
「タクシーは疲れちゃうからバスがいいなぁ」
早いか遅いか。遠回りじゃないか効率的か。そんなふうに行き方を考える私とは、違う世界を生きているのだ。
今日は6歳長男と約束をしていた日で、ふたりでコメダ珈琲店のモーニングに行った。
丸い瓶に入ったたっぷりのオレンジジュース。飲み物を注文すると付けられる、バターが染み込んだローブパンにゆで卵。大好きなポテトや唐揚げもある。何よりベロア調の赤いソファー席が特急電車のボックス席を思わせるようで、長男にとってコメダ珈琲は「いちばんお洒落ですてきなお店」だそう。
リュックの中には折り紙6枚と折り紙の本。一緒にヘリコプターを作りたいと用意してきたらしい。作ったばかりの工作と小さなマリオのおもちゃまで持ってきている。コメダ珈琲には絵本もたくさん並んでいて、次来たときは『としょかんライオン』を読みたいと張り切っていた。夢の空間なのだ(大人にとっても!)
オレンジジュース、私はコーヒー、次にポットの和紅茶。3つのドリンクを注文したのでモーニングも3回分。ほとんど丸っと長男が食べてしまう。ポテチキにトーストしたミニサンドも追加注文。たくさん食べて飲みながら、いろいろ喋る。
昨日までの湯河原旅行のこと、来月行く別府温泉で地獄めぐりをしたいこと(ツノがついた鬼のバスに乗りたいらしい)、冬至の柚子湯が楽しかったのでまたスーパーで柚子を探したいこと、大量に拾った松ぼっくりに色を塗りたいから絵の具を買うこと。
1時間以上おしゃべりして、お腹もいっぱいになったのでお店を出る。
自分の500円玉と50円玉を使って、550円のマリオのバスボールを買うという記念的買い物に立ち会い、約束通り松ぼっくりのための絵の具を買った。心和む楽しい買い物だ。

次男と夫ペアは少し離れたショッピングモールにいるらしく、合流しようという話になる。Googleマップの経路検索でサクッと調べたところ、バスを乗り継いで行くことはできるが遠回りで、歩くと30分以上かかる。タクシーが高いけど効率的かも。
「駅まで歩いてバスに乗る?それともタクシーに乗る?」
「タクシーは疲れちゃうからバスがいいなぁ」
とても不思議な理由でバス推しだった。コメダ珈琲店から駅までも、バス停からショッピングモールまでも、そこそこ歩く。バスの方が疲れる気がする。しかし説明しても長男曰く、
「タクシーはすぐ着いちゃうから疲れちゃうよね。バスなら時間がかかって休憩できるから疲れないからね、バスの方がいい」
早いか遅いか。遠回りじゃないか効率的か。そんなふうに行き方を考える私とは、違う世界を生きているのだ。
そんなわけで駅まで歩くことになったが、動きがなんか妙だった。石畳の、白いところだけを踏んで歩いているのだ。子どもの頃、私もやったなぁ。案の定、途中で疲れたと言って、ちょっとした石の段で休憩する。
「お茶が飲みたくなっちゃった」
水筒を持ってこなかったので、近くのコンビニへ。かわいいパッケージの麦茶のペットボトルを買って、さっと飲んでまた歩こうとしたら、長男はスタスタと2階の席へ。
「ここで飲んだ方がゆっくりできるからね」
初めて来た2階のイートインコーナー。もう一組同じくらいの男の子を連れた親子がおにぎりを食べていた。
白くて明るくて、大きな窓から冬のひかりが柔らかく注ぐ、コンビニのイートインにしておくにはもったいないくらいの空間だった。いつも歩いている大通りを、初めての角度から見下ろす不思議な心地。発見はいくらでもあり、近道をしなければ "旅行" ができる。

暖房と日差しであたたまった部屋の中で、冷たい麦茶を交互に飲む。ちょっとお喋りして、また歩く。
途中で本屋にも寄って、お互いに1冊ずつ本を買う。私は『スバらしきバス』というバスがテーマのエッセイ集、長男は『つるのおんがえし』。
新しい本を持って、バスに揺られる。この心弾む感じは幸福でなくて何であろう。お互い買ったばかりの本を手に取ってちょっとめくったりしつつ、久しく乗っていなかった路線なので、いつもと違う車窓が楽しい。
結局読まずに、ただ窓の外を見ながらお喋りする。前に住んでいた辺りの、懐かしい景色。長男はバス停をよく覚えていて、ちゃんと待ち構え一つ前のバス停を過ぎたあたりでバスボタンを押してくれる。
「ねぇ、やっぱりバスだと疲れないでしょ」
ほんとだ、と驚く冬の昼下がり。吐く息はほのかに白い。
暖房が効いたバスを降りて、また冷たい空気の中を歩くのが心地よかった。座って景色を楽しんだし、初めてのイートインで麦茶を飲んで、上から大通りを眺めて、すてきな本にも出会えた。いろんな寄り道が楽しかった。効率的だから疲れないとは限らないし、むしろ逆かもしれない。より早く、できるだけ無駄を削ってと急ぐから、かえって疲れることがある。
2024年も、もうすぐ終わる。
休憩と寄り道。道中を楽しむ心。
Googleマップで経路検索をしても出てこない、行き方の、そして生き方のコツを、6歳の息子に教えてもらった冬の日だった。

Sweet+++ tea time
ayako
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