
映画『深夜食堂』は、
安倍夜郎の漫画が原作。
2006年10月に『ビッグコミックオリジナル増刊』に読切一挙3話掲載で初登場。
それ以降、1回に2話掲載、出張宣伝漫画などを経て、
2007年8月からは『ビッグコミックオリジナル』で連載されている。

小学館コミックスとして、
第1集から第13集までが発刊されている。(2015年2月現在)

2009年10月期から、小林薫主演でTVドラマ化(MBS制作・TBS系)され、
2011年10月期から続編が放送され、
2014年10月期から第3部が放送された。

DVDも発売されている。

私はといえば、
原作の漫画も読んでいないし、
TVドラマの方も観ていない。
ドラマは深夜に放送されていたようで、
早寝早起きの私としては、
『深夜食堂』というTVドラマの存在すら知らなかった。(お恥ずかしい)
では、映画『深夜食堂』をなぜ見に行ったのか?
それは、
多部未華子、余貴美子、田中裕子、菊池亜希子、谷村美月、篠原ゆき子など、
好きな女優がたくさん出演していたし、
小林薫、オダギリジョー、松重豊、光石研、柄本時生、筒井道隆、不破万作など、
魅力的な男優も多く出演していたからだ。
それに、深夜から朝方まで営業しているという食堂が舞台で、
「そこに出入りする客たちの悲喜こもごもな人生模様が描かれている」
という宣伝文句にも心惹かれた。
ネオンきらめく繁華街の路地裏にある小さな食堂。
夜も更けた頃に「めしや」と書かれた提灯に明かりが灯ることから、
人は「深夜食堂」と呼ぶ。

メニューは酒と豚汁定食だけだが、頼めば大抵の物なら作ってくれる。

マスターの作る味と居心地の良さを求めて、夜な夜なお客がやってくる。
ある日、誰かが店に置き忘れた骨壺をめぐってマスターは思案顔。
詮索好きな常連たちは骨壺をネタに、いつもの与太話に花を咲かせている。

そんな「めしや」に久しぶりに顔を出したたまこ(高岡早紀)。
愛人を亡くしたばかりで新しいパトロンを物色中だったが、
隣にいた年下の男(柄本時生)と肌が合い……「ナポリタン」

無銭飲食をしたことを機に、
マスターの手伝いを兼ねて住み込みで働くことになったみちる(多部未華子)。
いつのまにか「めしや」に馴染むが、どこか事情を抱えたままで……「とろろご飯」

福島の被災地から来た謙三(筒井道隆)は夜な夜な「めしや」に現れては、
常連のあけみ(菊池亜希子)に会いたいと騒いでは店の客と一悶着……「カレーライス」

春夏秋冬、ちょっとワケありな客たちが現れては、
マスターの作る懐かしい味に心の重荷を下ろし、
胃袋を満たしては新しい明日への一歩を踏み出していく……

いや~、面白かったです。
『深夜食堂』は、新宿ゴールデン街が舞台のようだが、
私も若き頃(もう30年以上前、編集プロダクションで働いていた頃)、
東京・渋谷の「のんべい横丁」などで飲んでいたのを思い出した。
雰囲気がよく似ていて、懐かしかった。
驚いたことに、
映画の中の飲み屋街は、セットとのこと。
美術を担当しているのは、原田満生。
先日、『バンクーバーの朝日』(←クリック)のレビューのときのも褒めたのだが、
彼が創り出すセットは、本当に素晴らしい。
『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(2007)、
『テルマエ・ロマエ』、『北のカナリアたち』(2012)、
『舟を編む』、『許されざる者』(2013)などでも美術を担当していたが、
どの作品においても、仕事ぶりは見事の一言。
映画『深夜食堂』の飲み屋街は、どこか懐かしく、昭和のニオイがする。
このセットは、埼玉県入間市にある広さ300坪の倉庫内に作られたそうだ。
どこがモデルというわけではなく、自分が若い頃から飲み歩いて、記憶のどこかに残っている新宿や渋谷などの飲屋街がモデルになっている。
と、原田満生は語っているが、
私だけでなく、たぶん、誰にとっても、
懐かしさを感じさせる飲み屋街のセットになっていると思う。

監督は、
映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で日本アカデミー賞を受賞し、
ドラマシリーズ『深夜食堂』も手がける松岡錠司。
TVドラマとしては、多分、短編小説のようなものだったと思うが、
映画化にあたって、長編小説のように創り直すのではなく、
連作短編集のような味わいのあるもの仕上げていて、秀逸であった。
映画は、一応、
「ナポリタン」「とろろご飯」「カレーライス」
と小見出しがついていたが、
「とろろご飯」に出ていた多部未華子が、
出演者の中では特に素晴らしかった。




初めて彼女を強く認知したのは、
『夜のピクニック』(2006)においてであったが、
ここ数年では、
『君に届け』(2010年)での黒沼爽子役が印象に残っている。
女優としてのキャリアの割に映画への出演が少ないが、
今年(2015年)は秋公開予定の主演作『ピース オブ ケイク』が控えている。
田口トモロヲ監督作品で、
多部未華子の他に、
綾野剛、松坂桃李、木村文乃、菅田将暉、柄本佑、中村倫也なども出演しているので、
すごく楽しみ。

でも、綾野剛には気を付けて欲しい。(笑)

「ナポリタン」では、
高岡早紀と柄本時生のやりとりが面白かった。
高岡早紀はやはり「魔性の女」的な魅力があるな~(笑)

「カレーライス」では、
やはり菊池亜希子が良かった。
菊池亜希子といえば、
主演作『森崎書店の日々』(2010年)が特に印象に残っているが、
高岡早紀とは違って(失礼!)、清潔感と爽やかさが魅力で、
『深夜食堂』でも、『森崎書店の日々』のときの印象が損なわれることはなかった。
今夏公開予定の主演作『グッド・ストライプス』が控えているのが、
こちらも楽しみに待ちたいと思う。

この他、
余貴美子。
めしやの常連客の1人で、
マスターに好意を持っているという老舗料亭「ほおずき」の女将の役であったが、
物言いは辛辣で厳しいながらも、実は優しく、
少女のような秘めたる思いを抱いている……という女性を、
実に魅力的に演じていた。
前回紹介した映画『繕い裁つ人』にも出演していたが、
今の邦画界になくてはならない女優の一人である。

田中裕子。
深夜食堂「めしや」に突然現れて、
マスターに謝罪する訝しげな女性を演じていたが、
怪演とも呼ぶべき演技で、ちょっと驚かされた。
(これは実際に映画を見て確かめて!)
田中裕子という女優は、やはり凄い女優である。

篠原ゆき子。
第28回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞した映画『共喰い』(2013年)での好演が強く印象に残っており、注目している女優の一人。
刑事・野口(光石研)の部下で、
にらレバが好きで、
野口とちょくちょく「めしや」に来る夏木刑事という役であったが、
野口とのやりとりが面白く、
出演シーンは少ないながら、とても好い味を出していた。

男優では、
やはり主演の「めしや」店主を演じた小林薫が良かった。
顔に傷跡があり、一見無愛想なのだが、
客が頼めばさらりと大抵の料理は作ってくれ、
客の事情には深くは立ち入らず、
かと言って無関心でもなく、
客の話をよく聞いてくれるという、
経歴不明のマスターを、実にうまく演じていた。

ここ数年では、
『海炭市叙景』(2010年)
『舟を編む』(2013年)
『夏の終り』(2013年)
『春を背負って』(2014年)
などが記憶に残っているが、
私の好きな作品にはよく出ている印象がある。
そういえば、満島ひかりの主演ドラマ『Woman』(2013年)で、
田中裕子と共に出演していたことも思い出した。

その他、
オダギリジョー、松重豊、光石研、柄本時生、筒井道隆、不破万作など、
私の好きな男優陣も、
期待に違わぬ演技を魅せてくれ、
大満足であった。

この映画『深夜食堂』の主題歌・劇中音楽は、鈴木常吉。

映画の冒頭から彼の「思ひで」が流れるが、
彼の声も歌にも味があって、
すこぶる好かった。
この映画を見ている間は、
(言い方は変だが)とても居心地が良く、
いつまでも作品の中にひたっていたいと思った。
あまり期待して見た作品ではなかったが、
満足度はかなり高かった。
数か月後、もしくは数年後、
また、「めしや」に行ってみたくなったら、
DVDでこの映画を見て、
多部未華子や、余貴美子や、田中裕子や、菊池亜希子に逢うことにしよう。
常連客に交じって、私も酒を飲み、
マスターの作った「ナポリタン」や、

「とろろご飯」や、

「カレーライス」を食べることにしよう。
