
ナタリー・ポートマンが、
第83回アカデミー賞の最優秀主演女優賞に輝いた話題作、
『ブラック・スワン』を見てきた。
ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するニナ(ナタリー・ポートマン)は、
元ダンサーの母親・エリカ(バーバラ・ハーシー)の寵愛のもと、
人生の全てをバレエに捧げていた。

そんな彼女に新作「白鳥の湖」のプリマを演じるチャンスが訪れる。

しかし、純真な白鳥の女王だけでなく、
邪悪で官能的な黒鳥も演じねばならないこの難役は、
優等生タイプのニナにとってハードルの高すぎる挑戦だった。

さらに黒鳥役が似合う奔放な新人ダンサー、リリー(ミラ・クニス)の出現も、
ニナを精神的に追いつめていく。

やがて役作りに没頭するあまり極度の混乱に陥ったニナは、
現実と悪夢の狭間をさまよい、
自らの心の闇に囚われていくのだった……。
(ストーリーはパンフレットより引用し構成)

ミステリー作家・井上夢人の『あくむ』という短篇集の中に、
「ゴールデンケージ」という傑作がある。
手許に本がないので不確かなことしか言えないが、
財閥の御曹司で、超エリートの兄と、劣等生の弟がいて、
ある日、兄は、体に不気味な白い筋があるのを見つける。
皮膚の下を正体不明の虫が蠢き、卵を産み付けているのだ。
剃刀で皮膚を切り裂き、虫や卵を除去しようとする兄。
だが、それは、兄だけにしか見えない幻覚のようなものであった。
隣の兄の部屋から変なうめき声がするのに気付いた弟が窓からのぞいてみると、
兄が全身を血まみれにして呻いている……
といった感じで物語が進行していく。
映画『ブラック・スワン』を見ている時、
私はこの「ゴールデンケージ」を思い出していた。
白鳥にふさわしい可憐なバレリーナ・ニナは、
プリマの座を射止めるためには、黒鳥にもなりきらねばならない。
官能的なダンシングが要求されるのだが、ニナはそれができない。
極度のプレッシャーとストレスに苛まれていくうちに、ニナは他の人には見えないものが見えてくるようになる。

純真と官能、正気と狂気の狭間で、ニナは魔性に染まっていく。
そして、ついには、自らの体も傷つけるようになる。
そういうところが、「ゴールデンケージ」によく似ていると思った。
それにしても、バレリーナの試練と孤独は、かくも過酷なものなのか。
主人公・ニナの心理を、これでもかというほどに映像化していくこの作品は、
ホラー映画と言ってもいいほどショッキングであり、狂気に満ちている。
先日、周防正行監督作品『ダンシング・チャップリン』を見たばかりなのだが、
あの練習風景も凄かった。
何かのTV番組のインタビューで、
公演前のピリピリした状態の草刈民代について、
周防監督は、こう語っていた。
「さわらぬ民(代)にたたりなし」と。(笑)
どの分野の芸術家もそうだと思うが、極限の高みに上り詰めようとするアーティストは、誰もがこの映画の主人公のような孤独と苦悩を体験しているに違いない。
それを乗り越えた者だけが、それぞれの分野での頂点を極めるのであろう。
子供時代にバレエを習っていたナタリー・ポートマンは、
10ヶ月の猛特訓の末に、この作品の舞踏シーンに挑戦したという。
鬼気迫る演技と、このダンシングは見事だし、
アカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞したのもうなずける。
ただ、『ダンシング・チャップリン』で草刈民代のダンシングを先に見ているので、
それと比べると、(あたりまえのことではあるが)格段に落ちる。
10ヶ月くらい特訓した程度では、とても追いつけないのは当然のことだ。
本物のバレリーナでない者が、それに成りきって演じたその成果に拍手したいと思う。

この作品、
ニナに主役の座を追われ、精神が崩壊していく元プリマ役で、
ウィノナ・ライダーが出ている。
けっこう好きな女優だったので、2001年にロサンゼルスのブティックで万引きをし、窃盗の疑いで逮捕された時には驚いた。
役柄もあろうが、あの若き日とは別人のような彼女を見て、ちょっと心が痛んだ。

映画『ブラック・スワン』を見終わって、
もうひとつ気づいたこと、
それは、本作の黒鳥(ブラック・スワン)と、

昨年(2010年)公開された映画『 ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』で仲里依紗が演じたゼブラクイーンとの類似性である。

ゼブラクイーンも「白」に対する「黒」、「正義」に対する「悪」の象徴であったのだが、
人間に秘められた二面性をえぐり出しているという点で、似たものを感じた。
クライマックスで、黒鳥を演じているうちに体に黒い羽根が生えてくるブラック・スワンと
(予告編の最後でそれが見られる)、

戦いを始めると全身が黒ずくめに変身するゼブラクイーンは、よく似ている(ゼブラクイーンの「NAMIDA~ココロアバイテ~」の最後でそれが見られる)。

こうして見ると、映画『 ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』は時代を先取りした傑作であったのかもしれない。
『 ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』のレビューの最後にも書いているが、
いつの日か、ゼブラーマンのスピンオフとして、ゼブラクイーンが(名実共に)主役の作品が公開されることを祈っている。
『ブラック・スワン』のレビューなのに、話が変な方向に行ってしまった。