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平家物語60 第3巻 少将都帰り②〜The Tale of the Heike💐

三月十六日、少将は鳥羽に着いた。

ここには、成親の山荘である洲浜殿《すはまどの》がある。

かつて美しかった邸宅も、

今は住む人もなく荒れるに任せていた。

 苔むした庭園は、人の訪れもないらしい。

池のあたりを見廻すと、折柄春風に小波が立ち、

紫鴛《しえん》白鴎《はくおう》が

楽しげに飛び交いしている。

昔、この景色の好きだった父、ああ、あの頃は、

この開き戸をこういう風にお出入りになっていたっけ、

あの木は確かお手ずからお植えになったものだった。

一つ一つの思い出が、ある事ない事、

ぼうっとうかんできて、

少将のやるせない慕情を一層激しくかきたてるのであった。

 庭のそこここにはまだ春の花が乱れ咲いていた。

主人の留守の間にも、

花だけは、春を忘れず咲き誇っていたのであろう。

ふと少将は知らずしらずのうちに、古い詩歌を口ずさんでいた。

桃李不言《とうりものいわず》

春幾暮《はるいくばくかくれぬる》

煙霞無跡《えんかあとなし》

昔誰栖《むかしたれかすんじ》

 ふる里の花の物言う世なりせば

   いかに昔の事を問わまし

いつまでも名残尽きぬ荒れた邸に、

いつか月が昇ってきていた。

破れ果てた軒の間から、

月の光はいたるところに射しこんでくるのである。

離れ難い思いが少将の心をとらえるのだった。

しかし都では、

迎えの乗物を持って待ちわびている家族たちがあった。

少将は名残惜しさに泣くなく洲浜殿を出て都に向った。

都が近づくにつれて、さすがに喜びはかくせなかった。

と同時に康頼との別れも近づいている。

康頼にも迎えの乗物が来ているのに、

康頼は少将の車から中々降りようとしなかった。

七条河原迄来ても、まだついてきた。

花の下で遊んだ半日の客、月夜の宴で一夜を語った友、

雨宿りに立ち寄った一樹の下の友、

そんな短い友情でさえ別れる時は

何かと名残り惜しいものなのに、康頼と少将は、

二年間、それも荒れ果てた孤島で、

うれしいにつけ、悲しいにつけ、

同じ罪業を背負って暮した仲間である。

別れ難いのも尤《もっと》もな話だった。

 

少将は、舅《しゅうと》宰相の邸に入った。

少将の母は、昨日から宰相邸で帰りを待っていたのである。

命があったればこそ、

といいもたまらず嬉し泣きに泣き伏してしまった。

少将の北の方、乳母の六条の喜びようも一通りではなかった。

六条は積る憂いに、黒髪もすっかり白くなっていたし、

かつては、あでやかな美貌をみせていた北の方は、

やつれ果てて、この人が、あの人か? 

と思えないほどの変り方であった。

少将が、都を去る時は三歳の幼児だった息子が、

すっかり大きくなって、今は、きちんと髪まで結っている。

その側に三歳ばかりの童児がいるのに目を留めた少将が、

けげんな顔をして、

「あれは?」

 と尋ねた。すぐさま六条が、

「あの方こそ、御下向の時」

 といったまま、袖に顔を押しあててあとが続かない。

少将も漸く気がついて、

「あの時、腹にいた、そういえば奥がひどく苦し気で、

 気がかりであった」

といってやっと思い出した。

「よくぞ丈夫で大きくなったものじゃのう」

 と又ひとしお感慨深げであった。

少将は再び院に仕え、宰相中将に上った。

康頼は、東山 双林寺《そうりんじ》の山荘で、

世を捨てた生活を送りながら、

「宝物集《ほうぶつしゅう》」を書いた。

ふる里の軒の板間に苔むして

  思いしほどはもらぬ月かな

都に帰ってからの康頼の所感である。

💐🎼忘られぬ面影 written by のる

 

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