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照屋年之監督と言っても、知らない人が多いと思う。
お笑いコンビ「ガレッジセール」のゴリ……と言えば、
「ああ~」と分ってもらえるのではないか。
【照屋年之】
芸名:ガレッジセール・ゴリ。
1972年5月22日沖縄県那覇市出身。
日本大学芸術学部映画学科演劇コースを中退後、
中学の同級生だった川田広樹とお笑いコンビ、ガレッジセールを結成。
テレビ番組を中心に活躍し、
2005年には「ゴリエ」のキャラクターで大ブレイクし、
「第56回紅白歌合戦」では歌手として出場。
その後は俳優としても活躍の場を広げ、
NHK連続テレビ小説「ちゅらさん」では主人公の兄役を好演。
2006年、短編映画『刑事ボギー』で監督デビューを果たす。
『born、bone、墓音。』(2016)は、
ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2017のジャパン部門賞グランプリ、
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017でも観客賞を受賞するなど、高い評価を受け、
芸人、俳優、映画監督と多岐に渡り、活躍している。

恥ずかしながら、実は私も、彼が映画を撮っていることはまったく知らなかった。
2006年 『刑事ボギー』(短編・監督デビュー作)
2007年 『ボギー☆ザ・ヒーロー』(短編)
2009年 『南の島のフリムン』(長編・長編監督デビュー作)
2011年 『伝説の家族』(短編・自主映画)
2012年 『SNS』(短編・自主映画)
2013年 『税金サイボーグ・イトマン』(短編)
2014年 『ロクな人生』(短編)
2015年 『やんばるキョ!キョ!キョ!』(短編)
2016年 『born、bone、墓音。』(短編)
2017年 『選ばれた男』(短編)
と、10数年前から毎年のように撮っていたようで、
短編映画を9作、
そして、長編監督デビューもすでに果たしていたのである。
本日紹介する『洗骨』は、
2016年製作の短編映画『born、bone、墓音。』を原案に、

ゴリが本名の照屋年之名義で監督・脚本を手がけた長編映画なのである。

本作の評判の良さは佐賀まで届いていたが、
2月9日公開の本作は、当初、佐賀では上映館がなかった。
その後、2ヶ月遅れの4月12日から佐賀でも上映されることが決まり、
昨日(4月13日)、天山に登った後に、上映館であるシアターシエマに駆けつけたのだった。

沖縄の離島、粟国島・粟国村に住む新城家。
長男の新城剛(筒井道隆)は、

母・恵美子(筒井真理子)の“洗骨”のために、4 年ぶりに故郷・粟国島に戻ってきた。
実家には、剛の父・信綱(奥田瑛二)がひとりで住んでいる。

生活は荒れており、
恵美子の死をきっかけにやめたはずのお酒も隠れて飲んでいる始末。
そこへ、名古屋で美容師として活躍している長女・優子(水崎綾女)も帰って来るが、

妊娠している姿に一同言葉をなくす。

様々な人生の苦労とそれぞれの思いを抱え、
家族が一つになるはずの“洗骨”の儀式まであと数日、
果たして 彼らは家族の絆を取り戻せるのだろうか……

粟国島(あぐにじま)は、
沖縄県本島那覇市の北西約60kmに位置する小さな島で、


数万年前まで火山の島であった。
白色凝灰岩でできた白亜の壁は、他の離島にはない見所の一つとなっている。

“洗骨”とは、
今はほとんど見なくなった風習で、粟国島などに残っているとされる。



粟国島の西側に位置する「あの世」に風葬された死者は、
肉がなくなり、骨だけになった頃に、
縁深き者たちの手により骨をきれいに洗ってもらうことで、
晴れて「この世」と別れを告げることになる。

“洗骨”という耳慣れない言葉に、
ちょっと、おどろおどろしい物語を想像したが、
実際に見た映画は、笑いあり、涙ありの、感動作であった。
お笑い芸人のゴリが監督とはいえ、
正直、これほど笑わされるとは思わなかった。
冒頭から笑わされ、
途中の深刻な場面もクスッとさせられ、
コメディー映画と言っていいほどに“笑い”を重要視した作品であった。
これまで、芸人と言われる人たちが撮った映画を何作か見ているが、
“笑い”の部分が浮いていて、笑えない作品が多かった。
だが、本作は、脚本にうまく“笑い”が組み込まれていて、感心した。
“洗骨”という題材は特殊だが、
死と生を対比させるという「ありがちな」ベタな内容だったので、
本来ならつまらない映画になりそうなものなのだが、
そうならなかったのは、脚本も担当した照屋年之監督が優れているからだろう。
このようなオーソドックスな作りの映画こそが難しいのだが、
照屋年之監督は、“笑い”を絡めながら、実に完成度の高い作品に仕上げている。
見事だと思う。

主演は、父・信綱を演じた奥田瑛二なのだが、
本作で最も存在感を放っていたのは、
信綱の姉・高安信子を演じた大島蓉子であった。

この映画に出てくる男たちは、
信綱(奥田瑛二)にしろ、

長男・剛(筒井道隆)にしろ、

優子(水崎綾女)のお腹の子の父親である神山亮司(鈴木Q太郎)にしろ、

それぞれ、どこかしら「情けない」部分を持っており、
新城家を取り仕切っているのは、実は高安信子(大島蓉子)なのである。
信綱、剛、神山亮司を、
「しっかりしろ」と叱り、励ますのは、彼女の役目なのである。

この高安信子を大島蓉子は実に巧く演じていた。
あらゆる作品の端々に登場しており、
よく見かける女優であったが、代表作といえるような作品はなかったような気がする。
本作『洗骨』の舞台挨拶で、
「初めての舞台挨拶なので緊張していますが 2 度 3 度と足を運んでいただいて、この映画を知らない方にも教えてあげてください」
と語っていたが、

舞台挨拶にも登場するような重要な役を得て、
しかも実力も発揮することができて、
これ以上ない歓びであったのではないだろうか。
今年(2019年)公開の映画を対象とする第6回 「一日の王」映画賞では、
最優秀助演女優賞の有力候補になることは間違いない。

大島蓉子の次に存在感があったのは、
長女・優子を演じた水崎綾女であった。

妊婦姿がサマになっていたし、
出産シーンも、迫真の演技で、
見ている方も手に汗握らされるようなドキドキ感があった。

目鼻立ちがはっきりしており、
〈沖縄出身の女優さん?〉
と思わせるほどに、沖縄に馴染んでいたように思った。(水崎綾女は兵庫県出身)
ふとした表情が、(沖縄出身の母親を持つ)小松菜奈に似ており、

そういう意味でもドキドキさせられた。(コラコラ)
水崎綾女という女優は知ってはいたものの、
彼女のプロフィールを見ても、
彼女の出演作はほとんど見ていなかった。
見ている作品もあったが、彼女のことはほとんど印象に残っていなかった。
水崎綾女自身も、この作品と巡り合う前は引退も考えていたそうで、
『洗骨』で重要な役を得て、しっかり演技できたことで、
「(女優人生の)第二章の始まり、スタートのような気がしています」
と舞台挨拶で語っていたのが印象に残っている。

父・信綱を演じた奥田瑛二。

これまでは、「どうだ」と言わんばかりのオーバーな演技をする俳優という印象があったが、(失礼)
本作では、息子から蔑みの言葉を投げかけられるほどのしょぼくれた父親を、
実に巧く演じていて、感心させられた。
主演でありながら、むしろ自ら存在感を消しているような印象さえあった。
この年齢になって、よくぞこんな映画に巡り合えたと思います。昔巨匠と仕事をしたとき、脚本を読んだ瞬間に「監督に会いたい~!!」と叫んだ。そして今回も「監督に会いたい~!!」と叫んだんです。思えば 20 数年、一生懸命仕事をしてきたけれどそんなことはなかった気がします。だから気合が入りすぎて、役作りをどうしていたのか、どんなことを思いながら沖縄にいたのか記憶がない。それくらい強い想いと自信をもって、お届けできていると思います。
と舞台挨拶で語っていたが、

記憶がないほど、無心に役に取り組んでいたことが窺える。
演技をしていると思わせないほどの演技で、
島の男に成りきっていたのは、見事という他にはないだろう。

その他、
長男・剛を演じた筒井道隆、

高安信子(大島蓉子)の夫・高安豊を演じた坂本あきらなどが、
素晴らしい演技で作品を盛り上げていた。

信綱(奥田瑛二)の死んだ妻・新城恵美子を、
私の好きな筒井真理子が演じていたのも嬉しかった。

先程、大島蓉子のことを、
今年(2019年)公開の映画を対象とする第6回 「一日の王」映画賞では、
最優秀助演女優賞の有力候補になることは間違いない。
と述べたが、
作品賞(『洗骨』)としても、
監督賞(照屋年之)としても、
主演男優賞(奥田瑛二)としても、
もう一人の助演女優賞(水崎綾女)としても、
第6回 「一日の王」映画賞にノミネートされる可能性がある。
それほどの傑作である。
映画館で、ぜひぜひ。