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侵略国ロシアで進む社会の「原始化」

 ウクライナではロシア軍による大規模攻撃で、今年最悪の人的被害が出ている。

 7月30日深夜から31日未明にかけてドローン309機、巡航ミサイル8発の攻撃を受け、31人が死亡、159人が負傷した。トランプがプーチンを脅す一方で、ロシアからの攻撃はさらに大規模化している。

TBSニュースより

ロシアの空襲がトランプの「停戦努力」以降むしろ増えている(国際報道より)

 「ウクライナのゼレンスキー大統領は7月31日、最高会議(国会)が可決した反汚職の2機関の独立性を回復させる法律に署名した。独立性を制限する法律が成立してからわずか9日。支援国からの批判に加え、国民の不満が顕在化して軌道修正を迫られ、政権運営の痛手となった」(朝日新聞)。

連日各地で起きたデモ(NHK

 「政権運営の痛手となった」かもしれないが、戦時体制下でデモが禁止されているにもかかわらず立ち上がった市民、その要求に沿って法案を改めた議会、そして民意に屈した形で受け入れた政府・大統領、ここに健全な民主主義を見る。

2日の朝日紙面(11面)

2日朝日新聞


 朝日新聞には、ウクライナとロシアの汚職ランキングのグラフがあって、両国の差が一目瞭然。同じくらい酷かったのが、ロシアがさらに汚職がひどくなっている一方で、戦時中にもかかわらず、ウクライナが改善している。

 それでもウクライナ市民は満足しないで、まだまだ汚職は酷すぎる(たしかに105位は酷い)、もっとやれと政府に厳しく迫っている。ウクライナは独立してわずか35年。それなのに日本より民主主義の成熟度が高いように感じられる。

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 ロシアでは、2018年ごろから21年にかけての急激な言論弾圧をへて、22年以降の「戦時下」政策がいま、さらなる深刻な被害を社会にもたらそうとしている。

 『世界』8月号の奈倉有里「原始化される社会」を読み、侵略戦争が社会の大規模統制を招くプロセスに身震いする思いがした。

 この論考が紹介するのは、ウクライナ侵攻が始まった22年春からドイツに住むロシア人政治学者エカテリーナ・シュリマン氏の考察だ。

 シュリマン氏は今のロシアが行きついた段階をこう指摘する。

 「非友好国との協力や国家反逆罪などの名目で「国民にあらず」とみなされるよう人物や団体の増加と、その認定プロセスや裁判プロセスの簡略化による法の歯止め外し、若者の数を予備兵力や産む機械としかみなさない徴兵制度や教育制度の改変、罰金制度による国家予算の補填、出征者数・死亡者数の統計を含む重要データの完全な不透明化」

 具体的にはまず、「外国エージェント(代理人)に関する法規」(これは反政府的言動を外国の内通者とみなして罰する法規)の逮捕、裁判などの司法手続きが簡略化され、非公開裁判による国家反逆罪事件が急増し、言論弾圧が進んでいる。

 「国家反逆罪」はかつては国家機密に触れる特殊な国家職員のみが対象と見られていたが、いまは一般市民に頻繁に適用され、23年から24年にかけて4倍に急増したという。単なる個人の発言だけで「テロ行為の扇動」とみなされて逮捕される。厳罰化より手続きの簡略化が進み、有罪判決を受けた大量の市民からの罰金が国庫を潤しているという。8割以上の刑事事件が、省略または簡略化され、司法システムが「流れ作業化」している。市民は完全に口を閉ざされた状態だが、今後のさらなる大規模弾圧の可能性をシュリマン氏は指摘する。

 次に、徴兵である。時期や場所を問わず行われるようになり、年齢制限引き下げやロシア国籍を持たない者への強引な勧誘などにより、契約兵を増やそうとしている。さらに、教育を圧縮し、高校進学しないように誘導する教育制度改革も行われている。4月上院を通過した「専門職業教育を受ける機会を拡大する」法案がそれで、高校に進学せず徴兵猶予を受けられない若者を増やし、女子を早期の結婚・出産へと導く施策とみられている。これをシュリマン氏は社会を意図的に「原始化」する政策と呼ぶ。

 さらにシュリマン氏は、ロシアで起きている深刻な統計データの不透明化に警鐘を鳴らす。5月下旬、ロシア連邦国家統計局は出生率と死亡率に関する人口動態統計を地域別も連邦全体もすべて非公開にした。実はすでに22年3月以降、死亡統計の年齢、地域別データが非公開になり、24年には死因別のデータが消え、内訳なしの集計値のみになっていたのだが、それすら非公開になってしまったのだ。

 きっかけは、25年4月の死亡率が前年比15%も増加したことだと指摘されている。これまでのウクライナ侵略での戦死者をまとめて記載したためだったようだが、戦争の被害を知らせたくないのだろう。

 ロシアでは公的情報の大幅な非公開が急激に進行しており、人口統計だけでなく、電力消費量、輸出入統計、公務員の財産報告など、900項目の情報データベースが削除されたという。かつて、「グラスノスチ」で情報公開が進んだ時期があったのがウソのようである。

 奈倉有里氏は、侵略戦争が行われるとき、「内政の動きには一定の傾向や法則性がある。これらを知ることで、私たちが見逃してはならないさまざまな兆候がみえてくる」と言う。私たちは戦争というと、戦場での戦闘や外交上の駆け引き、首脳同士のやりとりばかりに目が行きがちだが、それぞれの国の市民に何が起き、社会がどう変容しているのかを見ることは重要である。

 社会を「見ざる聞かざる言わざる」化しつつ「原始化」するロシアの姿は他人事ではない。奈倉氏はさらにこう指摘する。

 「民主主義が世界的に困難な状況に直面したいま、社会に表立って現れている変化と、その水面下で準備される法が予期させるより大きな変動とを」早い段階から把握することが重要だと。

 そしてこういう作業を続けるシュリマン氏のようなロシア人知識人とそれを真摯に受け止める人々の存在は希望であるともいう。

 シュリマン氏の分析は、ロシアによる侵略戦争の今後を見る上で重要であるだけでなく、他山の石としてわが国の行く末を考えるために参考になる。

 




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