
あなたは配偶者に隠し事はないだろうか?
「ない」
と言ったあなた……
……本当に「ない」と言い切れるだろうか?
11月22日は、「いい夫婦」の日であった。
(よりにもよって)この日、某新聞に、恐ろしい(笑)記事が載っていた。
「夫のケータイをナイショで見た経験がある主婦は6割強」
子供を持つ既婚女性500人を対象に調査した結果だそうだ。
夫の携帯電話を内緒で見た経験がある主婦は61%もいるとのこと。
背筋がゾ~としたあなた(そう、あなたのことです)、あなたのケータイは、もうすでに配偶者に見られている……かも。
見た理由として、
「浮気していないかチェック」(35%)
「興味本位」(34%)
「隠し事がないかチェック」(28%)
が挙げられ、この3つで実に97%を占めている。
そもそも、夫であれ妻であれ、それぞれの配偶者のことを、どれだけ知っているだろうか?
夫婦と言えども、もともとは赤の他人。
結婚前のことはもちろん、結婚後のことも、案外知らないことが多いのではないだろうか……
「すべてを知っている」と豪語できる人は、それほどいないと思う。
もしいたとしたら、余程おめでたい人に違いない。
自分が把握している配偶者像が、実際の姿とは著しく違っていたら……
こういう設定は、アンドリュウ・ガーヴ の『ヒルダよ眠れ』をはじめてとして、多くのミステリー作品で見ることができる。
昭和を代表するミステリー作家、松本清張(1909~1992)。
その生誕100年(ということは太宰治と同い年だったのだ。ちょっとビックリ!)を記念し、名作の誉れ高い『ゼロの焦点』が映画化された。
この作品の場合は、結婚式から僅か7日後、仕事の引継ぎのため以前の勤務地に戻った夫が、そのまま失踪してしまう話である。
結婚式から7日後。
仕事の引継ぎのため、以前の勤務地である金沢に戻った夫・鵜原憲一(西島秀俊)は、そのまま帰ってこなかった。

憲一の妻・禎子(広末涼子)は、見合い結婚のため、夫の過去をほとんど知らず、彼が失踪した理由もさっぱり見当がつかない。
夫の足跡を辿って金沢へと旅立った禎子は、憲一のかつての得意先企業、室田耐火煉瓦会社で社長夫人の室田佐知子(中谷美紀)、受付嬢の田沼久子(木村多江)という2人の女性と出会う。
日本初の女性市長選出に向けて支援活動に精を出す佐知子。

教養がなく貧しい出身だが、社長のコネで入社した久子。

決して交わるはずのなかった3人の女性の運命だったが、憲一の失踪事件がきっかけとなり、複雑に絡み合っていく。
一方、憲一の失踪と時を同じくして起こった連続殺人事件に関して、ある事実が判明する。
事件の被害者は、いずれも憲一に関わりのある人間だったのだ。
夫の失踪の理由とは?
連続殺人の犯人の正体は?
その目的とは?

全ての謎が明らかになるとき、衝撃の真相が禎子を待ち受ける……。
(ストーリーは、公式HP等から引用し構成)

夫の過去を探るうち、次々とあきらかになる真実。
小説を読んだことがある人は多いだろうし、1961年に映画化された作品をBS放送やDVDで見た人も多い……ということを前提にしているためか、今回の作品でも犯人はすぐにわかるようにできている。
重点が置かれているのは、その動機だ。
誰もが知られたくない過去を持っている。
配偶者にさえ隠していたい過去……
……それが悲劇を生む。
今回映画化された作品では、脚本がやや弱いと感じた。
特に後半は、松本清張の作品というより、江戸川乱歩作品的な展開、大袈裟な演出になり、TVの2時間ドラマ(サスペンス劇場)のようだった。
謎の解明を、主人公(広末涼子)の回想で解きあかしていくのだが、この部分が不自然であった。
もともと主人公のナレーションで始まり、一人称的に物語が進められていくのに、途中から「神の視点」が混じってくるのだ。
主人公の回想に出てくる登場人物が、また回想し、主人公が知り得ないことも次々と映像化されていく。
小説では絶対にあり得ない手法だし、冷静に考えてみれば無理がある展開なのだ。
だが、不思議なことに、映画を見ている間は、それほど違和感が感じられない。
ここが映画のマジックなのかもしれない。
映像で繋いでいくと、割と自然に見ていられるのだ。
それは、3人の女優の演技に因るところも大きい。
下手な女優が演じていたら、それこそモロに「サスペンス劇場」になっていたかもしれない。
主人公・禎子役の広末涼子は、前作『ヴィヨンの妻』と本作で、女優として大きく進化したと思った。
ミスキャストと評する評論家もいるが、私はそうは思わない。
彼女は、これからどんどん良くなっていく伸び代の大きい女優だと思う。

室田佐知子役の中谷美紀は、この作品では際立っていた。
物凄い演技をしている。
ある意味、『嫌われ松子の一生』を超えた演技かもしれない。
映画の後半部分を支えていたのは、間違いなく中谷美紀の鬼気迫る演技だ。
それは、日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を受賞してもおかしくないほどの素晴らしさであった。

田沼久子役の木村多江も控え目ながら好い演技をしている。
昨年『ぐるりのこと。』で日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞し、演技に一段と豊かさが増した。

広末涼子、中谷美紀、木村多江。
今回の『ゼロの焦点』は、この3人の女優のための映画であった。
作品の出来はともかく、この3人の演技は見る価値がある。
いや、見ておくべきだと思った。
監督の犬童一心は、この3人の女優を実に美しく撮っている。
アップの顔を多用し、彼女たちの顔の表情で、場面を作っている。
監督の功績はそこにあると思った。