
AmazonでKindle電子書籍版を購入しました。
最近は紙の本を買うことがあまりないですね。
電子書籍って、ブックオフなどで中古本を買うということはできませんし、逆に読み終えて売るということもできないので、価格を考えるとコスパが特別良いわけではないのですが、便利なところもあります。
まずはかさばらないこと。
そして文字のサイズとかを大きめにするととても読みやすいです。
もう年配の男性と言われる歳になりましたので、細かい文字はきついのですね。
カラー写真やイラストなどがメインの図鑑やムックは向いていませんが、小説、文庫本というのは電子書籍が気に入っています。
さて、こちらの小説。
いつか読もうと思っていたのですが、購入して読み始めるとついつい時間を忘れたかのように読んでしまいました。
とても面白かったですね。
登場人物
横沢哲夫
主人公。暁星運輸の広域営業部課長。
寺島正明
横沢の上司。暁星運輸本社営業本部広域営業部部長。
武村慎一
ベンチャー企業「蚤の市」でネット上にショッピングモールを作るというアイデアで大企業に成長した新進気鋭の経営者。
荒木
横沢と同じ部署のグルメ記事が好きな女子社員。
軽部
横沢と同じ営業部のできの良い後輩。
石川
暁星運輸のIT部門のエキスパート。
横沢をリーダーとした荒木、軽部、石川のチームが新たなビジネスプロジェクトを立ち上げます。
あらすじ
暁星運輸は宅配を手掛ける大手運輸会社ですが、厳しい競争にさらされなかなか利益を挙げられるものではありません。
営業課長の横沢は家のローンも抱える中堅社員。
横沢が手掛けたIT企業蚤の市は、インターネットバブルもあり急成長。
当時最も良い条件で蚤の市をバックアップしていたという暁星運輸は蚤の市から、裏切りとも取れる値引き交渉をされることになり、決裂します。
蚤の市は極東テレビというテレビ局の株式を買収を検討。
蚤の市の武村は、メディアや財界からは様々な批判を受けることになります。
宅配という運送会社、ネットショッピングモールというIT企業、さらにはテレビ局という3つの業界をまたいでの激しいやり取りが繰り広げられることに。
横沢には蚤の市がベンチャー企業で軌道に乗るまでの間、最大限の優遇料金で支えてきたという自負があり、蚤の市に対する裏切りが許せないという気持ちがあります。
また上司である寺島も薄利多売の宅配業界で値引き合戦にはどうしても応じることができません。
横沢は妻の実家に帰省したときに義父からもらった野菜の品質に驚き、それをヒントにインターネットでショッピングモールを立ち上げることを考案します。
それは蚤の市の主戦場ですが、そこには配送業者として圧倒的な強さを存分に活かした戦略でした。
なんとショッピングモールに出店するための費用が無料というものです。
出店料がない代わりに配送料で儲けが出せるというものでした。
横沢を中心にブレインストーミングが繰り広げられ、ポイントは新たなインターネットショッピングモールに有名な権威付けをすることとなりました。
狙いは買収攻勢を受けている極東テレビ。
寺島の大学の同期に極東テレビの経営室長がおり、話はトントン拍子に進んでいきます。
蚤の市は経済界の重鎮から今回の買収に付いての引き止めがありましたが、武村はそれを拒否します。
さらにはメインバンクの頭取などから今回の買収をやめなければ、メインバンクとして貸出をやめるとまで言われてしまいます。
武村にとっては旧態依然としたこれらの経営者を見下しながらも、想定内でした。
彼は海外留学時代にあった人脈より海外の投資家経資金援助を持ちかけるのです。
交渉は成功し、リスクはあるものの資金的な問題はなくなり、極東テレビの買収へ本格的に動き始めます。
感想
この作品が刊行されたのが2009年と少し前の作品なのですが、今の時代を予見していたかのような内容です。
もちろんその通りになっているわけではないですが、インターネットで多くの人たちが買い物をし、そのインターネットを支えるのがスマートフォンになるということなども想定済みと考えると、著者の慧眼には驚きます。
現実にはこの小説のようなものではないと思いますが、登場する企業とか、「あ、これってあの会社のことだな」とわかります。
つまり、この小説に登場する人、会社にはモデルがありますね。
暁星運輸はヤマト運輸のことですよね。
そして蚤の市は完全に楽天のことでしょう。となるとその社長である武村は三木谷氏ということになります。
そして蚤の市が買収しようとした極東テレビこそが日本テレビのことですね。
実際に買収しようとしていたのはライブドアのホリエモンでしたが、IT企業には違いないです。
そしてコンビニのピットインはローソンのことですよね。
ITバブルで株価の上昇で時価総額は相当なものに膨れ上がり、そのお金を下にいろいろなものに手を出していったのがIT長者たちです。
その先駆けはソフトバンクの孫正義さんでもあり、楽天の三木谷さんやサイバーエージェントの藤田晋さんたちでしょう。
しかし、この小説が書いているようにIT企業には資産はありません。
銀行というところが融資をする場合、最も大切な担保というものがありません。
時価総額が高いから自社株を担保にはするものの、当然株価が下がれば貸し出したお金を引き剥がしにかかるというのが銀行です。
「晴れの日には傘を出して、雨になると取り上げる」とは銀行に対する嫌味ですが、まさにその通りなのでしょう。
IT長者になるには卓越したサービス、ビジネスプラン、アイデアが必要ですが、そういったものは「儲かる」となればあっという間に似たようなサービスが他社から提供されるようになります。
従来の大企業のように工場の建設のために大きな土地を買い、工場を建設したり、自社ビルを建設したりということがありません。
そもそもスピード感が全然違います。
バブルですから、膨れて大きくなった資金がいつまでも大金で居続ける保証もなく、対抗企業が現れるまでに次の手をどんどん売っていく必要があるわけです。
そして優れたアイデアにはその資金を使って買収するというわけです。
次に儲かるネタをもっている企業やベンチャーに投資するという戦略が大切で、その才能がない人はIT企業のトップを勤めるのは難しいのでしょう。
これと言った資産を持たないIT起業のトップには、ビジネスを創る能力そのもの以上に、勝ち馬に乗る技術、目利きが必要です。
いくつか気になったフレーズがありましたのでメモ代わりに。
ビジネスは健全な社会があって初めて成立するものだ。真っ当に働いている人間たちの生活基盤まで奪うようなものであってはならない。規模が大きくなればなったで、そこに連なる企業には正当な利益をもたらす義務が生じるものだ。
株式の公開で莫大な資金を手にして買収を繰り返すことが資本主義の原理そのものとりかいしつつも、札束攻勢で企業買収に動くIT企業蚤の市に対して横沢の感じたこと。
起業は社会の公器であることを考えるとそうあって欲しいですが、実際には札束で横面を叩くようなことが普通に行われているというのが現実でしょう。
そんなことしか思いつかない人間は、一生かかっても大金を手にすることはできないな。金は女と同じだ。追い求めれば逃げる。能力のある人間が力をフルに発揮すれば黙っていてもついてくるものさ。
テレビ局買収について、割安株を購入して、高値で買い取らせるということしか思いつかないマスコミや旧態な経済界の人たちに対して、蚤の市の武村の言葉。
新鋭の企業家の言葉で、このあとも鋭い内容が多いです。
もちろん頷けるところは多いのですが。
スポンサーからは高額な料金を取る一方で、実際に番組制作に当たる制作会社や外部スタッフには法外に低い報酬で馬車馬のように働かせる。だが、社員の給与だけはしっかり行き渡るようあらかじめ確保されている。こんな馬鹿げた経営がまかり通るのも、許認可制の下、独占的に放送業務を行うことを許されているテレビ局ならではのことだ。
これも蚤の市武村の言葉ですが、ここは激しく同意するところです。
例えば電波利権という点で見ると各テレビ放送局は既得権益集団の最たるところです。
もちろん共有資源である電波を使用するために電波利用料というものが払われていますが、これらの納付はほとんど携帯電話会社が負担(つまり私たちユーザーが負担)しており、圧倒的に利用しているのにほとんど払っていないに等しいのが放送局です。
やはりこのあたりも政治、官僚との癒着、黒い闇を感じます。
フィクションですが、様々な示唆に富んだ内容で、今読んでも十分エンターテイメントとして楽しめました。