
※注意
極力ネタバレしないように書くつもりですが、
ふと記した一文がヒントを与えてしまうかもしれません。
この映画を見ることを決めている方で、
先入観なしでご覧になりたい方は、
なるべく映画鑑賞後にお読み下さるようお願い致します。
芥川賞作家・中村文則の小説を映画化したサスペンスドラマである。
【中村文則】
2002年、『銃』で第34回新潮新人賞を受賞しデビュー。
2004年、『遮光』で第26回野間文芸新人賞、
2005年、『土の中の子供』で第133回芥川賞、
2010年、『掏摸』で第4回大江健三郎賞を受賞。
『掏摸』や『悪と仮面のルール』の英訳が、
ウォール・ストリート・ジャーナル紙で、
2012年、2013年と2年連続でベスト10小説に選ばれるなど、
海外での評価も高い。
純文学の作家でありながら、ミステリーの手法を取り入れた作風に特徴があり、
2014年には、ノワール小説への貢献で、
アメリカでデイビッド・グーディス賞を受賞している。
原作となっている小説の『去年の冬、きみと別れ』は、
幸いなことに、私はまだ読んでいなかった。
映画を見る前に読むか、
映画を見た後に読むか、迷ったが、
《すべての人がこの罠にハマる。》
《観た人全員、ダマされる。》
という謳い文句に惹かれ、
〈ダマされたい!〉
と思い、(笑)
原作は読まずに映画を鑑賞することにした。
原作を読んでいる人にも楽しめるように脚色してあるそうだが、
できれば先入観なしで白紙の状態で楽しみたいと思い、
その他の情報もなるべく見ないようにして、
映画館へと向かったのだった。

新進気鋭のルポライター耶雲恭介(岩田剛典)。

松田百合子(山本美月)との結婚を間近に控え、

本の出版を目指す彼が目を付けたのは、
猟奇殺人事件の容疑者である天才カメラマン木原坂雄大(斎藤工)だった。

不可解な謎が残る、盲目の美女が巻き込まれた焼死事件。
この事件は世間を大きく騒がせたが、真相はわかっていなかった。
耶雲は事件を解明しようと奔走するが、
あろうことか、百合子が木原坂の標的になってしまう。

そして、いつの間にか彼は、
抜けることのできない深みにはまっていくのだった……

結論から言わせてもらうと、
私はダマされなかった。(コラコラ)
映画が始まって3分の1くらいが経過したとき、
〈たぶん、こうではないか……〉
と、大体の予測ができた。
結末まで予測できたので、
あとは、自分の推理が、映画の展開と一致しているかどうかが焦点となった。
〈違っていてくれ!〉
と願ったが、
ほぼ私の推理通りに幕を閉じた。
こう書くと、自慢しているように聞こえるかもしれないが、
それほど難しい謎ではなかったし、
ミステリーが好きな人で、
比較的多くのミステリー小説を読んだり、映画を見たりしている人なら、
案外、たやすくトリックが見破れると思う。
ダマされなかったので、つまらなかったかというと、
そんなことはなくて、
とても面白く見ることができた。
スクープを狙うルポライター・耶雲恭介を演じた岩田剛典、

猟奇殺人の容疑者・木原坂雄大を演じた斎藤工、

耶雲の婚約者・松田百合子を演じた山本美月、

「週刊文詠」のベテラン編集者・小林良樹を演じた北村一輝、

弟を溺愛する木原坂雄大の姉・木原坂朱里を演じた浅見れいな、

木原坂雄大のモデルを務めていた盲目の美女・吉岡亜希子を演じた土村芳が、
それぞれ好演しており、作品を盛り立てていたからだ。

ことに、斎藤工の存在感が際立っており、
彼なくして本作は成立しなかったと思われる。

私としては、山本美月を目当てに見に行ったのだが、
やや出番が少なく、それだけが残念であった。

映画鑑賞後に、
原作である中村文則の小説『去年の冬、きみと別れ』も読んでみた。

映画を見ていたので、
案外すらすらと読めたが、
こちらを最初に読んでいたならば、
かなり手こずったことと思われる。
一度読んだだけでは、なかなか内容が把握し切れない。
〈こういうことなのか?〉
と思考し、
二度読んで、理解した部分が多かった。
以前、このブログで紹介した『イニシエーション・ラブ』と同じく、
文章上の仕掛けによって読者のミスリードを誘い、
読者の先入観を利用し、誤った解釈を与えることで、
読後の衝撃をもたらすという叙述トリックを用いているので、
そのままでは映像化は難しい。
映画の方は、ストーリーをやや単純化し、
比較的解り易い内容に変えてある。
その分、
〈そんな簡単なことで○○が証明できるの?〉
〈そのお金や偽造○○○○○はどうやって手に入れたの?〉
など、疑問に思うシーンも多々あり、
小説を読んで理解した部分も多かった。
ただ、映像化するにあたっての考え出されたアイデアは、
原作者をも驚かしたようで、
大変素晴らしかったです。映像化不可能と言われた原作ですが、脚本を読んだときに、この手があったかと感心しました。実際に映画を見てみたら、原作者であることも忘れて、ものすごく引き込まれました。原作を読んだ人も、映画だけご覧になった方も楽しめると思います。役者の方々も大変素晴らしく、小説の登場人物たちが目の前にいるようでした。これほど映像化が難しかった作品を映画化して下さって、やっぱり瀧本監督はすごいですね。ひとりでも多くの人に見てもらいたいです。
と、中村文則がコメントを寄せているほどなのである。
瀧本智行監督と共に、脚本を担当した大石哲也も大いに褒めておくべきであろう。
この『去年の冬、きみと別れ』は、
芥川龍之介の『地獄変』をモチーフにしている。

それは、小説では、比較的始めの方に記述があり、
映画でも、木原坂雄大の本棚で耶雲恭介がこの本を見つけるシーンがあるので、
それと判る。
『地獄変』の内容を少し説明すると、
「実際に見たものしか描けない」という絵師が、
大殿から「地獄変」の屏風絵を描くよう命じられる。
地獄絵図を描くために弟子を鎖で縛り上げてフクロウにつつかせるなど、
狂人さながらの行動をとるが、どうしても仕上がらない。
「実際に女が焼け死ぬ光景を見たい」と大殿に訴えると、
大殿が用意したのは、絵師の実の娘であった。
絵師は、自分の娘が実際に焼け死んでいく様子を見ながら、
嘆くでも怒るでもなく、陶酔しつつそれを絵に描く。
その“地獄変”の描かれた屏風は凄まじい芸術性を放つが、
絵を献上した数日後、絵師は自殺する……
といった内容。
この芥川龍之介の原作を元に、
三島由紀夫が1953年に歌舞伎台本『地獄変』を書き下ろしているし、
1969年には、豊田四郎監督で映画化もされている。(絵師の娘を内藤洋子が演じ、芥川龍之介の息子の芥川也寸志が音楽を担当したことでも話題になった)
『地獄変』の内容を知れば、ちょっとゾッとするが、
カメラマンの木原坂雄大が、この『地獄変』の絵師と同じことを本当にしたのか……
が、映画『去年の冬、きみと別れ』を見るポイントのひとつになっている。
結末は衝撃的だが、
『去年の冬、きみと別れ』というタイトルの意味が解るシーンには、切なさが漂う。

映画館で、ぜひぜひ。