
今日は、佐賀労山とからつ労山との合同セルフレスキュー訓練の日だったが、雨で中止になった。
午前中は山岳会の野郎ばかりで、GWに縦走を計画している屋久島についての打ち合わせをした。
午後からは、音楽を聴きながら、ゆっくりと読書。
今日読んだのは、『白夜の大岩壁に挑む クライマー山野井夫妻』。
なかなか面白く、あっという間に読んでしまった。
私の場合、歩くことが好きで、歩き旅の延長で山歩きを始めた。
よって、私は、基本的に「岳人」ではない。
初歩的な岩登りはするが、バリバリのクライマーになりたいとは思わないし、先鋭的なクライマーに対しても興味がない。
だから、山野井夫妻のことは知ってはいたが、かれらのクライマーとしての活躍にはほとんど関心がなかった。
昨年の11月18日、NHKハイビジョンで「白夜の大岩壁~クライマー山野井夫妻」という特集番組があった時も、それほど興味深く観た訳ではなかった。
ただ何となく観たに過ぎなかった。
白夜の北極圏。
グリーンランドの無人島。
高さ1300mの前人未踏の大岩壁。
番組では、未踏の大岩壁に挑む迫真のドキュメントと煽ってはいたが、私はもともと原初的な風景に心惹かれないタイプの人間なので、山岳アドベンチャー的な面白さはあったものの、私の心を揺さぶってはくれなかった。
だが、ひとつだけ私の興味を惹いたものがあった。
山野井泰史の妻・妙子の生き方である。
映像で見たとき、妙子の両手には、指が一本もなかった。
いつもグーの形に握っているように見える。
二度の重い凍傷で、足の指も左足の小指と薬指の二本を除いて、切断している。
実に両手両足のうち、18本の指がないのだ。
それで家事もこなすし、家庭菜園で野菜も育てている。
夫と同行して、クライミングもする。
もともと妙子は世界的な女性クライマーで、アルプス三大北壁の一つ、グランドジョラス北壁ウォーカー側稜で冬季女性初登攀など、めざましい活躍をしてきた人だ。
その妙子が、泰史と一緒に、グリーンランドの高さ1300mの前人未踏の大岩壁に挑む。
泰史も言う。
「妙子のほうが僕よりもすごいよ。あの手でトップをいくんだから。1300メートルの未踏のビッグウォールに挑戦するんだから」
妙子は女性としては日本で一番、男性を交えてもトップクラスのクライマーだと、泰史は考えている(P.51)
妙子は、泰史より9歳年上で、51歳。
だが、その動きは年齢を感じさせない。
手足のハンディも感じさせない。
力強くグイグイと登っていく。
山野井泰史にはいつも緊張しているような雰囲気がある。
実際、自分でも緊張するタイプであることを認めている。
それにひきかえ、妙子の方は、ほとんど緊張しないという。
なぜだかいつも飄々とした雰囲気を漂わせている。
なにを考えているのか分からないような感じもする。
実に興味深い、いや魅力的な人物だ。
「山に行くことに関してはお金をかけるけど、ほかのことはどうでもいいです」(P.80)
妙子の言葉だ。
そうは言うものの、彼女に、日常生活に投げやりな部分は見られず、近所づきあいも良く、二人の生活をしっかりと支えている。
きっと、彼女は、山に登ることができなくなっても、きちんと生きていけるタイプの人間だ。
「この道一筋」人間に見えながら、実は幾筋もの道を持っている人間……妙子はそういう人間だと思うし、そこが凄いところだ。
この本には、TVでは十分に伝わらなかった夫妻の様々な思いや過程が、きちんと描かれている。
TVを観た人はもちろん、観ていない人も興味を持って読める。
この本を読んで、もう一度、放映された映像を観たいと思った。
再放送されないかなぁ~
最近読んだ本
●坪内祐三『「アメリカ」村上春樹と江藤淳の帰還』(扶桑社)
●『葉っぱで調べる身近な樹木図鑑』林将之(主婦の友社)
●中野翠『本日、東京ロマンチカ』(毎日新聞社)
●養老孟司・宮崎駿『虫眼とアニ眼』(新潮文庫)
●川村湊『温泉文学論』(新潮新書)
●豊崎由美・岡野宏文『百年の誤読 海外文学篇』(アスペクト)
●菊地信義『新・装幀談義』(白水社)