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映画『スパイの妻 <劇場版>』 ……蒼井優を一段と輝かせた黒沢清監督の傑作……




黒沢清監督作品である。


ブログ「一日の王」を開設して以降の黒沢清監督作品では、
レビューを書いたのは、『トウキョウソナタ』(2008年)が最初で、(レビューはコチラから)
以降、黒沢清監督作品はなるべくレビューを書くようにしてきた。
ここ数年では、
『岸辺の旅』(2015年)はあまり好きな作品ではなかったのでレビューは書かなかったが、
クリーピー 偽りの隣人』(2016年)
散歩する侵略者』(2017年)
『旅のおわり世界のはじまり』(2019年)
と、レビューを書き続けている。
黒沢清監督作品には、毎回、驚きがあるし、新しい発見がある。
だが、内容的に万人向けというわけではなく、
佐賀県で上映されない作品も少なくない。
本日紹介する『スパイの妻 <劇場版>』も、
当初、佐賀県での上映館はなかった。
だが、
第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で、
銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞してしばらくすると、
イオンシネマ佐賀大和」での上映が決まった。
全国の公開日よりも少し遅れての公開となったが、
コロナ禍の今は、他県へ行くこと自体にリスクがあるので、
県内の映画館で見ることは嬉しいことであった。
で、ワクワクしながら映画館へ向かったのだった。



1940年。
少しずつ、戦争の足音が日本に近づいてきた頃。
聡子(蒼井優)は、
貿易会社を営む福原優作(高橋一生)とともに、
神戸で瀟洒な洋館で暮らしていた。


身の回りの世話をするのは駒子(恒松祐里)と、


執事の金村(みのすけ)。


愛する夫とともに生きる、何不自由ない満ち足りた生活。
ある日、優作は物資を求めて満州渡航する。
満州では野崎医師(笹野高史)から依頼された薬品も入手する予定だった。


そのために赴いた先で偶然、
衝撃的な国家機密を目にしてしまった優作と福原物産で働く優作の甥・竹下文雄(坂東龍汰)。


二人は現地で得た証拠と共に、
その事実を世界に知らしめる準備を秘密裏に進めていた。
一方で、何も知らない聡子は、
幼馴染でもある神戸憲兵分隊本部の分隊長・津森泰治(東出昌大)に呼び出される。


「優作さんが満州から連れ帰ってきた草壁弘子(玄理)という女性が先日亡くなりました。ご存知ですか?」


今まで通りの穏やかで幸福な生活が崩れていく不安。
存在すら知らない女をめぐって渦巻く嫉妬。
優作が隠していることとは?
聡子はある決意を胸に、行動に出るのだった……




黒沢清監督特有の、ちょっとクセのある、小難しい映画かなと思ったが、
最初から最後まで楽しんで見ることができた。
これにはちょっと驚いた。
2020年6月にNHK BS8Kで放送されたものを、
スクリーンサイズや色調を新たにした劇場版として劇場公開したという経緯もあろうが、
物語としての骨格がしっかりしているし、
脚本が優れていると思った。
誰が脚本を書いているのか調べてみると、
濱口竜介、野原位、黒沢清の名が列記してあった。


濱口竜介といえば、


このブログ「一日の王」で、
……2015年に公開された日本映画のナンバーワン!……
とのサブタイトルを付して絶賛した『ハッピーアワー』(2015年)の監督で、
(レビューはコチラから)
第2回 「一日の王」映画賞・日本映画(2015年公開作品)ベストテンにおいて、
最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演女優賞、最優秀助演男優賞などを独占している。
コチラを参照)
野原位は、大学在学中より濱口監督作品の助監督を務めていた人で、


『ハッピーアワー』ではラインプロデューサー、共同脚本を担当している。
脚本に物語性があり、いつもの黒沢清監督作品とは違っていたのは、
濱口竜介、野原位が脚本に参加していたからなのだと思った。
なので、
もっと詳しく、本作が制作された経緯を調べてみると、
意外なことが判った。
黒沢清濱口竜介と野原位の3人は(東京芸術大学での)師弟関係にあり、
もともとは、
Inclineのプロデューサー陣とともに、NHKと、
神戸を舞台に8Kを使って映像作品を作れないか……というところから始まり、
野原位が、
(神戸に縁の深い)濱口竜介に脚本家として参加してくれるように提案し、
(神戸出身の)黒沢清に監督をお願いしたとのこと。
黒沢清監督が、後進の濱口竜介と野原位に声をかけたのだと思っていたのだが、
事実はまったく逆だったのだ。
野原位と濱口竜介が、黒沢清監督が興味を持ちそうなプロットを2つ用意し、
選ばれたのが『スパイの妻』だった……というのが真相のようだ。
〈自由に撮っていただきたい〉
との思いから、
野原位と濱口竜介が万全の準備をし、
師匠である黒沢清監督が思う存分に腕を振るった結果、傑作が誕生したのだ。


僕自身、結構頑張って目新しいチャレンジをしてきて、自分としてもかなりのことをやってきたなという自負がなくもないんです。ただ、その割に世間的には認められない(苦笑)。

そんな中で、「自分だったらこういうことをやらせたい」「認めてもらえるようにしたい」と思ってくださる方々が、今回のように声をかけてくださる。おかげで今回は、ひょっとしたらいままでのキャリアで一番世間に知られる作品に出合うことができました。
(「CINEMORE」インタビューより)

と、黒沢清監督は語っていたが、
黒沢清監督の特徴はそのままに、
ミステリーであり、反戦映画であり、正統派の娯楽作品でもあるという、
中高生からコアな映画ファンまで楽しめる作品になっているし、
商業映画としても成功していると思う。



本作『スパイの妻』を見たいと思った理由は、黒沢清監督作品であることと、
もうひとつは、
主演である“スパイの妻”福原聡子を演じるのが蒼井優であったからだ。


蒼井優は元々大好きな女優で、
特に、主演の舞台『アンチゴーヌ』(2018年)を観てからは、(レビューはコチラから)
蒼井優が出演する映画は見逃さないようにしている。
本作のように主演作はなおのことだ。
蒼井優も、私の期待を裏切らない演技をしており、大いに楽しませてもらった。


『スパイの妻』は他の作品とは違って、
演劇的なセリフ回しと仕掛けが目立った。
それは、蒼井優の主演舞台『アンチゴーヌ』を思い起こさせた。
それは、不思議と違和感がなかったし、
戦争に突入していく直前という時代背景がそうさせたのかもしれないが、
新しい黒沢清監督作品を見たような気がした。


映像のカリスマ・黒沢清監督作品は、
一見、とっつき難い映画が多いように思われがちだが、
主演女優(或はそれに準ずる女優)のみを注視して鑑賞すると、
アイドル映画のように、女優の顔のアップが多いし、
女優を美しく撮っていることが判る。
『岸辺の旅』(2015年)では、深津絵里を、
クリーピー 偽りの隣人』(2016年)では、竹内結子を、
散歩する侵略者』(2017年)では、長澤まさみを、
『旅のおわり世界のはじまり』(2019年)では、前田敦子を、
そして、
『スパイの妻』では、蒼井優を、
これ以上ないほど魅力的に撮っている。


そういう意味で、
黒沢清監督作品に好きな女優が出演していたら、
ただそれだけで「見る価値あり」だと言える。



聡子(蒼井優)の夫・福原優作を演じた高橋一生
蒼井優とは、『ロマンスドール』(2020年1月24日公開)に続いての夫婦役だが、
コチラを参照)
息の合った演技で“二人芝居”を思わせるシーンも多く、大いに楽しめた。


黒沢清監督作品が舞台挨拶で、
蒼井優高橋一生も実に声が良い」
と語っていたが、
その良い声で語られる言葉のひとつひとつが見る者(聴く者)の心に染み入り、
この映画を特別なものにしていた。



聡子の幼馴染で、神戸憲兵分隊本部の分隊長・津森泰治を演じた東出昌大


不倫騒動のときには、「演技が下手」だの「大根役者」だの、散々な言われようであったが、
私は、東出昌大は、「他の誰もが真似できない唯一無二の俳優」だと思っている。
それは、『コンフィデンスマンJP』のようなメジャーな作品ではなく、
桐島、部活やめるってよ』(2012年)
0.5ミリ』(2014年)
クリーピー 偽りの隣人』(2016年)
散歩する侵略者』(2017年)
パンク侍、斬られて候』(2018年)
菊とギロチン』(2018年)
寝ても覚めても』(2018年)
のような、ややマイナー気味な作品を見れば判る(解る)。
(決して良い声とは言えないが)一度聞いたら忘れられないクセのある声と、
棒読みのようなあまり抑揚のないセリフ回しは、
“現代の笠智衆”と言ってイイほどに味があるし魅力的だ。


吉田大八、黒沢清石井岳龍瀬々敬久濱口竜介などの優れた監督の作品に多くキャスティングされているのは、やはり俳優としての才能が認められているからだと思う。
本作『スパイの妻』でも東出昌大は素晴らしい演技をしているし、
世間のバッシングに負けず、これからも大いに活躍してもらいたい。



福原夫妻の身の回りの世話をする駒子を演じた恒松祐里


黒沢清監督作品では『散歩する侵略者』に続く出演であるが、
出演シーンはそれほど多くないものの、
しっかりと存在感を示し、爪痕を残している。
散歩する侵略者』以降、
『凪待ち』(2019年6月28日)
『いちごの唄』(2019年7月5日)
アイネクライネナハトムジーク』(2019年9月20日
『殺さない彼と死なない彼女』(2019年11月15日)
などのレビューで彼女を論じてきたが、
女優として進化しているのが手に取るように判る。
もうすぐ公開される『タイトル、拒絶』(2020年11月13日公開予定)も控えているので、
楽しみに待ちたいと思う。



長回しや、光の陰影など、黒沢清監督らしさを残しつつ、
これまでの作品とは一線を画す、
エンターテインメント感あふれる作品になっている傑作『スパイの妻』。
映画館で、ぜひぜひ。



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