぐも』
『タイトル、拒絶』
『さくら』
なども強く印象に残っており、
コロナ禍で苦しめられた年ではあったが、
2020年も傑作、秀作の多い、実りある一年であった。

【監督賞】
諏訪敦彦『風の電話』
河瀬直美『朝が来る』
大森立嗣『MOTHER マザー』
土井裕泰『罪の声』
黒沢清『スパイの妻〈劇場版〉』
諏訪敦彦監督の演出法は独特で、
脚本はあっても、ないようなもので、
俳優達と現場で議論を重ねながら、即興芝居によって物語を作り出していく。
フィクションなのに、ドキュメンタリーのような雰囲気が醸し出されており、
次はどうなるのか……というハラハラドキドキ感がある。
この演出法を批判する人も少なからずいるが、
本作ではこの演出法が主演のモトーラ世理奈という女優の資質にピタリとハマっていて、
稀に見る傑作となっている。
映画の完成度では、
河瀬直美、大森立嗣、土井裕泰、黒沢清の諸作品には一歩劣るが、
独創性においては一歩抜きん出ていたように思う。

【主演女優賞】
モトーラ世理奈『風の電話』
永作博美『朝が来る』
長澤まさみ『MOTHER マザー』
蒼井優『スパイの妻〈劇場版〉』
田中裕子『おらおらでひとりいぐも』
鑑賞する映画を「出演している女優で選ぶ」主義の私なので、
【主演女優賞】候補は他にも、
夏帆『Red』
伊藤沙莉『タイトル、拒絶』
清原果耶『宇宙でいちばんあかるい屋根』
水川あさみ『喜劇 愛妻物語』
などがいたが、
そんな優れた女優がひしめく【最優秀主演女優賞】の激戦を勝ち抜いたのは、
最も若いモトーラ世理奈であった。
決め手は、ラスト10数分間の演技。
どのように凄かったか、1年前に私が書いた『風の電話』のレビューから再び引用してみたい。
特に、主人公のハル(モトーラ世理奈)は、
なかなか言葉を発さない。
ジリジリと時間だけが過ぎていく。
映画の鑑賞者は、
ハルの傍に立ち、彼女を見守るしかない。
見る者に、そんな孤独感を味わわせる映画は、なかなかない。

一般的な意味での娯楽作ではないので、
途中、この独特の“間”に耐えられなくなる鑑賞者もいるかもしれない。
事実、私が見ているときも、一人いた。
上映が始まり、1時間ほど経過したとき、
私の近くにいた中年女性が席を立った。
〈トイレかな?〉
と思ったが、
その客は結局帰って来なかった。
予想した映画と違ったのだろうが、
〈最後まで見て欲しかった……〉
と思ったことであった。
なぜなら、ラストの10数分間が凄いからである。
今思えば、この映画は本当に無謀だったなと(笑)。なぜなら、ラストの風の電話のシーンの芝居が映画のすべてを左右するんですから。だけどあそこでモトーラさんにセリフを全部任せたんです。
とは、諏訪敦彦監督の弁。

モトーラ世理奈は、本番まで、あの電話ボックスに一度も入らなかったという。
実際使ったカットは2回目の撮影で、
1回目は「自分のやっていることが嘘に思えて」と彼女がNGを出したというから凄い。
セリフをすべて任せた諏訪敦彦監督と、
ハルになりきることで、即興的に応じたモトーラ世理奈。
このラスト10数分は、日本映画史に残る名シーンとなっている。

“風の電話”でのラストシーンの撮影は、
前々日から天候が悪く、やっと晴れた日を狙って行われたという。
突風が吹き荒れ、木々が揺れ、雲が勢いよく流れて光がどんどん変わっていく。
設置者の佐々木格氏も、
「普段はこんなことないよ」
というほどの天候だったが、
諏訪敦彦監督は、モトーラ世理奈に、
「これは神様が迎えてくれたんだよ」
と話したのだそうだ。

実際、このラストシーンは、
電話ボックスの外の木々は揺れ、
太陽の光が刻々と変化する。
見事な“自然の演出”になっている。
その中で、モトーラ世理奈が発した言葉は、見る者の心を打つ。
〈モトーラ世理奈が天才女優であることを自ら証明した瞬間に立ち合っている……〉
と感じたラストシーンであった。

前回(第6回)の「一日の王」映画賞では【新人賞】を受賞しており、
【新人賞】の翌年に【最優秀主演女優賞】を受賞するという快挙を成し遂げた。
やはり、モトーラ世理奈は凄い女優であった。

【主演男優賞】
草彅剛『ミッドナイトスワン』
渡辺謙『Fukushima 50』
山﨑賢人『劇場』
綾野剛『影裏』
高橋一生『ロマンスドール』『スパイの妻』
正直、『ミッドナイトスワン』での草彅剛の演技はそれほど上手くなかった。
トランスジェンダーを演じるという難しさはあったとは思うが、
渡辺謙、山﨑賢人、綾野剛、高橋一生の演技に比べれば、はるかに劣った。
だが、作品に挑む姿勢、覚悟においては、他の候補者よりも少し勝っていたように感じた。
そこが【最優秀主演男優賞】の決め手となった。

【助演女優賞】
黒木華『甘いお酒でうがい』『浅田家!』『星の子』
渡辺真起子『風の電話』『浅田家!』
桃井かおり『宇宙でいちばんあかるい屋根』
岸井ゆきの『空に住む』『前田建設ファンタジー営業部』
ベッキー『初恋』
蒔田彩珠『朝が来る』『星の子』
片岡礼子『Red』『ステップ』『タイトル、拒絶』
伊藤沙莉『劇場』『ステップ』『ホテルローヤル』『十二単衣を着た悪魔』
恒松祐里『タイトル、拒絶』『スパイの妻〈劇場版〉』
余貴美子『AI崩壊』『ステップ』『泣く子はいねぇが』『ホテルローヤル』
【助演女優賞】候補は、5人に絞り切れず、10人を選出した。
鑑賞する映画を「出演している女優で選ぶ」主義の私としては、
大好きな女優ばかりなので10人選出するのにも大いに迷った。
なので、その中から【最優秀助演女優賞】を1人だけ選ぶのは、
もう、地獄の責め苦であった。(笑)
そうして苦しみながら選出したのは、黒木華であった。
『甘いお酒でうがい』では、主人公・佳子を慕ってくれる年下の同僚・若林ちゃんの役、
『浅田家!』では、主人公・政志の面倒を母親のようにみる幼馴染で恋人未満の役を、
『星の子』では、“あやしい宗教”で催眠術が使えて、人が持つオーラの色を見ることができる女性の役……というように、
まったく違った役を、完璧に演じ分けており、感心させられた。
ことに、『甘いお酒でうがい』での若林ちゃんの役は秀逸で、

主役である松雪泰子を立てながら、自分の存在感もしっかりと示し、
静かな物語にさざ波を起こし、クスリと笑わせる。
こんな芸当ができるのは黒木華しかいないと思った。

【助演男優賞】
岡山天音『青くて痛くて脆い』『おらおらでひとりいぐも』『ホテルローヤル』
宇野祥平『罪の声』
三浦友和『風の電話』
妻夫木聡『浅田家!』『Red』
東出昌大『コンフィデンスマンJP -プリンセス編-』『スパイの妻』『おらおらでひとりいぐも』
【最優秀助演男優賞】の選出も大いに迷った。
一作のみの演技では、
『罪の声』の宇野祥平が群を抜いていたが、
岡山天音と東出昌大の(複数作の)“合わせ技”「一本!」の方に魅かれた。
ことに、岡山天音は、
『青くて痛くて脆い』では、主人公・楓の親友の役で、
『おらおらでひとりいぐも』では、車メーカーの営業担当者の役を、
『ホテルローヤル』では、妻に裏切られ女子高生と心中事件を起こす高校教師の役と、
(黒木華と同様に)まったく違う役を完璧に演じ分けており、強く印象付けられた。
2020年は、『踊ってミタ』や『テロルンとルンルン』という主演作もあり、
大活躍の年であったし、
【最優秀助演男優賞】には岡山天音を選出したいと思った。

【新人賞】
森七菜『ラストレター』『青くて痛くて脆い』『461個のおべんとう』

当初、【新人賞】は、
『ソワレ』の芋生悠と、
『ミッドナイトスワン』の服部樹咲の“一騎打ち”と思っていたのだが、
【助演女優賞】の候補をリストアップしていたときに、
森七菜の名が浮かんだ。
昨年(2020年)は、
『ラストレター』『青くて痛くて脆い』『461個のおべんとう』の出演作があり、
評判になった主演TVドラマ『この恋あたためますか』(2020年10月20日~12月22日)の好演もあって、すっかり新人であることを忘れていた。
1年前に私自身が書いた『ラストレター』のレビューを読み返してみると、
次のように記していた。
松たか子や広瀬すずに負けないほど存在感を示したのが、
新人の森七菜。

自然体のナチュラルな演技で、
見る者をほんわかとした気分にさせてくれた。
彼女を見ているだけで楽しくなるし、
なにか良いことが起こりそうな気分になる。
広瀬すずとは違った意味での“凄い女優”になりそうな予感がした。
エンドロールで流れる主題歌も担当しているので、
その透明感のある歌声も楽しんでもらいたい。

「新人の森七菜」とはっきり書いているではないか!
その後の活躍があまりに凄かったので、新人であることを忘れていたのだ。
いや、「忘れさせられていた」と言うべきであろう。
それほど彼女が目覚ましかったということだ。
……ということで、【新人賞】は森七菜に決定!

【作品賞・海外】
『異端の鳥』

昨年(2020年)は、
海外の映画も、例年に比べれば、公開された作品は少なかった。
それでも、振り返ってみると、
『パラサイト 半地下の家族』
『1917 命をかけた伝令』
『ジュディ 虹の彼方に』
『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』
『レ・ミゼラブル』
『ワイルド・ローズ』
のような優れた作品が数多くあった。
そんな海外映画群の中で、
私にとって最も印象深く、
強烈な映画体験だったのが『異端の鳥』であった。

この作品を一言で表現するのは難しいので、
できればレビューを読んでもらいたいが、(レビューはコチラから)
原作の小説を永年愛読してきた私としては、
この小説が映像化されたこと自体が奇跡だし、
2020年は、『異端の鳥』を目撃した年として記憶されると思う。
それほど凄い映画であった。

先程も述べたが、
昨年(2020年)は新型コロナウィルスの影響で、映画界にとっては大変な年であった。
〈今年(2021年)こそは……〉
と思ってはいるものの、
2021年も新型コロナウィルス第3波の大きな波が押し寄せており、
先行き不透明な状態が続いている。
私の住んでいる佐賀県は、特に映画館も少なく、上映される新作映画の数も少ない。
すべての作品を見ている訳ではないので、
「一日の王」映画賞の選出も、「私が見た範囲での……」という条件が付く。
そんな限られた範囲での選出ではあるが、
選ばれた俳優や監督やその映画に関わった人々が、
いつかどこかで、この文章を読んでくれたら嬉しい。
そういう意味では、
地味な作品、日頃スポットライトが当たっていない俳優に光を当てたいという思いがある。
「一日の王」映画賞の存在意義は、そこにこそあると思っている。
