
Kindle Unlimitedにて読みました。
前回読んだ久坂部羊さんの本は「オカシナ記念病院」という小説。
これは南沖平島という南の島にある病院を舞台にした医療小説で、どこかのどかで「Dr.コトー診療所」のイメージなくはないです。
しかしその内容はときに鋭く、ときに読者に問いかけてくるような小説でした。
終末医療、延命治療、安楽死。
人は死を楽に迎えることは許されないのか?
死とは?
さまざまなことを問いかけてくるような小説でした。
今回の「黒医」は同じような医療小説ですが、長編ではなく短編小説が7本詰まっています。
短編と言っても数分で読めるようなものではなく、読み応えのあるボリューム感があります。
人間の屑
無脳児はバラ色の夢を見るか?
占領
不義の子
命の重さ
のぞき穴
老人の愉しみ
となっています。
どの作品もダークというか、ブラックジョークを超えた内容で、受け入れられない人もいるかも知れません。
人間の屑
長い長い前置きが映画のDVDだったという話で、それを見ていた夫婦の会話が始まります。
映画の内容もなかなか過激ですが、この夫婦の会話もなかなかキツイ。
しかし最後になって、「このDVDいつ返す?」というところからはホラーまがいのストーリーになります。
まるでススキノ殺人事件みたいな展開です。
人間をバラバラにして処理する。
まさに「人間の屑」という笑えないブラックジョーク。
という夢を見たという話。
無脳児はバラ色の夢を見るか?
このタイトルというか言葉の並びから何処かで聞いたことがあると思っていたら、コーエーテクモがまだ光栄だった時代に作っていた「オランダ妻は電気ウナギの夢を見るか」を思い出しました。
このゲームはやったことはないけれど、名前だけはとても有名です。
あ、このゲームのタイトルもパロディで、元ネタはフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」です。
そしてこのタイトルではピンとこなくても「ブレードランナー」の原作といえばわかるでしょう。
余談が長くなりましたが、この作品は胎児がロート症の可能性があるという告知を受け、子どもを生むのか堕胎するのかという決断を迫られるという内容です。
そしてそこから続くブラックな会話や展開ですが、無脳児でも堕胎は殺人という暗示をかけて出産させようとする医師。
迷う主人公とその夫。
そして精神不安となり、胎児は死んでしまいます。
ところがその胎児は無脳症ではなく正常児だったというオチでした。
これも後味が悪いですね。
占領
高齢者と若者。
この2つの世代の対立を現役世代優遇法と高齢者優遇法という2つの法律から見たブラックジョーク。
若者が選挙にいかないから高齢者が有利な政治になってしまう。
そしてもはや若い現役世代が高齢者の数を上回ることができない。
小説だけど、笑えない内容でしたね。
不義の子
これは双子の兄弟の話。
右幸と左幸は一卵性双生児で本来は同じ素養を持っているはずだが、運命のいたずらで彼らの人生の歩みは大きく異なる。
一卵性双生児だが仲が悪く、嫉妬深い。
右幸はエリート医師で美人の妻を迎え、将来も有望。
左幸は前衛演劇にのめり込み、高校中退し、挙げ句は女優の卵を妊娠させ、中絶費用を家から持ち出したため勘当される。
そんな左幸にようやく光が当たることになった。
演劇界にて受賞されることになり、右幸は妻を伴ってお祝いに行く。
その後、長い間夫婦間二子どもがいなかった右幸だが、妻が妊娠。
しかし、右幸は自分の子供なのかどうかを疑う。
DNA判定を考えるが、不倫の相手が憎い双子の弟だった場合、一卵性双生児だけに識別は不可能。
しかし不義の子の父親は別の人間だったという話。
女性は恐ろしい~というか、より優秀な遺伝子を求めるようになっているのか?
命の重さ
骨髄バンクのドナー登録を巡る話です。
上司に命じられるままドナー登録をさせられ、そしてドナーとして骨髄の提供を求められると骨髄採取時に死亡例があるなどの理由で妻は猛反対。
職場と妻とのせめぎあいの中、崇高な気持ちでドナーの提供をした主人公だが、その後、提供者の情報ももらえず、もちろん感謝の言葉もなく、そして医療機関も事務的な挨拶のみ。
更にはドナー提供者へと駆り立てた上司は、暖かく迎えてくれることもない。
家では、家族のことを顧みない身勝手な夫として責められる状況。
そういう現実に虚しさを覚えると同時に、命の重みなんてものも大したことがないと悟る。
のぞき穴
ある少年が海の家にあるトイレの小さな穴で女性の秘部を覗いたことから始まる物語。
女性の秘部に異常なほどのこだわりと興味を持つ少年はやがて産婦人科医となる話。
もう最初から変態的な内容。
老人の愉しみ
バーに行って人間観察し、心のなかで思う存分悪態をついているというのがこの物語の主人公の楽しみ。
しかし現実にはなかなか深い悩みがあるわけです。
医者として成功し、一定の財をなした主人公ですが、息子は開業医となったものの経営がうまくいかず、娘は嫁いだもののわがままで金の無心ばかりという状況なのでした。
どの作品も読み応えのある長さですが、ジョークがジョークに聞こえないほど内容が濃かったですね。
笑えないです。
そして後味の悪さが残る物が多いです。
こういう小説を楽しめる人と楽しめない人がいると思いますが、個人的には読み応えは感じたものの、楽しめなかったですね。
「オカシナ記念病院」が面白かっただけに、ちょっと残念です。
クレイジーと作家仲間から呼ばれている村田沙耶香さんの作品にちょっと似てなくもないですが、私には刺激が強すぎて面白さの臨界点を超えてしまっている気がしましたね。