
今日も、お昼までに佐世保に行かなければならないので、午前中だけの山歩き。
早朝に家を出る。
本日のいちばんの目的は、樫原湿原のトキソウ。
もう咲いている頃だろう。
トキソウと聞いて、いつも思い浮かべるのは、『佐賀の野草』(貞松光男/佐賀新聞社)に収められている文章である。
上巻の最後の頁に、トキソウについての記述がある。
そこで、著者の貞松氏は、次のようなエピソードを紹介しておられる。
《ある老友はいう。
「父の日」には子供達がお父さんの好きなように使って、とお金をくれるので、
弁当と少々のお酒を持ってタクシーに乗る。
行き先は毎年同じ。
山峡深くタクシーを降り、かなり歩く。
行き着くところは私だけの湿原。
ここで小半日を過ごし、やや肌寒くなったころ山を降りる。
お目あてのトキソウはその時期が一番美しい》
「私だけの湿原」というところが、なんとも好い。
きっと秘密の場所なんだろう。
「父の日」の頃に咲くトキソウ。
子供達からプレゼントされたお金で、弁当と少々のお酒を買い、
タクシーで「私だけの湿原」へ……
美しいトキソウを見ながら弁当を食べ、お酒を呑む。
少しのあいだ横になり、ウトウトするかもしれない。
ゆったりとした時が流れる。
贅沢な時間。
黄金のようなひととき。
それを毎年、自分だけの恒例行事にしているなんて、なんてオシャレなんだろう。
まさに「一日の王」。
今日は、私もその方にあやかって、短い時間だけど、黄金のひとときを過ごしてみたい。
その前に……
樫原湿原に向かう途中に、通石山がある。
いつも通過するばかりなので、今日は登ってみる。
標高900.2m。
国土地理院の地形図には山名の記載はないが、佐賀県では高い山の部類に属し、山のガイドブックにはリストアップされていることが多い。
ここが登山口。
荒川天川林道沿いにある。

しばらくは杉の植林帯を登るが、すぐに自然林に変わる。

そして、登山口から10分もしないくらいで、権現を祀ってある巨石に行き着く。

巨石の右側から登っていくと、登山道は、積み重なった巨石の中の穴に通じている。
この穴を抜けて、山頂に向かう。
(通石山の山名の由来は、ここにあるようだ)

穴を抜けて、振り返ると、こんな感じ。
この積み重なった巨石は、自然の造形物なのだろうか?
私には、誰かが積み上げたもののように感じられるのだが……

山頂の西斜面は、このような美しい自然林が残っている。

登山口から12分ほどで、山頂着。
まあ、なんともあっけなく登頂できてしまう山である。

三角点は、埋もれていた。

色の濃いタツナミソウが咲いていた。

こんな角度から撮ると、ナルコユリも素敵だ。

フタリシズカが、ひとりぽっちで佇んでいた。

山頂は展望が得られないので、巨石のところに戻って眺めを楽しむ。
八幡岳の向こうに黒髪山系の連なりが見え、その向こうには国見山系も見える。
……ある本に書いてあった。
《いつも登っている山は、遠くから見ると、より一層美しく見える》
これは真実だと思う。

山を下り、樫原湿原に向かう。
湿原が近くなると、新しい駐車場が見えてきた。
ビックリである。
広くて、トイレもある。

あの、昔からある駐車場は、まだ駐められるかなと思い行ってみたが、閉鎖されていた。

ボランティアのガイドさんによると、樫原湿原に来る人は、皆、あの新しい駐車場に車を駐めなければならないとのこと。
新しい駐車場に戻り、車を駐め、歩き出す。
新しい駐車場と湿原は少し離れていて、5分ほど歩かなければならない。
樫原湿原には、ガイドさんがすでに2名おられたが、見学者は誰もいなかった。
私が一番乗り。
誰もいない湿原は、ひときわ美しい。

ジュンサイの花が咲いている。

トキソウはというと……
もう、すでに、たくさん咲いていた。

小さくて可愛い。

朝早いので、閉じた花が多かったが、朝日に照らされ、すでに開いた花も……
朝露に濡れた花も素敵だ。

正面から覗き込む。

接近して見ると、なんだか砂糖菓子のよう。

本当に美しい花だ。

私だけの湿原を存分に楽しみ、八幡岳に向かった。




八幡岳に着いてみると、ユキノシタの大群落に遭遇。

反対側もご覧の通り。

クモキリソウにも逢えた。

本当に面白い形をしている。

そして、あの花は……
まだ蕾が多かったけれど、開いている花もあって、ホッ。

しばし、ゆったりと、幸福な時間を過ごしたのだった。

そして、脱兎の如く、佐世保に向かったのだった。(爆)