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今年(2019年)の春から、断捨離をしている。
60代も半ばとなり、体力のある今のうちにやっておきたいと思ったからだ。
私の両親は大正生まれで、戦時中の物のない時代を経験していたので、
物を捨てることのできない世代の人であった。
だから、死後、実家には大量の物が残された。
遺品整理は子の役目であるが、これが実に厄介なのである。
今はプロの遺品整理屋もいるそうだが、
私の子供たちにそんな面倒はかけたくない。
家にある物は極力減らしておきたい。
断捨離で持ち物の8割くらいを捨てたいと思っているが、
断捨離を始めて半年近く経つが、6割ほどは処分できたと思う。
本当は2、3ヶ月でできると思ったのだが、意外と時間がかかるのだ。
今年中には断捨離を終え、
「いつでも死ねる」という状態を整えたいと思っている。
人は誰でも、
〈自分だけは簡単には死なない……〉
と、何の根拠もない自信を持っているものだが、
残念ながら、人は簡単に死ぬ。
私の配偶者の母親は、膵臓がんが見つかって1ヶ月半後に亡くなった。
67歳だった。
私の兄の妻は、直腸がんが見つかって1年半の闘病の後に亡くなった。
63歳だった。
病気が見つかったときには、もうすでに体力が奪われていることが多い。
それから生前整理をしようと思っても、気力さえ湧かないものだ。
病気にならなくとも、交通事故などであっけなく亡くなることもある。
そうなると一瞬だ。
断捨離をしている暇などない。
このブログを読んで下さっている読者の中には、
すでに断捨離を終えた人も多いことと思う。
断捨離をしている最中に、
昔の恋人の写真や手紙が出てきて、慌てふためいた人もいることだろう。
こういったものは、真っ先に処分しておくべきである。(笑)
夫が亡くなったあとに、夫が大事に仕舞っていた昔の恋人の写真や手紙が見つかり、
「夫と同じ墓には絶対に入らない!」
と妻に言い出されでもしたら(実際例を知っている)、哀れである。
〈そんな昔の写真や手紙に嫉妬する女なんかいないだろう?〉
と思っている人がいたとしたら、
「甘い!」
と言わざるを得ない。
そんな人には、本日紹介する映画『さざなみ』(2016年)がオススメだ。
長年連れ添った夫婦の関係が、1通の手紙によって揺らいでいく様子を描いた作品なのだが、
私は、最近、やっと本作を見る機会を得、鑑賞後、「恐い!」と思った。(爆)
〈断捨離を一刻も早く終えなければ……〉
と思ったことであった。(コラコラ)

結婚45周年を祝うパーティを土曜日に控え、
準備に追われていた熟年夫婦、
ジェフ(トム・コートネイ)と、

ケイト(シャーロット・ランプリング)。

ところがその週の月曜日、彼らのもとに1通の手紙が届く。
それは、
50年前にスイスの山で氷河に転落して行方不明になったジェフの元恋人の遺体が、
当時の姿のまま発見されたというものだった。
その時から、
ジェフは過去の恋愛の記憶を反芻するようになり、

妻は存在しない女への嫉妬心や夫への不信感を募らせていく……

50年前にスイスの山で氷河に転落して行方不明になった元恋人の遺体が、
当時の姿のまま発見される……
という設定に驚いた。
『氷壁の女』(1983年)など、似た設定の作品もあることはあるが、
老いた自分の前に、50年前の若い姿の元恋人が現れたとしたら……
誰しも心を奪われてしまうことだろう。
そして、妻は、もうすでに50年前に亡くなっているその元恋人に嫉妬する。

元恋人の遺体が当時の姿のまま発見されたという知らせが届いてからというもの、
夫のジェフは、いつもソワソワしていて、不審な行動をとるようになる。
深夜、こっそりベッドを抜け出し、屋根裏部屋に行って、ゴソゴソしている。
昼間、夫がいない時を見計らって、妻のケイトは屋根裏部屋に上がってみる。
そこで、夫が大事に仕舞っていた、元恋人との思い出の品を発見する。
その中に、元恋人・カチャを映したスライドを見つけたケイトは、
映写機を壁に投射させてみる。

そこには、ジェフの元恋人・カチャの若くて美しい画像がたくさん残されていた。

そして、なによりショッキングだったのは、
ジェフの元恋人・カチャのお腹が大きかったこと。
明らかにカチャは妊娠していたのだ。
ジェフとケイトの夫婦には子供がいないという設定なので、
カチャがジェフの子を宿していたという事実は、
ケイトに敗北感を与えたことだろう。
そのスライドを見たときのケイトの驚愕の表情は忘れることができない。

このケイトを演じているのが、シャーロット・ランプリング。

上半身裸にサスペンダーでナチ帽をかぶって踊るシーンが有名な『愛の嵐』(1975年日本公開)を思い出すが、


若い頃は、ヌードも厭わぬ前衛的な美しき女優であったので、

『さざなみ』での古風で厳格な考えを持つ老いた女性の役は、見る者にある種の感慨を呼び起こす。

この作品での素晴らしい演技で、第65回ベルリン国際映画祭において、
ジェフを演じたトム・コートネイと共に、主演男優賞と主演女優賞をそろって受賞している。

つくづく男というものは罪深い生き物だと思う。
女性はよく、記憶を“上書き保存”すると言われるが、
男は、この“上書き保存”ができない。
いつまでも忘れることができないのだ。
そして過去を美化し、現実逃避しようとする。
客観的にこの映画を見ている分には、夫のジェフは情けない男に見えるが、
自分に置き換えてこの作品を鑑賞するならば、
実に身につまされる作品である。

私は、以前、『平場の月』(朝倉かすみ)のブックレビューを書いた時、
私が同窓会に出席しないのは、
「美しかったままを記憶に残しておきたい」
という、その一点においてなのではないかと……
と書いた。(全文はコチラから)
過去、一度も同窓会に出たことのない私など、
記憶を“上書き保存”できない代表格の男なのではないかと思う。(笑)
そんな私なので、知らず知らずのうちにたくさんの思い出の品を保存していた。
今回の断捨離で、そのほとんどを処分できて本当に良かった。(コラコラ)
もし、思い出の品をたくさん残して死んだならば、大変なことになるところであった。(爆)
老いた自分の前に、50年前の若い姿の元恋人が現れたとしたら……
という映画の設定は、
断捨離をしている時に、思いがけずに昔の恋人の写真と対面した時の状況と似ている。
それは、心に“さざなみ”を生じさせる。

映画『さざなみ』は、
「さざなみ」と思ったものが、
やがて大波となり、人を呑み込んでしまうという、
そんな恐ろしさを秘めた作品であった。
元恋人の思い出の品を、まだ大事に隠しているあなた!
一刻も早く、断捨離に取り掛かるように……
そうしないと、恐ろしい結末を迎えることになりまするぞ!