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和田春樹氏はなぜ私に謝罪したのか―拉致報道を巡る誹謗中傷の真相

 ここに、私宛に届いた一通の私信がある。

 差出人は、ロシア史・東欧史を専門とする歴史学者であり、東京大学名誉教授の和田春樹氏。いわゆる「岩波文化人」の一人として、戦後日本のリベラル派知識人を代表する存在である。日朝関係においては、「日朝国交正常化推進国民会議」で事務局長や共同代表といった要職を占め、同会の理論的支柱、いわば司令塔として活動してきた人物でもある。

 その和田春樹氏から、私に向けて送られてきたのが、以下の文面であった。

 「私の著書の記述内容を検討した結果、重大な推測の誤まり、結果としての記述の誤りを私は認識しました。高世様のジャーナリストとしての名誉を著しく傷つけたことを認めます。まことに申し訳ない次第です。ここに高世様に深く謝罪して、誤った記述を取り消し、二度とそのようなことを書かないと誓うものです」

 これは、和田氏が著作を含む公の場において、複数回にわたり、私を名指しで誹謗中傷してきたことへの謝罪文である。私が、それらの記述が事実に反すると抗議した結果として届けられたものであった。

 問題となったのは、私が1997年2月、元北朝鮮工作員・安明進氏の証言を紹介したテレビ朝日の報道番組「ザ・スクープ」である。安氏は「幼いころニイガタから拉致された日本人女性を平壌で目撃した」と証言した。この証言は、初めての「横田めぐみさん目撃証言」として大きな反響を呼び、拉致問題が国民的関心事となる契機の一つとなった。

安明進氏の証言は1997年2月8日のテレビ朝日『ザ・スクープ』で放送された

 ところが和田氏は、この報道を私が仕組んだ捏造番組であると断じたのである。しかもその主張を、一度きりではなく、以下の四つの場と媒体で繰り返した。

1)「日朝国交交渉20年検証会議第3回」(2021年6月27日)での和田報告
2)1を記録・掲載したホームページ
http://www.wadaharuki.com/kenshoukaigi/dai3kai.html

3)和田著『日朝交渉30年史』(2022年、筑摩書房)P64-65
4)和田編著『北朝鮮拉致問題の解決』(岩波書店、2024年)P25

まず、「検証会議」での発言である。

「(1997年)2月4日、電波ニュース社の高世仁は、安明進を取材した。(略)この高世仁の安インタビューは2月8日にテレビ朝日で放映されたが、巧妙にも安を匿名で登場させたのである。北からのがれた未知の新しい亡命者本人が平壌で横田めぐみを見たと証言したということはめぐみさん拉致を決定的に確するものとして受け取られた」

続いて、和田氏自身の著書『日朝交渉30年史』(2022年9月10日、筑摩書房)での記述である。

「ここでもう一つの重要なプロセスがはじまる。二月四日、電波ニュース社の高世仁は、韓国で亡命北朝鮮機関員安明進を取材したそのさい、高世は日本での横田めぐみ報道の記事を安にみせた。すると安は平壌で横田めぐみをみたと言い出したのである。前年に石高に二回取材をうけたときには、安はそんなことは言っていなかったのに、である。この高世の安インタビューは二月八日にテレビ朝日で放映されたが、安を匿名で登場させた。安はこれまで何度も公衆に向かって話しているが、横田めぐみのことは話していなかったので、横田めぐみ拉致の話が報じられたあとに突然彼女を見たと言い出したのでは信頼されないと高世が考えたのであろう。結果的に、北からのがれてきた新しい亡命者が平壌で横田めぐみを見たと証言したということはめぐみさん拉致を決定的に確認するものとして受け取られた。安の証言の変化などに気を留める人はいなかった」(64~65頁)

 さらに、『北朝鮮拉致問題の解決 膠着を破る鍵とは何か』(2024年3月26日、岩波書店)』の「第1章 日朝国交交渉と拉致問題の経緯を振り返る」においても、同趣旨の主張が繰り返されている。

「ここでもう一つの重要なプロセスがはじまる。二月四日、日本電波ニュース社の高世仁は、韓国の亡命北朝鮮機関員安明進を取材した。その際、高世は日本での横田めぐみ報道の記事を安に見せた。すると、安は平壌で横田めぐみを見たと言い出したのである、前年に石高に二回取材を受けたときには、安はそんなことは言っていなかったにもかかわらず、である。この高世の安インタビューは二月八日にテレビ朝日(『ザ・スクープ』)で放映されたが、高世は安を匿名で登場させた。結果的に、北から逃れてきた新しい亡命者が平壌で横田めぐみを見たと証言したことになった。これは横田めぐみの拉致を決定的に確認する情報として受け取られた」(25頁)

 たしかに私は、安明進氏を匿名の「元北朝鮮工作員A」として、顔にモザイクをかけて番組に登場させている。しかし和田氏は、これを単なる取材上の配慮とは受け取らない。安明進氏が顔も名前も出せる人物であるにもかかわらず、私が「巧妙にも」匿名にしたことで、彼を実在の安明進氏ではない、別の「新しい亡命者」であるかのように装い、視聴者を意図的に欺いた――和田氏はそう主張するのである。

 和田氏の主張の組み立てを整理すれば以下のようになる。

 第一に、安明進氏は、過去に石高氏のインタビューを受けた際には横田めぐみさんを見たとは語っていなかった。

 第二に、私・高世は、その事実を知り、安明進氏の証言では信用されないと判断した。

 第三に、そこで安氏を匿名にすることで、別人の亡命者であるかのように仕立て上げ、視聴者を誘導した。

 つまり和田氏は、私が事実と異なる演出を施し、意図的に視聴者を欺く番組を制作したと断定しているのである。

 もしも、和田氏の言うことが事実であったならば、明白な捏造報道であり、悪質な放送法違反事件である。番組は即座にBPO(放送倫理・番組向上機構)の審議対象どころか、番組自体が打ち切りになった可能性さえある。日本電波ニュース社はテレビ局出入り禁止、テレビ朝日からの損害賠償請求すらありえた。あの証言の社会的影響力を考えれば、放送界を揺るがす大不祥事となったことだろう。もちろん私自身のキャリアは断絶し、二度とこの業界で仕事ができなくなっていたはずだ。

 これは私個人に対する中傷にとどまらない。所属会社、番組、放送局すべてに向けられた、きわめて乱暴かつ無責任な告発であり、明白な名誉毀損である。

 そして何より強調しておかなければならない。

 和田春樹氏のこの主張は、事実無根である。

 それでは、なぜ和田氏は、これほどまでに根拠を欠いた暴言を、公然と、しかも執拗に繰り返したのか――。問題は、まさにそこにある。

(つづく)




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