
是枝裕和監督作品である。
このブログ「一日の王」でも、
これまで、
『奇跡』(2011年)
『そして父になる』(2013年)
『海街diary』(2015年)
『海よりもまだ深く』(2016年)
などのレビューを書いており、
是枝裕和監督はさほどに好きな監督であるので、
本作『三度目の殺人』も、当然のごとく見たいと思った。
私の好きな女優・広瀬すずも出演しているので、
大いに期待して映画館に駆けつけたのだった。

神奈川県で起きた会社社長殺人事件。
容疑者はすでに自供しており、
それは、ありふれた裁判のはずだった……

殺人の前科がある三隅高司(役所広司)が、
解雇された工場の社長を殺し、
火をつけた容疑で起訴された。
犯行も自供し、死刑はほぼ確実。
しかし、弁護を担当することになった重盛朋章(福山雅治)は、
なんとか無期懲役に持ちこむため調査を始める。

……何かが、おかしい。
調査を進めるにつれ、重盛の中で違和感が生まれていく。
三隅の供述が、会うたびに変わるのだ。

金目当ての私欲な殺人のはずが、
週刊誌の取材では被害者の妻・山中美津江(斉藤由貴)に頼まれたと答え、
動機さえも二転三転していく。

さらには、被害者の娘・咲江(広瀬すず)と三隅の接点が浮かび上がる。
重盛がふたりの関係を探っていくうちに、ある秘密に辿り着く。

なぜ殺したのか?
本当に彼が殺したのか?
得体の知れない三隅の闇に呑みこまれていく重盛。
弁護に必ずしも真実は必要ない。
そう信じていた弁護士が、
初めて心の底から知りたいと願うようになる……

“心理サスペンス”と謳ってはいるが、
そこらに転がっているような解り易いサスペンスではない。
単に「犯人は誰だ?」というような映画ではなく、
もう少し深いところにある問いを、観客にも共有させるような作りになっている。
良く言えば、結末が、観客に委ねられている、
悪く言えば、結末が、観客に丸投げされている、
と言えようか……
だから、評価は、真っ二つに割れている。
万人受けする映画ではないことは確かで、
そのあたりがヴェネチア国際映画祭でも評価を得られなかった一因であったかもしれない。

私の評価はどうだったかというと、
これまでの是枝裕和監督作品とは異なるものの、
大いに楽しめたし、かなり高い点数が与えられる作品だと思った。

のっけから好いと思ったのは、音楽。
『最強のふたり』(2011年)などを手掛けたイタリアの巨匠ルドヴィコ・エイナウディによる音楽が、
各場面で実に効果的に流れ、心を揺さぶられた。
(予告編でも聴くことができるので、ぜひぜひ)

映像も素晴らしいと思った。
撮ったのは、
『海街diary』(2015年)で日本アカデミー賞最優秀撮影賞に輝いた瀧本幹也。
カラー作品なのだが、
見終わった印象はモノクロ映画を見たような感じで、
抑えた色調の中にも、ポイントとなる“赤”を効果的に挿入し、
実に魅力的な映像で見る者を楽しませてくれた。

映像と同時に、シーン毎の美術も素晴らしいと思った。
美術を担当したのは、
タランティーノやジョン・ウーなどにも愛される美術監督・種田陽平。
縦窓のある光にあふれた法廷など、独特の空間を創り上げており、
その世界観にも強烈に魅了された。

容疑者・三隅高司を演じた役所広司は、
何を演じてもその人物に見えてしまうという反則級の名演で、

主人公の弁護士・重盛朋章を演じた福山雅治、

重盛と同期の弁護士・摂津大輔を演じた吉田鋼太郎、

重盛の軒弁・川島輝を演じた満島真之介、

重盛の父・重盛彰久を演じた橋爪功など、
他の男優陣も負けず劣らずの熱演で、本作を盛り上げている。

被害者の娘・中山咲江を演じた広瀬すずは、

これ見よがしな演技ではなく、
控えめな抑えた演技で、
謎めいた高校生を巧く演じていて、唸らされた。

被害者の妻であり、
咲江の母でもある山中美津江を演じた斉藤由貴は、

最近自身が被っている不倫疑惑報道さながらに、(コラコラ)
会社のことも、家族のことも、何か隠し事をしている感じの、
妖艶で、スキャンダラスな女性を演じていて魅せられた。
私は女優に清廉潔白さは求めていないので、
今後も頑張ってもらいたいと思っている次第。

検察官・篠原一葵を演じた市川実日子は、

第71回毎日映画コンクール 女優助演賞を受賞した『シン・ゴジラ』(2016年)を髣髴とさせる演技で、
クールビューティな検察官を好演していた。
好きな女優なので、本作に彼女が出演していたのも嬉しいことであった。

重盛の弁護士事務所の事務員・服部亜紀子を演じた松岡依都美。

舞台女優で、映画出演はそれほど多くないが、
『凶悪』(2013年)
を見て好きになり、その後、
『味園ユニバース』(2015年)
『海よりもまだ深く』(2016年)
『日本で一番悪い奴ら』(2016年)
などの出演作を見て、一層好きになった。
出演シーンはそれほど多くないが、
どの作品でも鮮烈な印象を残す。
本作でも、
殺伐とした弁護士事務所を和ませるムードメーカーの事務員を熱演していて、
楽しく見ることができた。

離婚調停中の妻と暮す重盛の娘・重盛結花を演じた蒔田彩珠は、

〈どこかで見たことのある女優だな~〉
と思いながら見ていたのだが、
黒木華主演のNHK土曜時代ドラマ『みをつくし料理帖』(2017年5月13日~7月8日)に出演していたことを思い出した。

黒木華が好きなので、この『みをつくし料理帖』は毎週観ていたのだが、
「つる家」に雇われた少女ふきという役で出演していた。

伏し目がちな眼差しに特徴があり、
良い演技をする若き女優だなと思った。

音楽が良く、映像が良く、美術も優れていて、出演者の演技も素晴らしい。
では、何が批判の対象になっているかというと、
先程も述べたように、
結末が、観客に委ねられている(丸投げされている)からだ。
第一、タイトルの『三度目の殺人』からして、謎なのだ。
【一度目の殺人】
北海道の留萌で暮らしていた25歳の三隅(役所広司)は、
借金取り2名を殺害し、金を奪い放火。
逮捕、起訴されるも、無期懲役となった。
【二度目の殺人】
無期懲役の服役から釈放された三隅は、
川崎の食品加工会社で働く。
だが、解雇されたことを動機に、会社社長を夜の河原で撲殺。
死体にガソリンをかけて燃やす。
映画は、【二度目の殺人】の裁判を扱っており、
普通に考えるならば、タイトルがなぜ『三度目の殺人』なのか……となる。
※注意
ここから先は、どうしても、ネタバレの要素が濃くなります。
映画をまだ見ていなくて、
余計な情報抜きに映画を楽しみたい方は、
ここから先は、映画鑑賞後にお読み下さるようお願いいたします。
では、どうして『三度目の殺人』なのか……
それを語るには、ストーリーを、より詳しく紹介しなければならない。
最初、三隅は、
「クビにされて腹いせで殺った」
と自供していたが、
途中で、
「奥さんに依頼されて殺った」(保険金目的)
と証言する。
この時点で、三隅(役所広司)と山中美津江(斉藤由貴)の仲が怪しいのではないかと思わせる。
だが、山中咲江(広瀬すず)が父親からレイプされていたことが判り、
三隅が咲江をレイプから救うために殺害したと、咲江が証言すると言い出す。

これを知った三隅は、
「本当は殺してないです」
と無実を主張する。
なぜか?
殺害を否認すれば、咲江に辛い証言をさせなくてすむからだ。
重盛は、三隅の咲江を守りたいという気持ちを察して、
三隅が死刑になるとわかっていて、三隅の否認を認める。
そうして、三隅の死刑が確定する。
真犯人は、山中美津江(斉藤由貴)だったかもしれない。
いや、山中咲江(広瀬すず)だったかもしれない。
本当は、三隅は、殺してはいないのかもしれない。
だが、三隅は、すべての罪を背負うように死刑になる。
重盛(福山雅治)もその判決に加担している。
三隅の死刑こそが、『三度目の殺人』なのではないか……

これは、もっとも常識的な考えである。
だが、違う考え方もできるのである。
実は、映画を見た後に、より詳しく内容を知るために、
ノベライズを読んだのだ。

読んで、【一度目の殺人】が、
もっと昔(三隅が高校生の頃)の事ではないかと思った。
三隅の父親は、三隅が高校生の頃に、自宅の火事で亡くなっている。
(この事は映画でも触れてある)
火事の原因は不明とされており、
三隅が火を放って父親を殺している可能性がある……ということだ。
なぜそう思うかというと、三隅は、焚火……というか、火が好きだからだ。
先程紹介した二つの殺人は、
【一度目の殺人】
北海道の留萌で暮らしていた25歳の三隅(役所広司)は、
借金取り2名を殺害し、金を奪い放火。
逮捕、起訴されるも、無期懲役となった。
【二度目の殺人】
無期懲役の服役から釈放された三隅は、
川崎の食品加工会社で働く。
だが、解雇されたことを動機に、会社社長を夜の河原で撲殺。
死体にガソリンをかけて燃やす。
というように、殺した後に、火を放っている。
共通点が“火”なのだ。
【一度目の殺人】が、三隅が高校生の頃の父親殺しとなれば、
留萌の借金取り2名殺害後に、金を奪い放火した事件は【二度目の殺人】となり、
映画で描いた会社社長殺しこそが『三度目の殺人』となる。

焼け焦げた死体の跡が十字架の形をしていたり、

重盛が夢の中で戯れるときの、
三隅(写真左)と咲江(写真中央)の雪に倒れた姿が十字架の形であったり、

重盛が最後に佇む場所が十字路であったり、
意味ありげなものが次々と登場し、
深読みしようと思えば、いくらでもできるような仕組みになっている。
そこが面白いし、
できうることならば、何度でも見たい(見て確かめたい)映画なのである。
そこに面白味を感じなければ「つまらない」となるかもしれないが、
好奇心旺盛な映画好きにはタマラナイ作品なのだ。
この作品については、いくらでも語ることができるが、
長くなるので、この辺で……
想像力豊かなあなたなら、きっと楽しめること間違いなしの傑作。
映画館で、ぜひぜひ。