
佐賀県は、九州随一の農業立県である。
九州地方北西部に位置し、面積は2440平方キロメートル。人口は約85万人。
穀物を主とした農業が発展し、
玄界灘に面する北西部ではイチゴ、ミカン、ナシといった果樹農園や畜産業が盛ん。
なかでも「佐賀牛」は全国ブランドとして知られている。
農業に劣らず漁業も盛んで、
有明海では海苔の生産が多く、日本一の年間収穫量を誇る。
玄界灘ではアジ、サバ、イカなどの水揚げ量が多く、
なかでも呼子港で獲れるイカを求めて訪れる観光客も多い。
その、私も住む佐賀県の地元紙に、
先日、次のようなショッキングな記事が載った。
【県人口100年後28万3000人】
人口減少が進む中、佐賀県は将来的な対策を探るため、2110年までの推計人口を独自に試算した。現在約85万人の人口規模は110年には28万3千人になり、100年間で3分の1まで縮小する。全国平均より減少のスピードは速く、出生率の改善、人口流出を食い止める施策が急務となっている。
佐賀県に限らず、
人口減少、少子高齢化は、どの地方も抱えている問題であろうが、
それにしても減少が急である。
若者は都会へ流れ、比率的に多くなった老人もやがて死んでしまう。
第一次産業が主体の地方は、後継者不足により、衰退し、
人口減少に拍車がかかる。
そんな現象への危機感からか、
ここ数年、第一次産業を題材とした映画が見られるようになってきた。
『人生いろどり』(2012年)
『種まく旅人~みのりの茶~』(2012年)
『月の下まで』(2013年)
『奇跡のリンゴ』(2013年)
『銀の匙 Silver Spoon』(2014年)
などである。
中でも、『種まく旅人~みのりの茶~』の塩屋俊監督は、
「映画を通して第一次産業の素晴らしさや豊かさを伝えていきたい」
「私たちの命を支える第一次産業を応援する映画でかっこいい農家を描きたい」
とハッキリ述べている。
過去の名作『遠雷』(1981年)『魚影の群れ』(1983年)などを含め、
これまでは、農業・漁業関係の作品が主であったのだが、
「ついに」と言うべきか、林業を題材とした作品が現れた。
矢口史靖監督作品『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』である。

毎日お気楽に過ごしていたチャランポランな平野勇気(染谷将太)は、
大学受験に失敗し、しかも彼女にもフラれる。
高校卒業後、カラオケの帰りに、
ふと手にしたパンフレットの表紙で微笑む美女につられ、
街から逃げ出すように1年間の林業研修に参加する。

電車を乗り継ぎ降り立ったのは、
ケータイの電波も届かぬド田舎の神去村。

鹿や蛇や虫たちに驚き、
凶暴で野生的な先輩・飯田ヨキ(伊藤英明)に恐れをなし、

過酷な林業の現場に耐え切れず、

夜逃げしようとする勇気だったが、

例の表紙の美女・直紀(長澤まさみ)が村に住んでいると知り、
留まる事を決意する。

魅力的な村人たちと生活するうちに、
勇気の心も少しずつ変化してゆくようになるが……

見た感想はというと、
「いや~面白かったです」。
監督が、
『ウォーターボーイズ』(2001年)、
『スウィングガールズ』(2004年)、
『ハッピーフライト』(2008年)
などで知られる矢口史靖監督だったので、
かなり期待して見に行ったのだが、
期待以上の出来であったと言える。

原作は三浦しをん。
今年(2014年)3月7日に発表された第37回日本アカデミー賞において、
最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞、最優秀脚本賞、最優秀録音賞、最優秀編集賞の6部門を受賞した映画『舟を編む』の原作が、三浦しをんであった。
同じ原作者なので、こちらでも大いに期待していたのだが、
『舟を編む』と同様、特異な職場をきめ細かく描いており、
『ハッピーフライト』で航空業界のトリビア的な面白さを描いた矢口史靖監督の手腕も相まって、原作がより活かされ、超面白映画に仕上がっていた。

出演者も良かった。
緑の研修生を募集するパンフレットの表紙の美女につられて1年間の林業研修プログラムに参加することになった都会育ちのチャランポランな男・平野勇気を演じた染谷将太。
『パンドラの匣』(2009年)での好演が印象に残っているが、
染谷将太の名を世間に広めたのは、やはり、ヴェネツィア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞した『ヒミズ』(2012年)であろう。
以来、ちょっと屈折した若者の役が多かったが、
本作ではコミカルな役を実に巧く演じていて、演技の幅が広いことを証明。

マルチェロ・マストロヤンニ賞を一緒に受賞した二階堂ふみと同様、
これからの邦画界の期待の星である。

緑の研修生のパンフレットの表紙の美女で、なぜか勇気に対して厳しく接する女・石井直紀を演じた長澤まさみ。
『モテキ』(2011年)での彼女にはかなり驚かされたが、
本作では、従来の彼女に戻った感がある。

だが、ジョン・ウー監督最新作『太平輪』への出演も決定しているので、
彼女がこれからどのように変貌していくかが楽しみである。

ワイルドで凶暴な中村林業のエースであり、1年間勇気の面倒を見る男・飯田ヨキを演じた伊藤英明。
なんだかいつも一本調子な演技で、それほど好きな俳優ではないのだが、
本作における役柄はまさに彼にピッタリで、
好キャスティングであったと思われる。
海の男より、山の男の方が、より似合っているように感じた。

ヨキの妻・みきを演じた優香。
長澤まさみと同様、
果たして山奥の村に優香のような美しい女性がいるかどうかは分からないが、(笑)

ワイルドな男の妻を、ワイルドに演じていた。(笑)
夫役の伊藤英明とのセリフのやりとりが特に面白かった。

中村林業の親方・中村清一を演じた光石研。
『共喰い』(2013年)での好演が記憶に新しいが、
本作でも素晴らしい演技をしていた。
彼が出ているだけで、作品がグッと締まる感じがする。

清一の妻・祐子を演じた西田尚美。
『綱引いちゃった!』(2012年)、
『真夏の方程式』(2013年)、
『陽だまりの彼女』(2013年)
などにも出演していたし、
つい先日見た映画『百瀬、こっちを向いて。』(2014年)にも出ていたし、
本当に大活躍の女優。
好きな女優なので、またまた本作で逢えて嬉しかった。
私にとっては、彼女が出ているだけで「見る価値あり」である。

その他、
中村林業の主要メンバー・田辺巌を演じたマキタスポーツ、
林業組合の専務を演じた近藤芳正、
村のご意見番・山根利郎を演じた柄本明などが、
本作を傑作へと導いてくれていた。

山登りをしていると、
スギやヒノキの植林帯によく出くわす。
登山者は概ね自然林が好きなので、
植林帯を歩くときは、あまりいい気持ちはしない。
花粉症の私など、なおのこと敬遠してしまう。
だが、本作『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』を見て、
少し印象が変わった気がする。
それは、この映画が私に影響を及ぼしたということであり、
この映画に力があったということだ。
「林業とはこういうものであったのか……」
という気持ちにさせられた。
そういう意味で、山が好きな皆さんにもぜひ見てもらいたい作品なのである。
この映画を見たあとに山に登れば、
山が、きっと、これまでとは違って見えるはずである。

村の風景、

山の風景、

森の風景、

それぞれが、とても美しい。
それは、ロケが行われた三重県津市美杉町の美しさでもあるのだが、

風景を見ているだけでも楽しい。
山好きにはいろんな楽しみ方ができる一作。
ぜひぜひ。