今回は『今さらきけない内部統制とERM』(神林比洋雄著 同文舘出版)の読後感である。
なぜ、内部統制は現場から浮き、管理部門だけの「作業報告」に終始してしまうのか。
伝統的日本企業とその系譜に連なる企業にありがちな「減点主義」と「歪んだ善意」に原因があるのかもしれない。自分の勤務先を例にすると、この20年の間に資本が変わり、企業文化も徐々に変化しているが、それでもルーツの企業(伝統的日本企業)の風土は根強く残っている。
また自分の勤務先のように自身は「大会社」ではないが、上場親会社の内部統制対象範囲に含まれ、かつ親会社から「大会社相当」の統制環境を整備するように要請される立場だと「やらされ感」がどうしても付き纏う。
1.根強い「リスクは悪」
伝統的日本企業では、往々にしてリスクは「管理してリターンを得る対象」ではなく、「顕在化したら誰かが責任を問われる爆弾」と扱われがちである。実際会議などでリスクヘッジという言葉が飛び交うことはあっても、リスクテイクという言葉はあまりきかない。
おおむね次のような思考や行動が根底にあると思う。
- 第1線(現場): リスクを報告すれば「管理能力不足」と見なされる。だから隠すか、無難な報告に終始する。
- 第2線(管理): 「不備ゼロ」を目標に掲げ、現場の機動力を削ぐほどの過剰なルールで「守りの壁」を築く。
ERM(全社的リスクマネジメント)の本来の目的である「攻めのガバナンス」などとは程遠い姿である
2.第2線の「支援」という名の共依存?
ここで考えるのは第1線(ビジネス現場)と第2線(管理部門)。第2線に所属する従業員は本質的に「真面目な善人」が多い(特に若い世代に感じる)。また間接部門は「現場(直接部門)を助ける」という大義名分に囚われがちということである。
- リスクオーナーシップの不在: 「まったく現場は」などと舌打ちぐらいはするかもしれないが第2線が手厚くカバーしすぎることがある。そのことが第1線(営業など)が「自分のリスクは自分で管理する」という当事者意識を持たないことに繋がる。「日頃は鬱陶しいといいつつ、最後は管理部門に甘える現場」「だらしないが放っておけないので現場の世話を焼く管理部門」という共依存のような関係になる。
- 「形式」への逃避: 一方で法的裏付けや統計的思考といった専門知識が不足していると、第2線は「前年比」や「増減分析」といった、一見それらしいが経営判断にそれほど意味がない指標でお茶を濁すことが多くなる。要するに「仕事をやっている風」「統制活動をやっている風」である。
- 「現場支援」の本当の姿:舌打ちをしながら処理をすることや一旦決めたルールに対する第1線からの依頼や苦情を容れて例外規定を設けることが本当に現場の支援になっているのか。そして自分たちの業務工数を増やしていないか。
第2線の担当者が「独立性」の確保に貪欲でないということもある。自らの職務定義が弱いのかもしれないし、ただ現場や経営陣に疎まれることを恐れているのかもしれない。自分の職位は経営陣に直接報告をあげる立場にないと及び腰になっている中間層もいるだろう。そういった心情はわからなくもないが、それでは客観的な「番人」ではなく結果的に現場の「共犯者」になってしまわないか。
例えば次の要因が弱いと第2線は期待される「牽制」機能を果たせないと思う。
- リーガルマインド: 情理ではなく「法の趣旨」で現場を撥ね退ける背骨。
- 統計的思考: 重箱の隅をつつくのをやめ、リスクを計量化する力。
- ITリテラシー: マニュアルではなく、システムで物理的に統制をかける発想。
- 経営への翻訳力: 現場の違和感を、経営が動ける「数字」に変える力。
3.第3線のスタンスを変える
ここまでがここ1年ほど第2線に対する業務監査を中心に進めてきた実感である。実際に内部監査報告書に「牽制機能の脆弱性」に言及した事例もある。
ただ今年度を迎えるにあたり考えることがある。こちらが「牽制機能を果たしていない」という意見を書くだけでは、彼らはまた余計なルールを作り出してしまうかもしれない。評価というよりは「現状に対する提言」を行うというスタイルをとった方がよい時期なのかもしれない。
内部統制は組織体の目標を最速で安全に確実に達成するためのアクセル、ブレーキ、ステアリングの役割であるはずなのだが、第1線も第2線も「統制」という言葉に縛られ、アレルギー反応を起こしているようにも思える。そうであれば、第3線も監査報告書で安易に「統制」や「牽制」という言葉を乱発することを控え、別の表現を考える必要がある。第3線の関わり方を変えないと「形骸化」に手を貸し続けることになる。この点は常に自覚的でいなければならないだろう。
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