ウクライナ軍は今月2日、東部ドネツク州の防衛拠点のひとつ、ウフレダルから部隊の撤退を許可したと発表した。「敵は長引く戦闘で大きな犠牲を出しつつも、ウフレダル攻略の試みを放棄しなかった。援軍を送り込んで攻撃し、包囲される恐れがあった」としている。
ウフレダルはドネツク州の南西に位置する高台にある物流の拠点で、ロシア軍は2022年以降、犠牲を出しながら何度も大規模な攻撃を仕掛けていた。(wikipediaに「ヴフレダールの戦い」という項目があるほどの有名な激戦地)
ロシア軍は、ドネツク州全域の掌握を目指し、要衝ポクロウシクなどに向けて、さらに攻勢を強めるとみられる。私が去年訪れたドネツク州の地域も危険にさらされそうで心配だ。
ウクライナ側はロシア・クルスク州で越境攻撃を行い、その目的の一つがドネツク州でのロシア軍の進軍を遅らせることだとみられていたが、ロシア軍の進撃は続いている。
一方、英国防省は7日、ウクライナ侵攻を続けるロシア軍兵士の1日当たりの死傷者数平均について、9月は1271人だったと発表した。2022年2月の侵攻開始以降、最多だとしている。ロシア軍の死傷者の合計は64万8000人を超えたと推計した。
膨大な犠牲者を出しながら進撃をやめないロシア。ウクライナはロシアが損失に耐えかねて戦争を停止することを狙って抵抗を続けている。ゼレンスキー大統領も「敵を疲弊させることが最も重要だ」というのだが、少なくとも今のところは、ロシアは兵士の増員や武器生産の強化によって前線で生じた損失を補うことができているようだ。New York Timesは5日「ロシア軍を消耗させる戦略が成功するかどうかわからない」と報じた。ウクライナにとって「状況はきわめて厳しい」(ゼレンスキー大統領)。

この厳しい状況のなか、きのう8日、私が主催して、ウクライナと日本を結ぶZOOM交流会を行った。(事前にこのブログでお知らせせずにすみませんでした)
去年のウクライナ取材で取材対象者だった青年ボランティアのマックス君(21歳)に、日本からライブでいろんな質問をぶつけて濃密に交流できた。
本ブログで何度か登場したマックスだが、あらためて紹介すると、ロシアの全面侵攻で大学をいったん休学し、個人でボランティア団体を立ち上げて砲弾の飛び交う前線近くに住む住民や前線で戦う兵士に食糧や日用品を届けている。自分達の活動をTikTokやインスタグラムで発信し、それを見た人からのカンパで活動資金をまかなっている。

きのうの交流会では、はじめに動画や写真を見せながら活動を紹介。支援活動の動画にはドーン、ドーンと砲撃や爆弾の破裂音がひびく。また、今後、自分が兵士として戦うことに備えて、ドローンの操縦訓練に行ったさいの動画も披露してくれた。
2月にロシア軍に明け渡した要衝アウディーイウカに続き、今月1日にウクライナ軍は
ウフレダールから撤退しているが、これらの激戦地でマックスが活動していた映像も流れた。アウディーイウカには十数回支援に赴き、「敵との距離が300mの地点まで行ったこともある」という。彼のように最前線まで独自に支援に行くボランティアはウクライナに「50人くらいかな」という。



なぜ、そんなに危険なことを続けているのですか? あなたのモチベーションは? との質問には—
「私はこの国、この国の人々を愛している。『誰かがやってくれるだろう』というのは好きじゃない。私がやらなければ誰も彼らを助けないだろうと思ってやっている」
Q:戦争が2年半以上続いて大変だと思いますが、ウクライナの人々はどんなふうに受け止めていますか?
「正直に言って人々は疲れている。ロシアへの抵抗戦が始まったときは、たくさんの人が兵士に志願したが、いまは誰も戦場に行きたがらない。いま兵士が不足して必要なのに、男性たちは逃げようとしている。
大きな問題は汚職だ。兵士の給料は良いが、武器や装備や服、食糧を自前で買ってなくなってしまう。途中で役人などがネコババするから必要な物資が兵士に供給されていない。外国からの支援品も売りに出される始末。前線は悲惨な状況だ。
政府が助けてくれていないので孤立感を感じている。モチベーションが失われている」
Q:ウクライナ国民は連帯できているのですか?
「連帯の意識がなければ、とっくにロシアに占領されていただろう。
ロシアの全面侵攻前はウクライナはバラバラだった。悪いこと(Bad thing、ロシアの侵略)がウクライナを一つの大きな家族(One big family)にした。戦わなければ家族も私もやられてしまう。国民を団結させているのは愛国心といってもいいし、家族や同胞、土地を守るという意識かもしれない。
ただ、その連帯感も(戦争の長期化で)次第にあやしくなってきている。ただ、私の住む町(ドニプロ市)に敵が近づいてきたら、自分も兵士になって戦うだろう」
マックスは政府を厳しく批判しながらも、愛する祖国と同胞のために戦いを続けるという。私はここに「愛国心」の本来のあり方を見る。マックスの思想と言葉は、「愛国心」を権力を支持することと同義ととらえ、この言葉自体を忌避する日本人に考える材料を提供していると思う。
Q:パレスチナに世界の関心が集中してウクライナへの支援が減っていることをどう思っていますか。
「ガザの人々もウクライナと同じように苦しんでいる。彼らに支援が必要なのは当然だ。しかも、その悲惨の程度はウクライナより大きい。関心がガザに向かうのは理解できる」
交流会のあとに、ある参加者から「酷なことを聞くなあと思ったけど、頭が下がる答えでした。なかなか言えることではありません」との感想をいただいた。
Q:あなたの行動を支えているのはどんな信条ですか?
「ウクライナの多くは正教を信じているが、私は特定の神や宗教は持たない。ただ、何か至高の存在(Something Upper、大いなるもの)があるだろうと思っている。それが何か、何者かは分からない。でも、そのおかげがなければ、今頃はとっくにここにはいないだろう」
Q:戦争が終われば、ウクライナがどうなってほしいですか?
「戦争が終われば、ロシアからの自由を達成するが、次は汚職からの自由を求めなくてはいけない。そういう国づくりをしないと、ヨーロッパ(EU)になれない。
これは大統領のせいでも個々の政治家のせいでもなく、全体のシステムの問題だ。国家システムそのものを変えないといけない」
私から補足すると、ウクライナの汚職体質はソ連時代から引き継がれた根深い問題で、マックスがシステムそのものを変革すべきだと言うのは正論だと思う。汚職の蔓延はウクライナがEUに加盟できない一つの大きな理由になっている。
ロシアの全面侵攻前の2021年の「腐敗認識指数世界ランキング」によると、180カ国中、ウクライナは122位、ロシアは136位といい勝負。ただ、ウクライナの改善は著しく、22年版のウクライナの順位は116位、そして23年版は104位とぐんぐん順位を上げている。ちなみに23年のロシアの順位は141位と低迷し、差が開いている。戦時中に汚職撲滅が進んでいることは国際的にも高く評価されている。
マックスは、高校時代、心理学者(サイコロジスト)になりたかったが、ウクライナではお金が稼げないと親に言われ、大学ではプログラミングを学び、プログラミングで生活費を得ているという。いまはオンラインのリモートで学び、大学はあと1年で卒業だそうだ。
いま、戦争が長引いて経済が疲弊していることと中東に世界的な関心が移ったこともあって、マックス自身もカンパが減って活動資金が枯渇しているという。
今回、ZOOM交流会を開いたのも、日本人にウクライナ戦争をもっと理解してほしいという目的とともに、マックスへの精神的、経済的支援を訴えるためでもあった。
もし、カンパのお気持ちがあれば、私に連絡していただければ、送金方法などをお知らせします。よろしくお願いします。
なお、マックスの活動の詳細については以下を参照してください。