
2014年02月27日に書いた、白石和彌監督作品『凶悪』のレビューを、
私は、つぎのように書き出している。(全文はコチラから)
大好きなリリー・フランキーが出演しているので、
どうしても見たかった映画『凶悪』。
公開されたのは、昨年(2013年)9月21日であったが、
佐賀県での上映館はなく、
〈福岡まで見にいかなくては……〉
と思っている間に、上映終了してしまい、
昨年はとうとう見ることができなかった。
DVDの発売(2014年4月2日)を待たねばならないか……
と思っていたところ、
小倉の昭和館で、
2月22日から3月14日まで上映されることを知り、歓喜。
昨日、ようやく見ることができた。
わざわざ佐賀の田舎から北九州市まで見に行ったのであるが、
1本分の映画の上映時間や料金よりも、
(往復の時間やお金が)何倍もかかったにもかかわらず、
まったく損した感じはなく、得した気分しか残らなかった。
それほど、この『凶悪』が素晴らしかった。
……リリー・フランキーとピエール瀧の狂気の再現力が光る傑作……
というタイトルでレビューを書いたのだが、
白石和彌監督にも感心し、
次のように記している。
監督は、白石和彌。
1974年12月17日生まれ。北海道出身。
1995年、中村幻児監督主催の映像塾に参加。
以後、若松孝二監督に師事し、
フリーの演出部として行定勲、犬童一心監督などの様々な作品に参加。
長編デビュー作『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(2009年)を経て、
本作の監督を手がけている。
長編2作目にして、この傑作をものするとは、すごい才能である。
脚本、演出ともに秀逸であるが、
感心したのは、キャスティング。
よくもこれだけの個性派を集めたものだと思う。
以後、白石和彌監督作品には常に注目していたし、
鑑賞後にレビューも書いている。(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
『日本で一番悪い奴ら』(2016年)〈R15〉
『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)〈R15〉
『サニー/32』(2018年)〈PG12〉
『凶悪』〈R15〉もそうであったが、
内容が過激で、R15指定連発の白石和彌監督であるが、(笑)

またまたR15指定の白石和彌監督の新作が公開された。
『孤狼の血』(2018年5月12日公開)である。

原作は、美しき作家・柚月裕子。

このブログ「一日の王」では、『慈雨』という小説のレビューを書いているが、
もともと好きな作家なので、『孤狼の血』もすでに読んでいた。

『仁義なき戦い』シリーズにインスパイアされて書かれた小説で、
いつかは映画化されるだろうと思っていたが、
『仁義なき戦い』シリーズの東映が名乗りを上げ、
白石和彌が監督するとは、嬉し過ぎる。
脚本は、『日本で一番悪い奴ら』の脚本も手掛けた池上純哉。
音楽も、『日本で一番悪い奴ら』に参加していた安川午朗。
役所広司が主演を務め、
松坂桃李、真木よう子、滝藤賢一、田口トモロヲ、石橋蓮司、江口洋介、竹野内豊、中村獅童、ピエール瀧、中村倫也、阿部純子など、共演陣にも期待が持てる。
公開初日の夜、仕事帰りに、
ワクワクしながら映画館に駆けつけたのだった。

昭和63年、
暴力団対策法成立直前の広島・呉原。
ここでは、暴力団組織が街を牛耳り、
新勢力である広島の巨大組織五十子会系「加古村組」と、
地元の「尾谷組」がにらみ合っていた。
所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡秀一(松坂桃李)は、

ヤクザとの癒着を噂される刑事“ガミさん”こと大上章吾(役所広司)のもとで、

加古村組の関連企業「呉原金融」の経理担当社員が失踪した事件の捜査を担当することになる。
五十子・加古村組から尾谷組への挑発が続いていることから、
大上は、日岡を連れて、尾谷組の若頭・一之瀬守孝(江口洋介)に会う。

一之瀬は、若手の暴走を抑えるのにも限度があると大上に告げる。
呉原にある高木里佳子(真木よう子)がママを務める“クラブ梨子”で、
大上と日岡と一之瀬が飲んでいるところに、

五十子正平(石橋蓮司)と加古村猛(嶋田久作)が現れる。

偶然と語る五十子と加古村だったが、
呉原進出に本腰を入れてきたことは明らかだった。
大上は、旧知の仲の五十子会系の右翼団体代表の瀧井銀次(ピエール瀧)から、
「呉原金融」の経理担当社員・上早稲二郎(駿河太郎)が、

加古村組の若頭・野崎康介(竹野内豊)らから拉致されたとの情報を得る。

その証拠集めに向かう大上は、
日岡が止めるのも聞かずに、
飢えた狼のごとく、放火・窃盗・違法侵入などの多くの違法捜査を繰り返す。

そんな大上のやり方に戸惑いながらも、
日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく……

のっけからの凄いシーンにのけ反りそうになる。(笑)
なにか食べながら見ていた人は、吐きそうになるのではないだろうか……
だから、飲食しながらの鑑賞は止めた方が無難だと思う。
冒頭からそれくらいのインパクトがある。
映画を見に行かない人に、
「なぜ行かないのか?」
と訊くと、
「2~3年すればTVでタダで観ることができるから……」
と答える人が多い。
だが、この映画『孤狼の血』は無理だろう。
TVでは到底見ることのできない映像だからだ。
このファーストシーンを試写で見て、役所広司は吹き出したという。
愉快だったからではない。逆だ。
いやあもう、エグくてエグくて(笑)。いきなりこんなシーンから始めるか! と思ったら笑えてきちゃってね。この映画、テレビに買ってもらう気はさらさらないんだな、と。そんな潔さに、“おお! やった!”みたいな気持ちについついなってしまいまして(笑)。(「キネマ旬報」2018年5月下旬号)
白石和彌監督もこう語る。
東映からも、かつての実録ヤクザ映画の頃の熱気を取り戻したい。振り切った演出を、というオーダーだったので。(「キネマ旬報」2018年5月下旬号)
この冒頭のシークエンスは、実は、原作にはない。
原作は、完成度の高い作品で、とても面白い小説であった。
単なる『仁義なき戦い』の焼き直しではなく、
トリックも用いており、ミステリーとしても一級品であった。
だが、脚本を担当した池上純哉はこの原作を一旦壊し、再構築している。
そこに白石和彌監督の演出が加わり、
原作にはなかったエグさやグロさがプラスされ、
東映映画らしいテイストになっている。
冒頭のシーンで心をわしづかみにされ、
後は引っ張られるように物語の中へ引きずり込まれる。
〈原作を読んでいるので、面白味が薄れるかな~〉
と危惧していたが、
まったくそんなことはなくて、
原作を読んでいる方が(読んでいたからこそ)、より楽しめたような気がする。
「呉原東署・捜査二課・暴力団係・班長」の大上章吾を演じた役所広司。

原作では、ダーティーながらもカッコイイ刑事であったが、
映画で役所広司が演ずる“ガミさん”は、
原作よりも“どぐされ”感や、“エロ”感が増しており、
尋常ではない“暑苦しさ”と“男臭さ”が感じられた。
『渇き。』(2014年)の元刑事役のときも凄かったが、
本作『孤狼の血』には『渇き。』にはなかったダンディズムが感じられ、
とても魅力的だった。
どんな役をやってもその役の人物に思えてしまう演技力と存在感は圧倒的で、
役所広司ありきの『孤狼の血』であったと思う。
役所広司を主役にキャスティングできた時点で、
この映画が良いものになるということがほぼ決定したと言っていいだろう。

「呉原東署・捜査二課・暴力団係・大上班」のメンバー・日岡秀一を演じた松坂桃李。

数年前までは、単なるイケメン俳優であったが、
ここ2~3年、意識していろんな役に挑戦しているのが判る。
『ユリゴコロ』(2017年9月23日公開)
『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年10月28日公開)
『不能犯』(2018年2月1日公開)
『娼年』(2018年4月6日公開)
など、難役に挑む姿勢は評価に値する。
その挑戦する志の最初の到達点が、本作『孤狼の血』と言えるかもしれない。

映画が順撮りだったかどうかは分らないが、
映画の後半になるに従って、彼の演技が進化していくのが判ったし、
凄みが増していくのが感じられた。

どんどん逞しくなっていくのがわかった。
と役所広司も語っていたが、
この映画が松坂桃李という俳優にとって、
良い意味でのターニングポイントになることは間違いないだろう。

「尾谷組」の若頭・一之瀬守孝を演じた江口洋介。

原作では、大上に従順な感じで、仁義に厚く、激しい感情をあまり見せない男であったが、
映画では、大上にあまり従順ではなく、策を弄したり、激高したり、
ヤクザらしいヤクザに変更してあった。
江口洋介自身はヤクザの役は初めてだったらしいが、
非情さや冷酷さも併せ持つ一之瀬守孝を実に巧く演じていた。

“クラブ梨子”のママ・高木里佳子を演じた真木よう子。

原作では、「小料理や 志乃」の晶子という女が担っていた役を、
映画では“クラブ梨子”のママ・高木里佳子に変更してあった。
原作では、もう少し線の細い感じの女性をイメージしたが、
映画では、真木よう子という、好い意味での「オトコマエ」な女優が演じたことで、
情緒的な部分が減り、“男の世界”が強調され、
逆に真木よう子をより女性として感じてしまった。
ネットの世界は相手を攻撃することばかり考えている連中が多いので、
これからはTwitterやInstagramやCrowdfundingなどには安易に手を出さず、
大衆に迎合することなく、
いつまでもミステリアスな女優として活躍してもらいたい。

「五十子会」の組長・五十子正平を演じた石橋蓮司。
ヤクザ映画には欠かせない男優で、
この手の映画では必ずと言っていいほど出演している。
だからと言ってワンパターンな演技ではなく、
それぞれに工夫を凝らし、見る者を飽きさせない。
この作品での演技も秀逸なので、見逃さないように……
石橋蓮司が薬師丸ひろ子の歌声を聴いて号泣し、
薬師丸ひろ子のコンサートにも行っているという話はこのブログにも書いたが、
そういった純情な心を持った俳優だということにも私は好感を抱いている。
まさに、私の“同志”である。

「瀧井組」の組長(全日本祖国救済同盟の代表)・瀧井銀次を演じたピエール瀧。
白石和彌監督作品には欠かせない俳優で、
『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『サニー/32』に次いで、4作目の出演になる。
テクノバンド「電気グルーヴ」のメンバーであり、ミュージシャンなのに、
その悪人顔故に、この手の凶悪な映画には引っ張りだこで、
北野武監督作品『アウトレイジ 最終章』(2017年)にも出演していた。
本作では、これまでのような凶悪さはあまりなく、
恐妻家であり、(笑)
大上とは学生時代からの喧嘩仲間のような役で、
この手の出演映画では、もっとも人間味のある役であった。

アルバイトの薬剤師・岡田桃子を演じた阿部純子。

原作にはない役で、
日岡秀一(松坂桃李)と恋人関係になるバツイチ女性の役であったのだが、

この映画に出演女優が少なかったということもあろうが、
出演シーンは多くはないものの、妙に印象に残る女優であった。
私は、阿部純子という女優を知らなかったのだが、
本作を見て、“良い女優”だと思った。
原作では、男と女の恋愛模様はほとんど描かれていなかったので、
“ドライ”な作品に“潤い”を出すために映画ではラブシーンを入れたのかなと思ったが、
さすが白石和彌監督、一筋縄ではいきません。(笑)
ラストの桃子の言葉に仰天。(何を言った?)

白石和彌監督が他の監督と一線を画すのは、
エグいものをエグいままにそのまま見せるということ。
冒頭のシーンしかり、
腐乱死体しかり、
陰茎から真珠を取り出すシーンしかり。(コラコラ)

北野武監督などは、むしろズバリのシーンを撮らずに、
観客に想像させることによって恐さを倍加させるような手法をとることが多いが、
白石和彌監督はなぜあえてそのものずばりを見せるのか?
それは、本来映画として見せるべきものはしっかり見せたほうが、物語が強くなるからですよ。露悪的に残酷な描写を見せろ、というわけじゃないです。今回の映画でもあまり好きではないというスタッフもいました。でも、一歩踏み込んだ表現をすることで、物語の展開としてより登場人物の感情が迫って観客も同じ気持ちになれると思ったので、そこはテレビで絶対にしない表現をしようと。見せないで作ることのほうが、むしろ難しくて、よりシンプルな作りになったと思いますよ。それと、東映のプロデューサーさんチームも、最初に企画を持ってきてくれたときから、「たいていのことは東映だから大丈夫。犯罪にならなきゃ大丈夫だから、やりきってくれ」と言ってくれたので。じゃあ、それは本気でやりきろう、と。
映像だけでなく、ことばもそのものずばりを多用する。
五十子正平(石橋蓮司)が、
「びっくり、どっきり、クリト○ス」
という(原作にはないセリフを言う)シーンがあるのだが、
これは、『仁義なき戦い 広島死闘篇』の名ゼリフ、
「いうなりゃ、あれらはおめこの汁で飯食うとるんで」
に対抗するものであったろう。
この部分を、原作者の柚月裕子も褒めていて、
小説が映画に負けたなと悔しく思うシーンに挙げていた。

柚月裕子は、『孤狼の血』の続編とも言うべき『凶犬の眼』をすでに書き上げ、
今年(2018年)の3月30日に刊行している。

『凶犬の眼』の主人公は日岡秀一である。
そう、大上章吾から日岡秀一にバトンタッチされたのだ。
(何故かは小説『孤狼の血』を読むか、映画『孤狼の血』を見れば解る)
もし、映画『孤狼の血』の続編が制作されるとすれば、
主役は日岡秀一、つまり松坂桃李ということになる。

さらに、柚月裕子によって大上再登場の3作目も進行中と聞く。

映画の続編だけでなく、続々篇にも期待できそうだ。
そういう意味でも、シリーズ第1作となる『孤狼の血』は見ておくべき作品であろう。
映画館でぜひぜひ。