『翼はいつまでも』川上健一(集英社文庫)
川上健一の『翼はいつまでも』をまだ読んでいない人がいたら、幸せである。
初めて読んだときの感動を、これから味わうことができる。
本書をすでに読んだことがある人がいたなら、幸せである。
二度、三度と読み返し、何度も「美しい夏」を体験することができる。
夏になると、私は『翼はいつまでも』を読みたくなる。
とくに今年は『ビトウィン』を読んだから、なお一層、欲求が募った。
初恋と友情。
少年と少女の永遠のひと夏――。
たまらず今年も読んでしまった。
そしてまた涙を流した。
青森県の中学2年生、神山は補欠の野球部員。
平凡な生徒。
平凡な日常。
だが、ある日初めて聞いたビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」が、さえない彼の人生を変えた。
聞き覚えてクラスで歌い、彼はクラスで認められた。
斉藤多恵からも声をかけられ初恋の思いを抱く。
やがて3年生になった。
そして、夏休み。
野球大会。
十和田湖への一人旅。
憧れの多恵との交流。
さまざまなトラブルが彼を襲う。
だが彼には素晴らしい仲間がいた。
ビートルズがくれた勇気もある――。
小説の後半は涙なくしては読めない。
頬を濡らしたまま読み終える。
この作品のなかには、思い出の夏がある。
読むことによってしか得られない、美しい奇跡の夏がある。
今年の夏、多くの人に『翼はいつまでも』を読む幸福を味わってもらいたい。
一度味わうと、この幸せは、いつまでも心のなかに残る。
そして、夏がくるたびに、その幸せを懐かしく思い出すことだろう。
今の私のように――。