
春休みに入り、
映画館の上映作品は、
お子様向けの映画がずらりと並んでいる。
見たい作品がない。(笑)
そこで、仕方なく、『3月のライオン 前編』を見に行くことにした。
ひとつの作品を前編・後編の2部作にするのは反対している立場だし、
このブログでも、機会がある度に書いてきた。
映画『64‐ロクヨン‐』 ……前編はまずまず、でも後編は息切れ&腰砕け……
映画『ちはやふる』 ……「上の句」と「下の句」を同じ日に鑑賞しての感想……
第40回日本アカデミー賞 ……各賞のノミネート作品を見て思ったこと……
(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
このように、2部作にするのは、
制作側の商業的な都合による部分が大きい。
まったく別な2本の映画を制作するよりも、
同じ映画で2本の作品を制作する方が、
制作費がはるかに少なくて済むからだ。
「一粒で二度美味しい」的うま味を享受したいと考える業界人が多いのだ。
中には、やはり二つに分けなければならないほど内容の濃いものもあるが、
大抵は、内容の薄いものを無理矢理長く引っ張った締まりのない作品が多い。
それでも興行的に成功しているのか、
この傾向がずっと続いている。
映画を見る側の人間からすれば、
ひとつの映画を2本分の料金で見なければならず、
しかも内容が薄ければ、“踏んだり蹴ったり”である。
(事実、2部作にして成功した作品はほとんどなく、第40回日本アカデミー賞では、苦肉の策で、『64-ロクヨン-』『ちはやふる』を前編だけノミネートさせたりしている)
それに、前編の公開日と、後編の公開日が、1ヶ月以上離れているので、
前編を見てから後編を見るまでに忘れている部分も多く、
見る側にはメリットがほとんどない。
私など、2部作と聞くだけで、ウンザリする。
だから、『64‐ロクヨン‐』も、『ちはやふる』も、
前編と後編を同じ日に見ている。
2部作の場合、後編が公開されても、しばらくは前編も公開しているからだ。
これまでは、その同時公開している期間を狙って鑑賞していたのだ。
だが、第40回日本アカデミー賞では、
『64-ロクヨン-』『ちはやふる』の前編だけをノミネートさせているし、
最優秀主演男優賞として、佐藤浩市(『64-ロクヨン-前編』)を受賞させてもいる。
茶番だし、困った現象ではあるのだが、
こうなったら、前編、後編、それぞれにレビューを書いておこうかと思った。
(そう思ったのも、お子様映画ばかりの春休み中だからではあるが……)
で、親子連れで賑わう映画館へ向かったのだった。
春のある日、東京の将棋会館で、
17歳のプロ棋士・桐山零(神木隆之介)は、
義理の父で師匠の幸田柾近(豊川悦司)との対局に勝利する。
9歳の時に交通事故で両親と妹を失った零を内弟子として引き取ったのが、
父の友人の幸田だった。

零は幸田家を出て、下町のアパートで一人暮らしを始めていた。
1年遅れで再編入した高校では、会話を交わすのは担任の林田先生(高橋一生)だけだ。

中学生でプロ棋士としてデビューした零は、
史上5人目の天才ともてはやされているが、家も家族も友達もなかった。
ある時、具合が悪くなって道に倒れていた見ず知らずの零を、
近隣の町に住む川本あかり(倉科カナ)が自宅へ連れて帰り介抱してくれる。
その日から、
長女のあかり、

次女のひなた(清原果耶)、

末っ子のモモ(新津ちせ)の3姉妹と、


すぐ側で和菓子屋〈三日月堂〉を営む祖父の相米二(前田吟)と零との温かな交流が始まる。

冬を迎えたある夜、零の部屋の前で義姉の香子(有村架純)が待っていた。
妻のいるプロ棋士の後藤正宗(伊藤英明)と微妙な関係を続けている香子は、
かつて弟の歩と共にプロ棋士を目指していた。
二人が零に勝てなくなった時、幸田は自分の子供たちにプロへの道を諦めさせる。
荒れる香子を見て零は家を出たのだが、香子も父親を避けて家をあけるようになっていた。

新年を川本家で迎える零。

楽しいお正月は、皆で初もうでに出かけた神社で、
後藤と香子に出くわしたことで一変する。
零は香子から、
「もし自分が獅子王戦トーナメントで後藤に勝ったら、家に戻る」
という約束を強引に取り付ける。

獅子王戦……それは、将棋界の最高峰を決めるビッグタイトルの一つ。
タイトル保持者の宗谷冬司(加瀬亮)と闘う挑戦者をトーナメントで決めるのだ。
零が後藤に当たるには、島田開(佐々木蔵之介)を倒さなければならない。
さらに幼い頃からのライバル、二海堂晴信(染谷将太)が、
「新人王になる」
と宣戦布告した、新人戦トーナメントも待ち受けていた……

映画会社で、
映画の企画を提出するように言われた社員が、真っ先に向かう先は、
「まんが喫茶」
という話がまことしやかに語られている。
「まだ映画化されていない面白い漫画を探し出すこと……」
それがあながち間違いではないような今の邦画界の現状がある。
上映されるほとんどの映画の原作が、漫画なのだ。
人気コミックは連載が長引くので、
十数巻、あるいは数十巻にも及ぶ。
ストーリーも長く、2時間ほどの映画にまとめるのは難しい。
そこで、映画会社は、前後編の2部作にして儲けようと企む。
ストーリーの長い漫画を映像化するには、
11回くらいに分けて放映できるTVドラマの方が向いていると思うのだが、
映画の方も、なんだかTVドラマ化してきているように感じる。
もう最初から2時間前後でまとめるのを放棄しているように感じるからだ。
前後編の2部作にしたり、
『新宿スワン』や『土竜の唄』のように続編を制作したり、
最初から一作で完結させようという意気込みが感じられない。
その分、それぞれ完成度が低く、
漫画を読んでいる日本人にしか通用しない“内向き”な映画に成り下がってしまっている。
この現象、本当にどうにかならないものか……
で、映画『3月のライオン』であるが、
本作もまた、原作は、羽海野チカの大ヒットコミック。
現在、第12巻まで刊行されている。(2017年3月現在)

「3月のライオン」とは、
イギリスの天気の諺「3月はライオンのようにやってきて、子羊のように去る(March comes in like a lion and goes out like a lamb)」の意だが、
「3」と「三」の違いはあるが、
日本映画で、すでに『三月のライオン』(矢崎仁司監督)というタイトルの映画が存在する。
1992年6月10日に公開された、近親相姦をテーマにした作品で、
由良宜子、趙方豪、内藤剛志、奥村公延などが出演している。
羽海野チカはこの映画は見ていないそうだが、
「おかっぱの女の子が食べかけのアイスをくわえている」映画ポスターと映画タイトルは記憶しており、タイトルの『三月のライオン』を「物語がつくれそうな言葉」と感じていたのだそうだ。

映画を見た感想はというと……
前編だけなのに、上映時間が2時間20分ほどもあったし、(正確には138分)、
原作が漫画ということで、それほど期待はしていなかったが、
退屈することもなく、面白く最後まで見ることができた。
ただ、昨年公開された、同じ将棋を題材にした映画『聖の青春』に比べ、
『3月のライオン 前編』の方は漫画が原作ということもあってか、
登場人物やストーリー展開が漫画チックなところがあり、
それだけはやや残念であった。
しかし、十分に鑑賞に堪えうる内容であり、
合格点がつけられる映画だと思った。
まだ後編を見ていないので、総合的な評価はできないが、
前編を見る限り、少年の成長物語として、成功している作品ではないかと思った。

大友啓史が『3月のライオン』の監督を依頼されたのは、
彼がNHKを辞めた2011年であったらしい。
その頃、原作コミックは第4巻くらいまで出ていたと思うんですが、読んで素直に感動しました。ただ当時はそれまでやっていたTVドラマとは違う、アクションとか近未来設定とか、プラスアルファの遊びができる映画を意識して選んでいたんです。そういうものをやっていくとどうしても仕掛けが大掛かりになっていくし、自分の神経もそっちへ費やしていくことになる。それで『るろうに剣心』三部作が終わった14年くらいですかね。今度はシンプルなドラマをやりたいと思って、『3月のライオン』に本格的に取り組み始めました。(『キネマ旬報』2017年4月上旬号)
主人公・桐山零に昔の自分を重ね合わせた大友監督は、
これを少年の成長物語と捉え、
その成長過程を描くためには、二部作という“長さ”が必要だと感じたという。
二部作というのは、僕の方からお願いしたんです。(中略)人の顔色を窺いながら自分の本音も押さえ込んで生きてきた少年の成長を描くには、零君の心が少しずつ開いていく感じを、かなり丁寧に映し出さないといけないと思いました。だから二部作になっていったんです。(『キネマ旬報』2017年4月上旬号)
そして、桐山零役として、神木隆之介をキャスティングしたのだという。
彼もまた子どもの頃からプロの俳優として生きている人だから、感じるものがあると思うんですよ。前に『るろうに剣心』を一緒にやった時、彼は誰かの人生を演じながら成長してきたんだなと改めて思ったんですね。(『キネマ旬報』2017年4月上旬号)
23歳(2017年3月29日現在)にして芸歴20年の神木隆之介も、
桐山零を演ずるにあたって、同じような思いであったらしい。
僕は小さい頃から親に「演技の場は大人も子どもも関係ない世界だから、ワガママは絶対に通用しない」と言われてきて、台詞がある以上は“演者”として立っていなければいけないと意識してきました。零もそれと同じように、たとえ中学生対おじいちゃんであっても、相手は零をプロの棋士として本気で倒そうとしてくる世界にいる。それに耐えて、飛ばされないようにがんばって立つような気持ちは一緒なのかもしれないと思えたんです。(『キネマ旬報』2017年4月上旬号)
自らの生い立ちとも共通点があったからかもしれないが、
桐山零を演ずる神木隆之介はすこぶるイイし、
原作ファンも納得のキャスティングであったと思われる。

零のライバルで親友の棋士・二海堂晴信役を、
染谷将太が特殊メイクで演じているのだが、
この怪演ぶりも秀逸で、
特殊メイクということを知らない人が見たら、
絶対に染谷将太とは気づかないだろうと思った。
私は原作の漫画は読んでいないので、詳しくは分らないが、
この二海堂晴信は、29歳の若さで亡くなった棋士・村山聖をイメージしているのだろうと思った。
『聖の青春』では松山ケンイチが自らの体重を増やして演じていたが、
本作では、特殊メイクという荒業で挑戦している。
染谷将太の演技力と相俟って、独特のキャラクターを創り上げているなと思った。

天才棋士・宗谷冬司を演じた加瀬亮も、
谷川浩司や羽生善治などを彷彿とさせる雰囲気を醸し出していたし、

義理の父で師匠の幸田柾近を演じた豊川悦司や、

努力と忍耐の棋士・島田開を演じた佐々木蔵之介や、

強面の先輩棋士・後藤正宗を演じた伊藤英明、

それに、零の担任教師・林田高志を演じた高橋一生なども好演していた。

男優たちにも増して良かったのが、女優陣。
零の義姉の香子を演じた有村架純。

原作を読んでいないので、詳しくは分らないが、
零に対する「好き」という気持ちと「嫌い」という気持ちが綯交ぜになったような、
複雑な想いを持った女性……だと感じたのだが、
その繊細な演技が良かったし、
なんだかセクシーを感じさせるシーンが多く、すごく魅力的であった。

川本家3姉妹の長女・あかりを演じた倉科カナ。
父が家族を捨て、母が病気で亡くなり、妹たちの母親代わりとなって、
昼は祖父の和菓子屋で働き、
週何日かの夜は、おばが経営するバーに勤めている……という役であったが、
気立てが優しく、面倒見がよく、明るい性格なのだが、
昼の顔と、夜の顔があるのではないか……と想像させるような、(勝手な妄想だが)
香子(有村架純)と同じく、実に魅力的な女性を好演していた。

この映画には、私の好きな筒井真理子も出演していた。
筒井真理子については、映画『淵に立つ』のレビュー(←クリック)に書いたので、
詳しくはそちらを読んでもらうとして、
出演シーンは短いものの、
本作に、カラオケ・スナックのママ役で彼女が出ていたので、ビックリした。
公式サイトにも、Yahoo!映画などにも筒井真理子の名前は出ていなかったので、
嬉しいサプライズであった。
このことに触れ、彼女は某インタビューで、次のように語っていた。
はい。ほんの一瞬ですけど。ワンシーンだけの役であっても、スケジュールが空いている限り、オファーはお受けします。というか、シナリオが送られてきて、それを読むと「面白い!!」と思っちゃうんですね。そうなったら、もうダメ(笑)。シナリオを読むのも好きですし。ですから、時々困ります(笑)。以前お話のあった役で、ストーリーを追っていくと、人格的にまとまりのない役でしたが、こういう役こそ腕の見せ所!と、色々プランニングをしました。でも結局スケジュールが合わずに出演出来なくて。ですから、もう1日24時間じゃ足りません!! もっと時間が欲しいと思います。シナリオを読んで、頭の中で色々と組み立てるのが好きなんですよ。ここはこうしたら面白くなるぞ、とか。とにかく準備するのが大好きです。
こう語るように、『3月のライオン』においても、
出演時間は短いものの、鮮烈な印象を残す演技をしている。
筒井真理子の演技も見逃さないように……ね。

映画会社が無理に二部作にしたのではなく、
大友監督が、自ら望んで二部作にした映画『3月のライオン』は、
これまでの二部作映画と違って、後編にも期待が持てそうである。
後編も、前編のレベルが維持できれば、
二部作であるが、ひとつの作品として秀作になる可能性がある。
まだ完結していないコミックなので、
ラストは、オリジナルの終わり方で締めているとのこと。
大いに期待しつつ、後編を待ちたいと思う。