
私が、立山三山、剱岳、大日三山を歩いたのは2010年だから、
もう4年前のことになる。
会社から4日間の休みを取り、
佐賀からの往復の時間を含めた4日間で、
立山三山、剱岳、大日三山を単独で歩き切るという強行軍であった。
天候変化の激しいこの山域で、
一日でも停滞の日があったらアウトというタイトなスケジュールであったが、
4日間すべて晴れるという幸運に恵まれ、
無事歩き通すことができた。
このときの模様は、ブログ「一日の王」で5回にわたって連載した。
(タイトルをクリックすると、記事を見ることができます)
「剱岳・立山連峰・大日三山」ソロトレッキング ①佐賀から室堂へ
「剱岳・立山連峰・大日三山」ソロトレッキング ②大パノラマの立山連峰
「剱岳・立山連峰・大日三山」ソロトレッキング ③美しく危険な雲上の頂
「剱岳・立山連峰・大日三山」ソロトレッキング ④お花畑と雷鳥の大日三山
「剱岳・立山連峰・大日三山」ソロトレッキング ⑤大日小屋から称名滝へ
ことに、
②大パノラマの立山連峰
のときは、その展望の素晴らしさに、感動の連続であった。
室堂から浄土山、雄山、大汝山、別山を経て、
剣山荘までを歩いたのだが、
周囲の風景の美しさに、ただただ圧倒されたのだった。
ことに、雄山を過ぎた辺りから急に登山者が少なくなり、
雄大な風景を独り占め状態だった。

左側を見ると、箱庭のような室堂平が眺められる。

右側には、黒部湖や針ノ木岳などが見えた。

立山連峰最高峰の大汝山(3015m)の向うには、剱岳。

段々と近づいてくる剱岳は、とにかく美しかった。

この稜線漫歩の途中、大汝休憩所の前を通った。
大汝山頂上直下の小広場に建つ小屋なのだが、
このときは、ただ通過タイムを記録するためだけに写真を撮った。


だからブログのレポにも使用していないし、
これから先も使われることのない写真の筈だった。
ところが、この大汝休憩所を主なロケ地として制作された映画が、
今年(2014年)6月14日に公開されることとなった。
木村大作監督作品、『春を背負って』だ。

キャメラマン・木村大作の初監督作品『劔岳 点の記』(2009年)から5年、
北アルプスを舞台にした新作を引っ提げて、木村大作は再び我々の前に再び姿を現した。
6月14日公開であるが、
私は一足先にこの作品を見る機会に恵まれた。
よって、映画を見た感想を少し述べてみたい。
原作は、笹本稜平の小説だ。
山仲間のあいだでは、映画『春を背負って』への関心が高く、
すでに原作本を手に入れて読み終えた人も多いと聞く。
事実、私のネット仲間のブログには、この本が幾度となく採り上げられていて、
みなさん、映画の公開を楽しみにされているようなのだ。
私も、ブログ「一日の王」で、
2011年06月19日に、小説『春を背負って』のレビュー(←クリック)を書いている。
これまでレビューを書いている人が少なかったのか、
映画化が決まって以降、「一日の王」のレビューへのアクセスが殊の外多くなった。
映画の方は、この原作本と、骨格は同じだが、
内容はかなり違うように感じた。
原作の舞台は奥秩父だが、
木村大作監督は、標高3000mの立山連峰に舞台を移して撮影している。
立山連峰の稜線に建つ山小屋〝菫小屋〟。

この小屋を営む厳格な父(小林薫)から厳しく育てられた長嶺亨(松山ケンイチ)は、

社会人になった今、
父から遠ざかるように金融の世界で毎日を過ごしていた。
お金がすべての仕事に埋没し、少し疲れ始めていた頃、
父の訃報が届く。

帰郷した亨の前には、
気丈に振る舞う母(檀ふみ)、
その姿を沈痛な想いで見守る山の仲間たち、
そして見慣れぬ一人の女性・高澤愛(蒼井優)の姿があった。

彼女は心に深い傷を負い、
山中で遭難しかけたところを亨の父に助けられたという過去があった。

父が遺した菫小屋と、父の想いに触れた亨は、
都会での生活を捨て小屋を継ぐことを決意する。

山での生活に悪戦苦闘する亨の前に、
父の友人と名乗るゴロさん(豊川悦司)が現れる。

世界を放浪してきたゴロさんの自然に対する姿勢や、
愛の天真爛漫な笑顔に接しながら、
亨は新しい自分の人生に向き合い始める……

木村大作の初監督作品『劔岳 点の記』(2009年)のレビューも、
このブログに書いているが、
私はあまり褒めてはいない。
脚本と、それに伴う演出が弱いと感じたからだ。
「これでどうだ」というような自己主張する映像にも辟易したし、
やはり、「誰もが監督をできるワケではない」と思ったのだった。
だから、『春を背負って』を見る前は、ちょっと恐かった。
『劔岳 点の記』のときと同じような感想を持つんじゃないか……と。
そのときは、ブログにレビューを書くのはやめようと思った。
試写会を見て、批判的な記事を書くのは気が引けるからだ。
で、映画『春を背負って』を見た感想はというと……
「こうしてレビューを書いている」(笑)
最初から最後まで、ゆったりと楽しく見ることができた。
「これでどうだ!」というような映像は少なく、
どの映像も気持ちよく素直に見ることができた。
監督が枯れてきたのか、(笑)
自己主張する映像がほとんど無かった。
穏やかで美しい風景が次から次へと現れて、
いつまでもこの世界に留まっていたいと思ったほどだった。

ある媒体で、木村大作監督は、
「演出は何もしていない。“本当”の場所に俳優さんを連れて行き、演技をしてもらう。それが最大の演出。自然を前にすると人としての素や佇まいは隠せない」
というような意味の発言をしていた。
だからだろうか、俳優たちは、自然の中で自由に演技していたように感じた。
それがある意味新鮮であった。
松山ケンイチが、
「自然の中だからこそ、説得力ある亨でいられた。映画には、自分でも見たことない表情がたくさんありました」
と語っていたが、
私自身も、これまでとは違う出演者の表情やしぐさを見ることができ、楽しかった。

長嶺亨役の松山ケンイチ。
役作りには定評のある男優で、
これまで様々な人物を演じてきているが、
本作での彼は、素の部分が大部分を占めていたように感じた。
大自然の中では、どんなに役作りをしても、
見抜かれてしまうということを、
山小屋の生活するうちに実感として感じ取っていたのではないか。

多田悟郎(ゴロさん)役の豊川悦司。
『今度は愛妻家』(2010年)や『必死剣 鳥刺し』(2010年)など、
ここ数年、質の良い作品への出演が目立つ。
小説の中のゴロさんとは、随分イメージが違うように感じたが、
彼自身のゴロさん像を創り上げているように感じた。
1月に見た映画『ジャッジ!』での、
軽薄で身勝手な面白い男の役もかなり良かったが、
正反対ともいえる役を、こちらも巧みに演じていた。

高澤愛役の蒼井優。
才能のある女優で、
私の好きな女優でもあるのだが、
作品にあまり恵まれていないように感じる。
『雷桜』(2010年)も、
『洋菓子店コアンドル』(2011年)も、
『るろうに剣心』(2012年)も、
『東京家族』(2013年)も、
彼女の才能の片りんしか表現されていない。
本作『春を背負って』の彼女もなかなかイイのだが、
『フラガール』(2006年)級の作品での彼女を早く見たいと思う。

その他、
檀ふみ、小林薫、井川比佐志、石橋蓮司などが、
落ち着いた演技で作品をしっかり支えていた。


好印象だったのは、
新井浩文と、安藤サクラ。
夫婦の役であったが、
演技がとても自然。
いろんな作品で見かけるふたりだが、
これまで以上に才能を感じた。

それから、市毛良枝。
登山家としての顔も持つ彼女だが、
どんな役で出てくるのかなと思っていたら、
山小屋に泊まりにくる単独行の女性登山者の役であった。
これがすこぶる良かった。
さすが山慣れしてるな~と思わせる仕草、表情、セリフ。
彼女が出演しているシーンは、
いつまでも心に残り、忘れないだろう。

それからそれから、もうひとり。
私の好きなKIKI。
(山に登る)モデルとして活躍中の彼女だが、
菫小屋近くで遭難する女性の役で出ていた。
山の雑誌でしか見ることができない彼女を
大きなスクリーンで(動く彼女を)見ることができて、
とても嬉しかった。

映画『春を背負って』は、
笹本稜平の原作ということもあって、
原作と同様、映画にもアフォリズムがちりばめられている。
若い人は、やや説教くさいと感じるかもしれないが、
こういう正統で、正攻法の作品には、
最近はめったに出会えないものだ。
ベタな内容であるし、
1960年代の日活や東宝の青春映画のようでもある。
ことに、あのラストシーンは(と言っても分からないだろうが)、
ちょっと……と思う。(笑)
だが、あのラストシーンも含めて、木村大作作品なのだと思う。
あの厳めしい面構えの木村大作監督が、
あんなシーンを撮るなんて、
むしろ微笑ましいではないか。

山が大好きな人……
北アルプスに行ったことのある人はもちろん、
これから北アルプスを目指す人にも、
ぜひ見てもらい作品である。
試写会で見せてもらった私であるが、
6月14日に封切られたら、
今度はちゃんと料金を払って見に行きたいと思っている。
なぜなら、
ギュッと抱きしめたくなるような、愛すべき作品だから……
何度でも見たいと思う作品だから……だ。