
石井裕也監督の新作映画だ。
石井裕也監督といえば、
『川の底からこんにちは』(2010年5月1日公開)
『あぜ道のダンディ』(2011年6月18日公開)
『ハラがコレなんで』(2011年11月5日公開)
『舟を編む』(2013年4月13日公開)
『ぼくたちの家族』(2014年5月24日公開)
『バンクーバーの朝日』(2014年12月20日公開)
など、優れた作品ばかりで、
このブログでもレビューをいくつも書いており、
私の好きな監督なのだ。
その石井裕也監督が、
最果タヒのベストセラー詩集を実写映画化したのが、
本作『夜空はいつでも最高密度の青色だ』なのである。

【最果タヒ】(さいはて・たひ)※顔出しはしないとのこと。

1986年7月3日、兵庫県神戸市生まれ。詩人、小説家。女性。
2005年、『現代詩手帖』2月号の新人作品欄に初投稿し、入選。
その後も投稿を続け、2006年に優秀な投稿者に贈られる第44回現代詩手帖賞を受賞。
2007年、第一詩集『グッドモーニング』(思潮社)を刊行。
2008年、京都大学在学中に、
『グッドモーニング』により当時女性では最年少の21歳で第13回中原中也賞を受賞。
2009年4月に初の短編小説「スパークした」を『群像』に発表。
「スパークした」は2009年の『年刊日本SF傑作選』に収録される。
2009年9月から『別冊少年マガジン』で連載詩「空が分裂する」を開始する。
毎回漫画家やイラストレーターが詩にイラストを描いている。
2011年2月から『現代詩手帖』で連載詩「夜ちゃんと空くんの星をたべる会」を開始する。
2011年5月に初の中編小説「宇宙以前」を『NOVA 書き下ろし日本SFコレクション』4巻に発表。
2012年、第二詩集『空が分裂する』(講談社)を刊行。
2012年2月号から2013年10月号まで別冊少年マガジンで連載小説「魔法少女WEB」を連載。挿絵は紗和。
2014年、第三詩集『死んでしまう系のぼくらに』(リトルモア)を刊行し、第33回現代詩花椿賞を受賞。
2016年、第四詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』を刊行。
現代詩集としては異例の累計27,000部の売上げを記録する。

都会を好きになった瞬間、自殺したようなものだよ。
塗った爪の色を、きみの体の内側に
探したってみつかりやしない。
夜空はいつでも最高密度の青色だ。
誰も愛さない間、きみはきっと世界を嫌いでいい。
そしてだからこそ、この星に、恋愛なんてものはない。
(最果タヒの詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』より「青色の詩」)
漫画が原作の映画全盛の邦画界で、
詩集からインスピレーションを得て、自ら脚本を書き、映像化するという、
実に意欲的な挑戦をした石井裕也監督。
〈見たい!〉
と思った。
佐賀では、5月27日(土)に公開されたので、
翌日の5月28日(日)に見に行ったのだった。

看護師として病院に勤務する美香(石橋静河)は女子寮で一人暮らし。
日々患者の死に囲まれる仕事 と折り合いをつけながら、
夜、街を自転車で駆け抜け向かうのはガールズバーのアルバイト。
作り笑いとため息。
美香の孤独と虚しさは簡単に埋まるものではない。

建設現場で日雇いとして働く慎二(池松壮亮)は古いアパートで一人暮らし。
左目がほとんど見えない。

年上の同僚・智之(松田龍平)や、
中年の岩下(田中哲司)、
出稼ぎフィリピン人のアンドレス(ポー ル・マグサリン)と、
何となくいつも一緒にいるが、漠然とした不安が慎二の胸から消えることはない。

ある日、慎二は智之たちと入ったガールズバーで、美香と出会った。
美香から電話番号を聞き出そう とする智之。
無意味な言葉を喋り続ける慎二。
作り笑いの美香。

店を出た美香は、深夜の渋谷の雑踏の中で、歩いて帰る慎二を見つける。
「東京には1,000万人も人がいるのに、どうでもいい奇跡だね」。
路地裏のビルの隙間から見える青白い月。
「嫌な予感がするよ」。
「わかる」。
二人の顔を照らす青く暗い光。

建設現場。突然智之が倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
葬儀場で二人は再会する。
言葉にできない感情に黙る慎二と、沈黙に耐えられず喋り続ける美香。
「俺にできることがあれば何でも言ってくれ」と慎二が言うと、
美香は「死ねばいいのに」と悲しそうな顔をした。

過酷な労働を続ける慎二は、ある日建設現場で怪我をする。
治療で病院に行くと、看護師として働く美香がいた。
「また会えないか」と慎二が言うと、
美香は「まぁ、メールアドレスだけなら教えてもいいけど」と答える。

新宿。二人は歩く。
「ねぇ、なんであの時、私達笑ったんだろう、お通夜の後」
「分からない」
「ねぇ、 放射能ってどれぐらい漏れてると思う」
「知らない」
「ねぇ、恋愛すると人間が凡庸になるって本当かな」
「知らない」
不器用でぶっきらぼうな二人は、近づいては離れていく。

東京を舞台に、
都会で暮らす若者たちの出会いと恋の始まりを描いた傑作であった。
私自身も若き頃に9年間東京に住んでいたことがあり、
その当時を思い出して、胸が熱くなった。
詩は、虚空から一瞬を切り取った言葉であるが、
それを拾い集め、ひとつの物語として脚本化した石井裕也監督の才能に唸った。
詩から物語を紡ぎ出す作業は、簡単なことではない。
それを目に見える形で映像化することは、より困難なことだ。
それを石井裕也監督は自然な流れのなかで創り上げている。

青春の青、
青空の青、
青色を幾重にも重ねていくと、
それはやがて藍色となり、
さらに重ねていくと、黒色となる。
この映画には、闇があり、
常に死の匂い(「臭い」ではない)がたちこめている。
だが、
“闇”が深いからこそ、“光”が眩しく、
“死”の匂いがたちこめているからこそ、“生”が輝いて見える。

現代の東京を描いてはいるが、
そこには、私のいた30数年前の東京も見えたし、
見た者のそれぞれの東京が透かし見えるのではないかと思った。

主演は、池松壮亮と石橋静河。
池松壮亮については、昨年だけでも、
『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年5月21日公開)
『海よりもまだ深く』(2016年5月21日公開)
『セトウツミ』(2016年7月2日公開)
『だれかの木琴』(2016年9月10日公開)
『永い言い訳』(2016年10月16日公開)
『続・深夜食堂』(2016年11月5日公開)
などのレビューで書いているので、そちらを読んでもらうとして、(コラコラ)

ここに書くべきは、石橋静河のことである。
私は、この映画で初めて石橋静河を見たのだが、
(映画『少女』でも見ている筈なのだが……)
その美しさ、その存在感に、すっかり魅せられてしまった。
この映画の上映中、
私は彼女ばかりをずっと見ていたような気がする。
この感覚は、
『愛のむきだし』で満島ひかりを、
『百円の恋』『0.5ミリ』で安藤サクラを、
『海街diary』で広瀬すずを、
発見したときのような感覚に似ている。
私にとっては実に嬉しい感覚であった。

【石橋静河】(いしばし・しずか)
1994年7月8日生まれ。
父は俳優の石橋凌。
母は女優の原田美枝子。
石橋と原田の次女にあたる。
4歳よりクラシックバレエを始め、
15歳でバレエスクールに留学後、2013年帰国。
その後、コンテンポラリーダンサーとして活動していたが、
2015年始めより役者としての活動を開始。
2016年,
野田秀樹演出の舞台『逆鱗』(1月~4月)、
映画『少女』(2016年10月8日公開)に出演。
2017年、
映画『PARKS パークス』(2017年4月22日公開)に出演し、
映画『夜空はいつでも最高密度の青色だ』で初主演。
映画『少女』は見ているが、石橋静河は記憶にないので、(スミマセン)
本作『夜空はいつでも最高密度の青色だ』で初めて出逢ったに等しい。
映画『PARKS パークス』は、2017年4月22日公開となっているが、
佐賀ではシアターシエマで6月24日(土)から上映予定なので、
まだ見ていない。(必ず見に行くつもり)
今年は、今後、
『うつくしいひと サバ?』(2017年夏公開予定)や
『密使と番人』(2017年夏公開予定)も控えているようなので、こちらも楽しみ。
石橋静河の父・石橋凌は、
『ハラがコレなんで』(2011年)で、
母・原田美枝子は、
『ぼくたちの家族』(2014年)で、石井裕也監督作に出演しているので、
石橋静河はその縁で主演が決まったのかもしれないが、
安藤サクラと同様、親から受け継いだ俳優としての優れたDNAを感じさせ、
今後に期待を抱かせる。

本作には、この他、
市川実日子、

松田龍平、

田中哲司らも出演しており、
その魅力的かつ優れた演技を楽しむことができる。

今回も極私的な感想になってしまったが、(スミマセン)
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』という映画は、
私にとっては、
石橋静河という魅力的な女優に出逢った作品として、
永く記憶に残ることであろう。

皆さんも恋をしに映画館へ行ってみませんか?
ぜひぜひ。