実に夏以来の更新、このエントリーは法務系Advent Calendar2024(#legalAC) の参加エントリーです。
晩秋、法務課長から報告を受ける。若手法務担当者が転職、郷里に戻るという内容であった。既に郷里での転職先が決定した以上引き留めのしようがないという。現在の業務に不満はないが地元企業で働きたいということらしい。郷里といっても四大都市のひとつであり、転職先はその都市に本店を置く企業の法務部門。転職先の業態は今と同じ製造業であり売上規模も自社と同規模。大きく違うのは上場企業であることだ。
法務や会計部門の担当者がどれだけ経験を積み努力研鑽を重ねたとしても、勤務する企業の状況によってどうやっても辿り着けない地点というものがある。独立会社か従属会社か、上場か未上場、非上場か、業歴が長いかスタートアップか等々。こればかりは個人でどうすることもできない。仕事の幅や経験値を上げようとするなら、いる場所を変えるしかない。
いろいろな経緯があり、自社は現在強力なリーダーシップをとる上場親会社の完全子会社である。子会社の機関設計は「大会社以外監査役設置会社」にほぼ統一され、株主総会は開催省略、取締役会付議事項を含め細かく規定された規約や決裁基準の順守が求められる。自由度は限られている。もっとも企業買収を繰り返し業容拡大してきた親会社側からすれば、買収した個社の事情をいちいち汲んでいたら企業統治どころの話ではない。自分が逆の立場の経営管理や法務部門であっても同様のことを考えたと思う。
一見自由度がないように見えるが、独立企業の管理部門(総務、会計、法務)と比較すると「楽」とはいいきれないまでも、相当な範囲の業務を自社で担わなくても済むことはたしかだ。投資家対応は不要、金融機関との取引も親会社の連帯保証で済む、会計システムも自社で構築する必要はない。法務も親会社の顧問法律事務所を活用することができる。親会社の意向に左右される事柄があるにしても、独立企業の諸々と比べること自体あまり意味をなさない。
かつて上場準備事務局の仕事をしていた頃は独立独歩で生きていくことに対していかに自分たちが甘かったことを痛感したのだが、再び子会社となり時が過ぎてしまえば多少煩わしくとも指示に従うことが当然になり管理下に置かれることにも馴れてしまう。このような状況でおそるべきことは『使わない知識を忘れ使わない能力は衰える』ことであり、もうひとつは『知っておいたほうがよいことも素通りする』ということである。
だから自分が法務を離れた後も、法務メンバーには親会社からの指示命令がある都度その背景をきちんと自分なりに理解し整理しておくよう話をしていたのである。(自部門のメンバーに共有するのと同じように、だ)
さて、件の法務担当者とゆっくり話す機会はなかったが、たまに業務上の相談は受けていた。さすがに転職に関する相談はなかったが、仮にされていたとしても強くは引き留めなかったと思う。会社から去ってほしくはないのはやまやまだが、彼の企業法務のキャリアアップの可能性を潰すわけにもいかないからだ。
法務はポータビリティのある職務といっても、前述のように独立会社か従属会社かで業務の範囲や性格が異なるし、上場企業であればより業務分掌や権限がきちんと整備されていることだろう。もしかしたらこれまで担当していた業務より範囲が狭まるかもしれないが、一方担当する範囲についてより深いところまでの関与を要求されるかもしれない。当社での3年間の経験だけではカバーできないことが多いかもしれないが、年齢を考えれば(自分の丁度半分)未経験範囲が広いほど伸びしろがあるということでもある。
これからは親会社の傘の下ではない。細かな指示命令もない。その分これまでよりもっと市場や業界のことを知らなければならないし、社内の各部門とのコミュニケーションも増えると思う。もしかしたら厳しい企業統治を受けた経験を逆に活かすことができるかもしれない。一層の研鑽と健闘を祈るばかりである。
と、物分かりのいいことばかりいっているわけにはいかないのも事実。
若手実力者の流出をどう防ぐか、という重い課題も残された年末である。
明日はアーリーさん(@neofumi)です。