
かつて、「太陽の季節」と称された時代があった。
石原慎太郎の同名小説がベストセラーになり、太陽族なるものが現れた昭和30年代初頭の頃だ。
昭和40年代中頃には五木寛之の対談集『白夜の季節の思想と行動』や小説『白夜物語』などが発売され、「太陽の季節」ほどではないが、「白夜の季節」なる表現が静かに浸透した。
明るい太陽の時代は過ぎ去り、白夜の時代の入ったと言われたのは、この頃だ。
昭和59年には、三浦哲郎の『白夜を旅する人々』が出版された。
三浦哲郎の家族を素材に、厳しい血の宿命を負った兄姉にふりかかる悲劇。
失踪、自殺……
必死に生きようとして叶わず、沈黙したまま自滅していった兄や姉たちへの鎮魂の思いを込めて書きあげた作品だ。
ここでいう「白夜」とは、
《暮れるでもなく暮れぬでもなく、眠れるでもなく眠れぬでもない、寝苦しくて醒めぎわの白々しい夜》
のことであり、そのような精神状態を象徴していた。
東野圭吾の『白夜行』が刊行されたのは、1999年(平成11年)。
バブルは崩壊し、世の中はさらに白夜化が進んだ。
夜になっても太陽は沈まず、白い闇がはびこる。
そんな時代に、現れるべくして現れた作品と言えるかもしれない。
累計200万部。
2005年に舞台化、
2006年にテレビドラマ化、
2009年に韓国で映画化され、
そしてついに、日本でも映画化された。
密室となった廃ビルで、質屋の店主が殺される。
決定的な証拠がないまま、事件は被疑者死亡によって一応の解決をみる。
しかし、担当刑事笹垣(船越英一郎)だけは腑に落ちない。

容疑者の娘で、子供とは思えない艶やかさを放つ少女・雪穂と、
被害者の息子で、どこか暗い目をした物静かな少年・亮司の姿がいつまでも目蓋の裏を離れないのだ。

やがて成長した雪穂(堀北真希)と、

亮司(高良健吾)。

全く面識のないはずのふたりの周辺で、不可解な事件が続発する。
そして、刑事退職後も真実を追い続ける笹垣自身も命を狙われ、ついに思い至るのだった……
19年前の驚愕の真実と、そこで結ばれた固い絆の存在に……
(ストーリーはパンフレットから引用し構成)

昨年は、『悪人』や『告白』など、暗くて重いミステリーを原作とした秀作が多く制作された。
今年もその流れは続いているようで、『白夜行』も、両作品に負けず劣らず、暗くて重い衝撃作である。
監督は、深川栄洋。
『60歳のラブレター』(2009年、松竹)
『半分の月がのぼる空』(2010年、IMJエンタテインメント)
で話題になり、
本作を経て、
今年は、
『洋菓子店コアンドル』(2011年、アスミック・エース)
『神様のカルテ』(2011年、東宝)
の公開も控えている。
まだ34歳。
オーソドックスな手法で、奇をてらわない演出は、とても好感が持てる。
『白夜行』でも、正攻法で攻め、水準以上の作品に仕上げている。
今週末から公開される蒼井優が出る『洋菓子店コアンドル』も楽しみだ。
堀北真希。
感情を面に表さない静かな演技で、主人公・雪穂を好演していた。
やや艶やかさには欠けるが、清楚な佇まいは彼女ならではのもので、彼女ありきの今回の『白夜行』と言えた。

高良健吾。
このところ秀作に恵まれ、現在もっともノッている若手俳優。
この作品でも、彼ならではの亮司像を創り上げている。

船越英一郎。
本作では狂言回しの役も担い、ある意味、主役と言ってもいいほどの役柄。
ただ、TVドラマの印象が強すぎて、やや損をしていると思った。
TVドラマ風の大袈裟な演技を極力抑え、静かな演技に徹していたところは見事。

話題作の割には地味なキャスティングで心配したが、なかなかの作品に仕上がっていた。
この他、戸田恵子や田中哲司が味のある演技を見せていた。
《真っ白い闇の中で、心を殺さなければ、生きることなどできなかった。》
映画を見終わって、この言葉の意味を受けとめる。
深く、重く……