はじめに
こんにちは、スリーシェイクのnwiizoです。2025年3月21日に開催されたFindyさん主催のイベントで登壇してきました。
イベント概要
このイベントは、SLI/SLOの導入と運用に焦点を当てたライトニングトーク形式のセッションでした。
サービス品質を高めるためのSLI/SLOですが、組織内での運用がうまくいってないケースや導入タイミングに悩まれている方も多いのが現状です。本イベントではSLI/SLOについて向き合っていらっしゃる4名の皆様に、導入までの取り組みや運用上の課題とその解決策を共有していただきます。参加者にとって今後システムの信頼性向上に取り組んでいくための知識やヒントを得られるイベントになることを目指します。
私を含めた4名のスピーカーによる多角的なアプローチで、SLI/SLOに関する実践的な知見が共有されました。とても良い会だったと思います。
私の発表内容
資料
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— nwiizo (@nwiizo) 2025年3月21日
本日、「信頼性向上の第一歩!~SLI/SLO策定までの取り組みと運用事例~」というイベントで「SLI/SLO・ラプソディあるいは組織への適用の旅」というタイトルで登壇します。こちら、資料になります。https://t.co/XtbFX2EOSH#信頼性向上_findy
発表の背景と位置づけ

このイベントの準備にあたり、他の登壇者の方々の過去の発表や知見を事前に確認し、全体として何が語られるのかを予想してみました。技術的な実装方法や指標設計については他の方々が深く掘り下げられると考え、あえて私は「個人や組織への適用」という補完的な視点に焦点を当てることにしました。
技術的な側面は重要ですが、実際にSLI/SLOが組織に定着するかどうかは、エンジニアリング以外の部分に大きく依存します。そこで今回は「技術をどう実装するか」ではなく「個人や組織をどう変革するか」という視点からSLI/SLOの旅を語ることにしました。
発表の核心:三つの壁
私の発表ではSLI/SLO導入における「三つの壁」に焦点を当てました

1. 既存の習慣や方法からの変更を伴う壁
「変化への抵抗」は克服すべき障害ではなく、理解し対話すべき自然な反応です。特に以下の4つの抵抗パターンを理解することが重要です。
- 惰性による抵抗:「今のやり方で問題ない」
- 労力による抵抗:「新しい方法を学ぶコストが高い」
- 感情による抵抗:「自分の立場が脅かされる」
- 心理的反発:変化に対する本能的な抵抗
これらの抵抗に対して「北風」(強制)ではなく「太陽」(共感と対話)のアプローチが効果的です。
2. 多くのステークホルダーとの協力が不可欠という壁
SLI/SLOは技術だけの問題ではなく、むしろ組織の問題です。表向きは「全員で信頼性を高めましょう」という掛け声のもとで始まりますが、裏では様々な力学が働いています。
部門間の隠れた対立構造:エンジニアリングは信頼性を重視し、プロダクトは新機能を優先し、経営層はコスト効率を求める。この三すくみの構造がSLI/SLO導入の最大の障壁になります。
「会議では言えない本音」の存在:公式の場では皆が納得したように見えても、実際には「またエンジニアの自己満足では?」「数値のために本質を見失っている」といった潜在的な不信感が残ります。
非公式なネットワークの重要性:公式のプロセスや説明会より、信頼関係のある個人間の非公式な対話の方が効果的なことが多いです。ランチタイムや1on1の場で地道に信頼関係を築く必要があります。
技術と事業の懸け橋となる人材の重要性:各部門の言語を話せるクロスファンクショナルな理解者(技術と事業の両方を理解できる人)が不可欠です。このような架け橋となる存在を味方につけることが成功への近道になります。
結局のところ、最も有効な戦略は「自分の専門領域を超えて相手の文脈で語る」ことです。技術者は事業KPIの言葉で、事業側は技術的制約の言葉で対話する努力が必要です。これが「信頼性は会話である」という言葉の本当の意味なのです。
3. 目に見える成果が出るまでに時間がかかるという壁
SLI/SLOの導入は短期決戦ではなく長期的な取り組みです。
- 導入初期は一時的な作業量増加と基盤構築が先行
- 本当の価値は6-12ヶ月後から現れることが多い
- 「完璧なSLO」より「継続的に改善されるSLO」が重要
長期的取り組みのためには、小さな成功の積み重ねと組織的なコミットメントが欠かせません。
実務上の重要なポイントは、初期段階で期待値を適切に設定することです。多くの組織では「すぐに効果が出る」という期待から、半年程度で「効果がない」と判断されることがあります。これを防ぐには、短期的な小さな成功(例:アラート削減による疲労軽減)と長期的な大きな成功(例:システム安定性向上によるビジネス成長)の両方を明確に提示しておくことが重要です。
発表を終えて
今回のイベントでは、他の登壇者の方々もそれぞれの視点から素晴らしい発表をされていました。BASEのtandenさんがアラート品質の改善について、シンプルフォームの守屋さんが開発組織全体でのSLI/SLO実装について、ユーザベースの安藤さんがSREとCTOの両視点からのSLI/SLO活用について語られました。
私は意図的に「組織文化と変革マネジメント」という視点から補完的に話すことで、イベント全体として技術から組織まで幅広い視点でSLI/SLOについて学べる場になったのではないかと思います。
特に印象的だったのは、どの発表も「数値や指標そのものより、それを活用して何を実現するか」という本質的な部分を大切にしていたことです。形式的なSLI/SLO導入ではなく、真に組織とサービスの価値を高めるための取り組みとして捉えられていたのが印象的でした。
まとめ

SLI/SLOの導入は一朝一夕にはいきません。それは旅のように、ゴールや完璧を目指すのではなく、継続的な前進が大切です。
今日から始められることとしては: - 小さく始めて徐々に拡大する - まずは一つのサービスから - 既存の課題から出発する
そして成功のための心構えとして: - 完璧よりも継続を重視する - 技術も情熱もどちらも大切 - 信頼性は会話/対話から生まれる
SLI/SLOの導入は技術的チャレンジであると同時に組織的チャレンジです。小さな一歩から始めて、組織全体で信頼性文化を育んでいきましょう。
なお、SLI/SLOの基本概念から実践的な導入方法までを体系的に学ぶには、以下の書籍を必ず一読していただきたいと思います。組織への適用を考える前に、まずはこの本で基礎をしっかり固めることをお勧めします。
これらのポイントを心に留めながら、組織にSLI/SLOを適用する旅を続けていきましょう。
おわりに
また、他の登壇者の皆さんの発表資料も大変参考になりましたので、ぜひご覧ください。
BASEの@tac_tandenさんによる「SLI/SLOの設定を進めるその前に、アラート品質の改善に取り組んだ話」では、SLI/SLO導入の前段階としてのアラート品質向上について詳しく解説されています。SREピラミットの下には常にモニタリングがあり自分の経験からも何よりも重要だと思っています。 speakerdeck.com
シンプルフォームの守屋邦昭さんによる「開発組織全体で意識するSLI/SLOを実装している話」では、組織全体でのSLI/SLO実装について具体的な事例が紹介されています。 speakerdeck.com
ユーザベースの安藤裕紀さんによる「SREとしてSLI/SLOをどう普及してきたか、CTOとしてSLI/SLOをどう活用しているか」では、SRE視点とCTO視点の両面からSLI/SLOの活用方法が解説されています。個人的には俯瞰度合いが好きです。 www.docswell.com
最後までお読みいただき、ありがとうございました!