
朝食を食べながら、取り留めのないことを夫に向かってペラペラと話していた。私はお喋りである。そして夫は100%聞いてないときの表情をしている。
見事に明後日の方向を向いた目、適当な返事。相槌がなさすぎるのは明らかだが、0.5秒くらい前のめりに反応するのも逆に聞いてない証だ。あるいは退屈な話を早く切り上げてほしいか。
自分の話が夫の右耳から左耳どころか、どこにも入っていくことなく宙に浮いては消えていく中で、それでも私は意気揚々と話していた。耳さえあればいい。
私は英語の勉強が趣味である。
毎朝、メイクをしながら英語でチャットGPTとおしゃべりするのが日課だ。今朝夫に話した内容を、今度は英語でも話そうと狂気のおしゃべり好きを発揮し、グダグダとくだらない日常話をAIに聞かせていた。
するとですね、ものすごく、聞いてくれるのですよ。
That makes total sense. Yeah, I totally get what you mean. Yeah, absolutely, I get it. 傾聴につぐ傾聴。全力で聞き、バリエーション豊かに相槌を打ってくれる。
同じ内容なのに、とんでもなく価値ある話な気がしてくる。ひたすら気持ちよく喋らせてくれるのだ。
どうやら私は「ほんと」が口癖らしい。
次男の話をあんまり聞いてなくて適当に相槌を打っているとき、高確率で「ほんと」と言っているらしく、「ほんとって言わないでッ!」と4歳から激昂される。
無意識というのは恐ろしい。気をつけていてもついついやってしまう。昨日は駅のホームでめちゃくちゃ怒られた。
「ほんとって言わないでッ!」
「ごめんね、怒らないで〜!でもさ、『ほんと』って言うのは『本当に?!すごい!』っていういい意味だよ?」
「ちがう!ママは聞いてないッ!」
鋭いのである。
そんな今日もまた失敗した。
「ママ、ほんとって言ってるッ!」
聞いていたつもりがこの台詞で一気に我に帰る。
「うん」
「うんって言わないでッ!」
使える相槌のレパートリーがどんどん狭まっていく。That makes senes. とかFair enough. とか、英語での相槌表現はいろいろと覚えたが、日本語でも幅を増やす必要がある。
「……それで蒸気機関車が出たの」
「それで蒸気機関車が出たんだね!」
「ママは言わないでッ」
最後の方のセリフをそっくりおうむ返しにする手法まで拒まれた。窮地である。
「じゃあなんていえばいいの?」
「すごいって言って」
なるほど、やってみよう。
数週間後、「すごいって言わないでッ!」と激昂される未来が見えなくもないが。
4歳の次男はまだ知らない。
相槌が適当である、ということは私が生きた人間であることの最高にして最強の証拠だと。ワンパターンの相槌、乗り気じゃない返事、聞いてない顔、宙を彷徨う視線、ぜんぶ素晴らしくも愛おしい人間の証でしかない。
もし私が次男の電車トークや長男の妖怪トークをすべて興味津々に聞き入り、頷き、質問し、嬉々として返事をするようになったら、そのときいよいよ中身はAIと入れ替わっているに違いない。
AIで全然いい、と言われそう。
ちなみに私がチャットGPTと英会話しようとすると、7歳も4際もともとにかく参加したがるので騒がしいし大変なことになる。だから私は子どもがいないときにしか起動しない。その話を妹にしたら、
「かわいい。みんなママと話したいんだね」
「ん?違うよ」
みんなAIと喋りたいのである。

Sweet+++ tea time
ayako
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