
塚本晋也監督作品である。
以前、『野火』(2015年)という作品を見て、

レビューを書こうとしたのだが、
原作本を読み返したりしているうちに時間が経過し、
書く機会を逸してしまった。
『斬、』は昨年(2018年)の11月24日に公開された作品で、
私は佐賀のシアターシエマで12月12日に見たのだが、
これも、どういう風に書こうかと悩んでいるうちに、
早1ヶ月が経とうとしている。
このままだと、『斬、』もレビューを書かずじまいになりそうだったので、
短くてもいいから何かを書き残しておこうと思い、
こうして書き始めている次第。
この映画を見たいと思ったのは、
塚本晋也監督作品であり、池松壮亮が出演しているということもあるが、
私としてはやはり、蒼井優が出演していることが大きな要因であった。
蒼井優は大好きな女優で、
デビュー当時の岩井俊二監督作品も見ているが、
このブログでレビューを書いたのは、
『ニライカナイからの手紙』(2005年)が最初だった。

地味な映画である。
有名な俳優も少ない。
素人を多く起用しているようで、子役も含めて、演技もうまいとは言えない。
セリフが少ない映画で、最初はドキュメンタリーを見ているような感じだった。
映画を見始めてしばらくは、「この作品、大丈夫だろうか?」とちょっと心配もした。
だが、風希が成長し、蒼井優が出てくると、この映画は安定感を増し、安心して見ることができた。
それにしても、蒼井優の存在感はどうだ!
彼女が出てきただけで、映画が引き締まる。
演技も文句なし。
少女から大人への変化を見事に演じきっている。
(全文はコチラから)
蒼井優はデビュー当時から、その存在感が群を抜いていた。
スクリーンに現れただけで、見る者を惹きつける。
このブログ「一日の王」では、その後も、
『男たちの大和/YAMATO』(2005年)
『ハチミツとクローバー』(2006年)
『フラガール』(2006年)
『雷桜』(2010年) -
『洋菓子店コアンドル』(2011年)
『るろうに剣心』シリーズ(2012年)(2014年)
『東京家族』(2013年)
『春を背負って』(2014年)
『家族はつらいよ』シリーズ(2016年)(2017年)(2018年)
『オーバー・フェンス』(2016年)
『ミックス。』(2017年)
『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)
など、多くの作品のレビューで、
蒼井優の魅力を伝えてきたし、
その存在感を絶賛してきた。
彼女の魅力は、舞台を観ても変わらなかった。
昨年(2018年)2月、
北九州芸術劇場で舞台『アンチゴーヌ』で生の演技を観たが、
なにもかもが圧倒的で、
蒼井優という女優の存在そのものに魅せられてしまった。
凄い女優だと思った。

その蒼井優の出演した新作映画が、
塚本晋也監督作品ということで、
〈蒼井優がどんな演技をしているのだろう……〉
〈塚本監督が彼女をどんな風に撮っているのだろう……〉
と、ワクワクしながらシアターシエマへ向かったのだった。

250年にわたって続いてきた平和が、
開国か否かで大きく揺れ動いた江戸時代末期。
困窮の末に藩を後にし、
農村の手伝いをする浪人の杢之進(池松壮亮)は、
近所に住む姉弟のゆう(蒼井優)と、市助(前田隆成)と共に、
時代の変化を感じながらも静かに過ごしていた。

そこへスゴ腕の剣士・澤村(塚本晋也)が現れ、
杢之進の剣の腕を見込んで動乱の京都に彼に誘いをかける。

旅立つ日が近づくなか、
無頼者(中村達也)たちが村に流れてくる……

塚本晋也が時代劇に初挑戦した作品で、
監督だけでなく、脚本、撮影、編集、製作に加え、出演もこなしている。
これまでの塚本晋也監督作品からして、
『散り椿』のような普通の時代劇とは異なったものになっていることは容易に想像できた。
で、その予想通り、
自身の監督作『鉄男』(1989年)などを、
江戸時代末期という時代背景に描いたような作品であった。
言葉遣いは現代風であり、
登場人物の髪型も今風である。
盗賊を演じた中村達也の頭など、ドレッドヘアそのものである。(笑)

これまでそういった時代劇をあまり見たことのない若者たちは、
そのことを「Yahoo!映画」のユーザーレビューなどで批判していたが、
市川崑の『股旅』(1973年)や、
黒木和雄の『竜馬暗殺』(1974年)などを見てきた世代としては、
なんだか懐かしささえ感じるほどに、違和感はなかった。
塚本晋也監督は語る。
まさにその二本(『股旅』、『竜馬暗殺』)が、一等最初の指針です。中学の時に他の時代劇より先にその映画を観て、70年代の作品だから、ショーケンさんが長髪のまま幕末にイッちゃったような感覚で、生々しく、強い印象を受けました。竜馬もやっぱりその時代の長髪の若者が、時代劇に照らし合わせて生きているような生々しさが面白かったので、何かああいう時代劇が作りたいという想いがありました。(『キネマ旬報』2018年12月上旬号)

時代劇で自慰をしているシーンは、これまであまり見たことがないが、(笑)
この『斬、』では、杢之進(池松壮亮)が自慰をしているシーンが出てくる。
もともと漠然としたものですけど、刀を見つめる若者が自慰をする、という画を20年以上前からイメージしてまして、(中略)主人公、絶対してるよなって(笑)。とにかく、腕は立つけど、刀をやたら見つめる浪人、じっと見つめ、何だろう、これ何だろう……と考え込むイメージ。松田優作さん的な“ナンジャこりゃ!”風の騒々しいノリも考えてましたが、実際は静かにテンションの高い作品に仕上がりました。(『キネマ旬報』2018年12月上旬号)

と、塚本晋也監督は語っていたが、
腕は立つけど、人を斬ることができない杢之進(池松壮亮)は、
市助(前田隆成)が荒くれ浪人集団に殴られた時にも、
ゆう(蒼井優)がレイプされそうになった時にも、何もできない。

刀はペニスの象徴であり、
刀(ペニス)を実際に使うことができない杢之進は、
生身の女性に怖気づいて、
自慰で性欲をまぎらわしている実戦経験のない男のようでもある。
仕返しをするのは、スゴ腕の剣士・澤村(塚本晋也)で、
実際に刀(ペニス)を使うことのできる大人として描かれている。

このことについても、塚本晋也監督は、
時代劇ファンからしたら、この主人公の働かなさはイラつくと思いますよ(笑)。どちらかと言うと、澤村が喝采を送られる方だと思います。親しい人がやられた時に、私がやると立ち上がった、よっしゃイケー。実際編集してて僕もそう思いますから。ただ、そんな爽快感ではなく、観客の額にも刃が突き刺さってくる映画にしたかった。(『キネマ旬報』2018年12月上旬号)

と、語っている。
たぶん、時代劇の爽快感よりも、
時代や、時代が個人に及ぼす不安感を描きたかったのだろう。
そのことは概ね成功しているし、
見る者にも覚悟を問う作品になっている。

ゆうを演じた蒼井優は、

この塚本晋也監督作品『斬、』を、どのように捉えていたのか?
この台本は映画学校の教材にしてもいいほどで、演じる人の解釈に応じた多彩な表現が生まれるはず。「どんなメソッドで取り組むのか」という問いかけのある台本なんです。私は江戸時代に限らず、血の流れる場において「女性の存在って何なのだろう?」と考えさせられたのですが、観客の皆さんには、自由な捉え方をしてほしいなと思っています。“ゆう〝と澤村との関係も、杢之進よりも強い澤村への愛情表現と取るか、杢之進に対する当てつけ、あるいは迫り来る状況に対する自暴自棄としてもいい。それが塚本さんのホンの面白さですね。普通ならば唇を重ねるシーンで“ゆう”は、杢之進の指を噛んで首を絞めるんですよ。こういう不思議な行動に見える、表現の持つ余白が全篇素晴らしい! 私は受け手を挑発するような、映画の中の“余白ある表現”が大好きです。(『キネマ旬報』2018年12月上旬号)

この映画には、
塚本晋也監督の「このようなものを作りたい」という気持ちが込められていて、
蒼井優が語るところの“余白ある表現”が、
観客の想像力を刺激し、驚かされたり、興奮させられたりする。

だが、これまであまり多くの映画を見てきていない人にとっては、
置き去りにされたような“戸惑い”を感じてしまうかもしれない。
その“戸惑い”こそが塚本晋也監督作品の面白さなのだと気づくことができれば、
これまであなたが知らなかった世界がきっと開けることだろう。
映画館で、ぜひぜひ。