TL;DR
「例のランキング」と言われるようになってしまったエンジニアが選ぶ"開発者体験が良い"イメージのある企業ランキングですが、これをどう解釈すればいいか、企業側、採用側としてどう考えればいいかについて、自分なりの意見があるけどXの話とかであまり見ないので書いてみようと思った。
- 開発者体験とは、本質として「開発者個人の期待と現実のギャップ」である
- しかし開発者個人の期待というものは人によって千差万別だから、 "開発者体験が良い" は人によって求めるものが違いすぎているし、外部の人が評価できるものでもない
- ただし 「"開発者体験が良さそう"というイメージ」については、期待と現実のギャップをコントロールできているように外部に見えている、という指標として有用かもしれない
Disclosure
- 筆者はさくらインターネット株式会社で勤務しており、かつ、採用関連の活動にはこの1年弱のあいだ、それなり以上に関係しています。とはいえ何かを代表するような立場にいるわけではありません。
- さくらインターネットは前述企業ランキングにおいて、2024年まではランキング外でしたが、2025年に7位にランクインしました。
- 筆者本人はランキング作成の主体である日本CTO協会には関係していません。日本CTO協会の中の人に知り合いは多くいますが、誰がこのランキングの企画に関係しているかなどは全く知りません。
開発者体験とは何か
開発者体験とは何か、について、該当ランキングでも何をどのように計測しているかは割と詳細に記載がある*1。いっぽうで、そうはいっても開発者(ソフトウェアエンジニア)の人達にはそれぞれかなり強いイメージのある言葉でもある。
多くの人の最大公約数をとれば、おそらく「整って綺麗でモダンな設計のコードの上に、自分のロジックをストレスなく書けて、デプロイに苦労がない」みたいな内容になると思う。しかしこれを万人が求めているかというとそんなことはなくて、以下それぞれみたいな意見をもっている人だっていっぱいいるはずだという確信がある。
- 自分はデプロイに苦労はないとはいっても他人が人力でデプロイしてる、みたいなのは絶対にイヤだ、自動化されてなきゃ絶対にイヤだ
- デプロイは自動化されているがこの仕組みが気に入らない、自分が気に入る手法に直せないようでは体験が悪い
- そもそも開発プロセスの自動化とかは改善していけるなら大したことではない、きちんとしたビジネス課題とマトモな売上と優秀な同僚こそが開発者体験にとって最重要だ
どれが良い悪いという話ではなくて、人はいろいろな意見を持っていますね、という話でしかない。千差万別。このあたりの開発者個人の期待と現実との間でのギャップが大きければ、かつ改善もできないようであれば開発者体験が悪いとなるし、ギャップが小さいなら開発者体験が良いとなるんじゃないの、と自分は思っている。
この話自体はもちろん多くの人がわかっている。この話をベースにすると「開発者体験が良いかどうか」は本人に聞かなきゃわからないのは明らかで、だから「例のランキング」が対象企業の従業員ではなく、外部の人にアンケートした結果を用いて作成されていることに拒否感をもつ人が多いんだろうなと思う。
「"開発者体験が良さそう"というイメージ」とは何か
ところで「"良さそう"というイメージ」は何かというと、これは*2外から見えたイメージがどうなっているか、外部に向けたアピールがどう行われてどうした結果になっているか、というものでしかない。それに意味はないんですか?
外から中途入社してくる人がそれなり以上にいる状況で、もし入社した人の期待と現実との間にギャップが大きいと、もちろん間違いなく良くない結果を引き起こす。優秀な人はどうせ引く手あまたなんだから、入社後にちょっと違うなとなってしまったらすぐ他の会社に移ることだってできる。優秀な人を狙って採用すればするほどこのリスクは大きい。うひー怖い。世間の人だって、そんなことが続くようなら「あの会社には何かあるんだな」みたいな印象を持つだろう。
自分の意見としては、結局のところこれが「"開発者体験が良さそう"というイメージ」なんじゃないの? と思っている。あの会社に入社したら、その後も満足して働けそう、というふわっとしたイメージ。それを効率的に発信できているかどうか。そういうイメージをどの企業から受け取ったか。
ただし前に書いたとおり、開発者体験とは結局のところ個人の期待がどうだったかに大きく左右されるもので、かつ個人の期待は千差万別だ。どんな人を採用してもすべての人が「開発者体験が良かった」と評価する企業なんてものは存在しないと思っている。 だからこの「イメージ」を維持する・高めるために重要なものは、以下のものだと思う。このふたつがきちんとできているかどうかが「"開発者体験が良さそう"というイメージ」の形成に重要なんじゃないだろうか。
- 候補者に社内の実情を丁寧に伝え、それでも面白そうという「期待」を持ってもらうこと
- 入社した人がどのような「期待」を持っていたか、それと入社後の現実とのギャップがどうだったかをきちんと外部に発信すること
ところで上記の2点、普通に見て、採用プロセスにおいてものすごく重要なものだと思いませんか? もしこの2点をきちんとできているかを計測する指標がまがりなりにもあるなら、それを用いて現実の施策にフィードバックをかけるのは悪くないかもしれませんね?
この一年間のさくらインターネットのソフトウェアエンジニア採用
自分は2024年8月にさくらインターネットに入社した。入社エントリ自体はそれなりに読まれたが、反応としては正直「さくらインターネットって選択あるんだ?」みたいな、行き先としては分からなくもないが意外、という声がほとんどだったと思う。
入社して最初の数ヶ月いろいろ見た結果、まず思ったのが「さくらインターネットがソフトウェアエンジニアの転職先候補として全く見られていない」ということだった。クラウドの開発ではソフトウェアエンジニアを採用しなきゃ話が進まない、そのために社内制度や待遇の見直しもしている、しかしそれでも世間のソフトウェアエンジニアはさくらインターネットという企業があることを、転職のときに全く脳内にも置いていなさそうだった。他の何を置いても、これをどうにかしないと話にならない。
ということでやったことのひとつが、まず知り合いに直接話して誘うこと。いったん話を聞いてもらうことができたら、そこで実情をできるだけストレートに話すこと。色々な困難はある、すごくある*3、けれどもビジネスとして面白いし、また技術的にはユニークなことができること、などなど。これを面白いと思って入社してくれる人は思った以上にいた。そしておそらく、入社してからも期待と現実のギャップみたいなものは大きくなくて、(いや「負債とか聞いてたけど、思ってたよりだいぶだな????」はあるかもしれない)、それはつまり開発者体験はそう悪くないって状況をつくれているんじゃないかな、と思う*4。
やったことのもうひとつは、入社してくれた人のことをできるだけありのまま、かつできるだけスピーディに外部に向けて紹介すること。どういう人がどういう期待を持って入社してくれたかを多くの人に見てもらうこと。ソフトウェアエンジニアにとってさくらインターネットという選択肢が存在することを意識してもらうこと。おそらく多くの人が目にしているWelcome Talk 「ようこそ、さくらへ!」のインタビュー記事シリーズは自分がやるべきだと企画して、初期の進行から最初のインタビュアー、記事執筆まで自分でやったりした*5。
このあたりをやっていったところ、自分が入社したときにはまた意外なところに……みたいな反応だったのに、半年ちょっと経過した今年の春くらいには「またさくらか」「転職する人を見るとさくらだと思うように」みたいにまで言われるように。わお。やったぜ。
というのは自慢話じゃなくて*6、とにかく転職先として認知してもらわないといけなくて、そのためにやったことがうまく進行しているかは確認して実際の施策にフィードバックをかける必要がある。そのために使える指標ならなんでも使いたい、そういう現実の話です。
ところでまだまだ、足りないものはある
いま出している記事は採用へのフィードバックループをできるだけ早くかけたくて、入社後すぐにインタビュー収録、入社月のうちに記事公開、ということにしている。これは会社の認知をできるだけ早く高めるという目的にはとてもうまく働いたんだけど、じゃあ入社から数ヶ月、あるいは一年経過したときに、本当に入社前の期待と入社後の現実はうまくマッチしているんですか? ということをもっと発信していくべきだと思っている。自分が入社して11ヶ月だから、もうそろそろ真面目にこのへんをやっていくべきかもしれない。
また会社名あるいはサービス名の認知を高めること自体はうまくいっているが、じゃあ中の人たちは普段どのように仕事をしているんですが、何をどのように使って何を作っているんですか、という個々人の話がまだぜんぜん出ていっていないと思っている。ここは誰かが主導して記事化するよりも、それぞれの開発者がそれぞれにあちこちのミートアップやカンファレンスに出ていって話してくれるようになればいいんだけど、現状あまりうまくプッシュできていない。どうやっていこうかなあ。
まとめ
「"開発者体験が良さそう" というイメージ」のランキング、たぶん思ったほど馬鹿にしたもんじゃないですよ、ということを思ったので書いてみたくなったのでした。
ところでさくらインターネットではソフトウェアエンジニアをはじめ多数の職種で中途採用の募集中です!!!!









