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映画『新聞記者』……政権の裏側・内調(内閣情報調査室)の実態を描いた秀作……



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新聞記者を主人公にした映画が好きだ。
ここ数年では、
アカデミー賞作品賞を受賞した、
『スポットライト 世紀のスクープ』(2016年日本公開)や、
スティーブン・スピルバーグ監督作品の、
『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(2018年日本公開)などが、
優れた作品として印象に残っている。(タイトルをクリックするとレビューが読めます)

約1年前(2018年5月3日)、
日本でも、新聞記者を主人公にした映画が企画されているという情報(文春オンライン)をキャッチした。

東京新聞の望月衣塑子(いそこ)さん(42)の著書 『新聞記者』を題材にした映画の企画が水面下で進行中だそうです。主演にはなんと、女優の蒼井優さん(32)の名前が挙がっているといいます」(映画業界関係者)

東京新聞の望月記者といえば、昨年6月、社会部の記者ながら菅内閣官房長官の定例会見に出席し、加計学園の“総理のご意向”文書について厳しい質問を投げかけたことで一躍注目を浴びた人物。

官房長官の定例会見は10分ほどで終わるのが通例のところ、望月氏は1人で20回以上質問を繰り返し、いつも冷静な菅官房長官を苛立たせた。最近では、麻生財務大臣の記者会見にも顔を出して、森友文書の書き換え問題についてしつこく質問を続けていました。官邸は望月氏への対応に頭を悩ませているようです」(官邸担当記者)

厳しい権力チェックで、“官房長官の天敵”となった望月氏は2000年中日新聞に入社。事件を中心に取材し、04年には「日歯連事件」をスクープした。昨年10月には新聞記者としての自身の経験を綴った著書『新聞記者』(角川新書)を上梓。前述の菅官房長官との“対決”をはじめ、幼少期からジャーナリストになるまでの半生や、自身が報じた数々のスクープを紹介している。

その著書の映画化の話が水面下で進んでいるというのだ。

「望月記者役には蒼井優さんのほか、満島ひかりさん(32)も候補として挙がっているようです。朝日新聞KADOKAWAが出資を検討中のようですが、製作委員会はまだ作られておらず、撮影開始の時期も未定。公開は来年以降になる見込みです。ちなみに東京新聞は、“採算がとれるかどうか”としり込みしているとか(笑)」(前出・映画業界関係者)

監督には、オウム真理教をテーマにしたドキュメンタリー映画『A』などで知られる森達也氏を予定しているという。

(後略)(年齢等は当時の記事のママ)

蒼井優満島ひかりも大好きな女優だし、
森達也監督作品も、
『A』(1997年)
『A2』(2001年)
『FAKE』 (2016年)
などを見て、嫌いな監督ではなかったし、
公開されるのを首を長くして待っていた。
だが、その後、様々な事情により、大幅に予定変更されることとなる。
昨年(2018年)12月初旬に届いた知らせでは、
新聞記者役には、シム・ウンギョンという韓国人女優。
以前の情報では、蒼井優満島ひかりなどが候補になっていたが、
やはり、政治色がつくことから、キャスティングされなかったようだ。
内閣情報調査室の若きエリート役は松坂桃李に決まり、
監督は、若手注目映像作家・藤井道人
半年前の予想とは大きく違ってしまったが、
「日本の闇」をえぐり出し、今の社会に強烈な問題提起するであろう作品なので、
キャスティングにも監督選出にも紆余曲折あったことは容易に想像できる。
むしろ、よくぞ制作にこぎつけたと言うべきであろう。
撮影は、12月初旬から約3週間ほどで終了し、
その後、2019年6月28日(金)に公開されることが発表された。
それで、待ちに待って、先日、ようやく見ることができたのだった。



ある夜、
東都新聞社に「医療系大学の新設」に関する極秘公文書が匿名FAXで届く。
表紙に羊の絵が描かれた同文書は内部によるリークなのか?
それとも誤報を誘発するための罠か?


日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、
ある思いを秘めて日本の新聞社で働く若き記者・吉岡エリカ(シム・ウンギョン)は、
その書類を託されことにより、真相を突き止めるべく取材を開始する。


一方、
内閣情報調査室、通称・内調で働くエリート官僚の杉原拓海(松坂桃李)は、
国民に尽くすという信念とは裏腹に、
現政権を維持するための世論コントロールという仕事に葛藤していた。


愛する妻・奈津美(本田翼)の出産が迫ったある日、


彼は久々に外務省時代の上司・神崎俊尚(高橋和也)と再会するのだが、


その数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。
真実に迫ろうともがく若き新聞記者と、
「闇」の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚。
神崎の通夜が行われた日、偶然にも言葉を交わした二人は、


やがて、官邸が強引に進めようとする驚愕の計画を知ることとなる……




映画を見た感想はというと、
とても面白かったし、映像も素晴らしかったと思うのだが、
期待したものとは、ちょっと違うような気がした。
もっと生々しく、ハラハラさせられるような映画になっていると思っていたのだが、
そこまでの作品にはなっていなかった。
原案となった望月衣塑子著『新聞記者』を事前に読むなどして、


準備万端で鑑賞したこともあって、
私自身の期待度が高過ぎたのかもしれないが、
やや薄味に感じてしまったのだ。
そう感じてしまった第一の要因は、
本作は「新聞記者」対「内閣情報調査室」が主旋律となっており、
首相や官房長官はおろか、政治家がほとんど登場しないことが挙げられる。
「現政権をリアルに描く映画を作りたい」
という、当初掲げられていた制作意図が、消えているような印象を受けたのだ。
森友学園加計学園問題などを想像させるものの、
架空のオリジナルストーリーとして物語が展開するので、
迫力に欠けることは否めない。

最初はリアルな事件をリアルに描こうか? とも思いましたし、実名を使ってやることも考えていたんですが、企画を進めていくうちに、多くの人に見てもらうためには、フィクションとしてエンタテインメントとして作る、というところに行き着きました。内調を取り上げたのは、安倍政権の象徴であると同時に、最も触れてほしくないところではないかと思ったからです。実は、望月さん自身も「内調にマークされている」と間接的に伝えられたことがあると聞きました。ですから、最も触れてもらいたくない内調に新聞記者が斬りこむというテーマで、エンタテインメント作品を作っていくことに決めました。(『キネマ旬報』2019年7月上旬号)

こう語るのは、本作のエグゼクティブ・プロデューサーの河村光庸だ。

本作の原案となる『新聞記者』(角川新書)を著した望月衣塑子も次のように語る。


映画化については『新聞記者』をそのままというのは難しいし、あまり生々しく描きすぎても反安倍的と見られて受け入れられにくいのではないかと思っていました。その点、河村光庸プロデューサーから初めに言われた「バックグラウンドに安倍晋三政権の問題を描きながらも、フィクション仕立てにして広い層に共感してもらいたい」というコンセプトはすごくおもしろいと感じて、快諾しました。ただ、(実際に起きた政治的な事件などを扱った映画の多い)アメリカとはだいぶ文化が違いますし、映画界を含め、日本は萎縮傾向にあるので、俳優を集めることや宣伝など、「ハードルが高いかな?」とも思っていました。(『キネマ旬報』2019年7月上旬号)

なるほど、私が期待したような生々しいストーリーでは、
映画館や出資者の協力も得られないだろうし、
出演者も躊躇せざるを得なくなる。
実際、制作を依頼したいくつかの会社からは「テレビから干されるから嫌だ」と言われ、
断られてもいるようだ。
藤井道人監督も、テレビ業界からスポイルされるかもしれないと、悩んでいたと聞く。
様々な試行錯誤の末に、行き着いた形が、
政治家の登場しない「新聞記者」対「内閣情報調査室」だったのだ。

内調(内閣情報調査室)は不気味な組織である。
内閣官房ホームページでは、こう定義してある。

内閣情報調査室は、内閣の重要政策に関する情報の収集及び分析その他の調査に関する事務並びに特定秘密の保護に関する事務を担当しており、内閣情報官のもとで、次長及び総務部門、国内部門、国際部門、経済部門、内閣情報集約センター並びに内閣衛星情報センターで分担し、処理しています。

その役割については、

当室では、メディア(新聞、雑誌、専門誌、通信社ニュース、テレビ、インターネット等)からの膨大な公開情報のほか、学識経験者や民間の専門家等の様々な情報源との意見交換によってもたらされる情報、情報収集衛星による画像情報を収集・整理し、国内外の諸情勢に関する分析業務を行っています。また、外交・防衛・治安等の情報を担当する省庁によって構成されている「情報コミュニティ」の取りまとめ機関として、これらの省庁が収集・分析した情報を集約し、内閣の立場から分析・評価を行っています。

と記してある。
内閣府庁舎6階にあり、
生え抜きの職員をはじめとして様々な省庁からの出向者が所属しているが、
内閣情報官を筆頭に、警察庁からの出向者が多く、
霞が関では警察庁出先機関と捉えられている。
定員数は415名(内閣情報調査室194名、内閣衛星情報センター221名、2018年(平成30年)4月1日現在)。
日本版CIA構想の先駆けとして創設されたものだが、
その実態は長らく謎とされていた。

この機関のトップである北村滋内閣情報官は、現在、首相と最も頻繁に会っている人物で、彼の指揮のもとで内調は様々な情報活動をしているのでは、と言われています。また安倍政権はマーケティング手法というか、SNSなどを駆使してイメージ戦略にも長けていますよね。今年5月の改元や来年の東京オリンピックというお祭りムードを利用して国威の高揚をはかろうとする一方で、東日本大震災が起こって以来、避難を続けている人たちの存在や北朝鮮からの“ミサイル攻撃”を強調して「非常事態が継続している」という雰囲気を作ろうする。しかも、それを直接的に行うのではなく、社会全体に広がる“同調圧力”という形で進めている点が、非常に現代的です。(『キネマ旬報』2019年7月上旬号)

河村光庸プロデューサーがこう語るように、
内閣総理大臣直属の内調(内閣情報調査室)を描くことで、
本作は、安倍政権の裏側を暴こうとしているのだ。

映画では、内閣参事官田中哲司が演じており、
彼の怪演が内調を一層不気味なものにしている。


外務省から内調に出向中の若手官僚・杉原(松坂桃李)は、
政権に不都合な事件から国民の目をそらすための「情報操作」を命じられ、
疑問を抱きながらも事を進めていくが、
社会人としての組織内倫理と、
ひとりの人間としての個人的倫理とのせめぎあいの中で苦悩する。


最近、霞ヶ関覚醒剤逮捕事件が相次いでいるが、
エリートコースを歩んできた者たちの苦悩を象徴しているようで、痛ましい。
松坂桃李は、若手官僚・杉原を実に巧く演じていて、感心させられた。
言葉は少なく、立ち姿や表情のみで表現しなければならないシーンが多く、
苦労も多かったのではないかと推測される。
ここ数年、松坂桃李はいろんな役に挑戦しているが、
本作での若手官僚役が最も難しかったのではないだろうか……
彼にとってはかなりリスキーな作品であり、役柄であったと思われるが、
「よくぞトライした」と褒めたいと思う。



東都新聞記者・吉岡エリカを演じたシム・ウンギョン。
日本語の意味をまだ完全に理解していない所為か、
言葉と表情がすこしずれているように感じたが、
それは見る者にとっては許容範囲であったろう。
むしろ、よくぞここまで日本語を勉強してくれたと、感謝したい。
表現力は優れており、
感情をぶつけるのではなく、抑えた演技が印象に残った。



藤井道人監督作品は、
今年(2019年)の1月26日に公開された『デイアンドナイト』を見ていたし、
……“善と悪”というテーマに真っ向から挑んだ傑作……
とのサブタイトルを付けてレビューも書いている。(コチラを参照)
本作『新聞記者』は、藤井道人監督作品らしい暗めの色調で統一されており、


内調のコンピューターが並べられた無機質なモノトーンの空間や、
騒がしい筈の新聞社の内部も妙に落ち着いた雰囲気があり、美しい。
暗い空間に、人物だけが浮き上がる映像が秀逸であった。


この映画を見ると、
我が国の行政機関もマスコミも深く病んでいることが実感される。
国民も、情報操作に踊らされ、正しい判断ができなくなっていることが判る。
新聞を読まなくなり、情報をネットからしか受け取っていない若者は、
内調にとっては最も操作しやすい人種であろう。

夏の参議院選挙も間近に迫っている。
「もっと政治に目を向けないと、ヤバイよ」
とは、藤井道人監督の弁。
映画館で、ぜひぜひ。



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