
書いた人:森夏彦
1990年7月15日生まれ。Shiggy Jr.に2014年に加入。2019年に一時解散するも、2024年に再結成。Mrs. GREEN APPLE、Teleなどのサポートベーシストとしても活躍中。
三鷹在住の私が吉祥寺の顔をしていた頃

この執筆を始めるにあたり、まずは「三鷹」に謝らなくてはいけない。
10年ほど前、私はとにかく飲んでいた。冗談ではなく一年のうち365日飲んでいた。うるう年には366日飲んでいたのは言うまでもない。
ちょうど当時は僕がベーシストとして所属しているバンド「Shiggy Jr.」がメジャーデビューを果たした頃で、自分で言うのもなんだがバンドマンとしてもイケイケドンドンなタイミングだった。その余りある体力と将来へのキラキラとした希望を胸に毎晩、それこそ海賊のごとく飲みまくっていたのである。
そんなもんで新たな出会いが日常的にあったわけだが、その時よく行われていた会話を一部抜粋する。
森「家、どこらへんなんですか?」
友「〇〇っすね」
森「あそこらへん、住みやすそうでいいですよね」
友「そうなんですよ。森さんはどこなんですか?」
森「あ、えーっと吉祥寺の方っすね」
はい、これです。
住んでいる場所を聞かれた際、地元・三鷹ではなく、人気・知名度共にメガ級の隣駅である吉祥寺の名前を出していたのです。いま思うとこれが強烈に恥ずかしい。
少し言い訳をさせてもらうと、実際に吉祥寺駅を使うことの方が多かったし、なんかわかりやすいじゃないですか。キチジョージ。
とはいえ、吉祥寺の威を借り、三鷹の名前を出さなかったのは事実。また「吉祥寺の方」と少しフワッとさせ、逃げの姿勢を見せているのも若干腹が立つ。
このエッセイの依頼をくれた編集者の小沢さんとは10年来の付き合いになる。当初は「吉祥寺の街についてエッセイを書いてほしい」との依頼であった。完全に吉祥寺在住者の顔をしていた昔の自分のせいだ。しかしもう当時の気持ちとは違い「実はリアル地元は三鷹なのですが……」と正直に三鷹の民であることを明かして返信した。
歳を重ねるにつれて、地元である「三鷹」という街の魅力に私自身が気付いていったからである。
三鷹の街で音楽に目覚めた私

三鷹。閑静で派手さは無い。中央線の主要駅でアクセスは良好だが、都心からは少し距離があり、「郊外」という印象を持つ人もいるのではないだろうか。
そんな街に7歳の頃に引越し、そこから人生の大半を過ごした。私の人格形成はまさしくここ三鷹で培われたのである。
小学生の頃はサッカースクールに通い、球を追いかける日々を過ごしていたが、次第に秘められし運動神経の悪さを発揮。中学のサッカー部体験で課された校内ランで地獄を見て入部を早々と諦めた。周りの友達は全員入部したので、この時初めて自分の根性の無さを自覚した記憶がある。
結局、「あんま走らなくていい」という舐めた理由でバレーボール部に入部するも、ほどなくして音楽にのめり込むこととなった。
三鷹には古本屋や中古CDショップが結構あって、とにかく音楽に飢えていた私は「時代屋」というショップに入り浸ることとなった。お小遣いが入るたびに駆け込み、CDをジャケ買いし、ライナーノーツを読み、その中から気になるCDを買うというループ。そこでたくさんの音楽と出会った。
「アタリ」のCDに出会った時は、鼻息荒くして、「こんなイケてる音楽聴いてるのマジで周りで俺だけだろ……」と一人でニマニマし、その興奮を求めてまたショップに足を向けた。完全に宝探しのアドベンチャーワールドだったわけだ。
残念なことに思い出の「時代屋」は閉店してしまったが、あの店があったから今の私がいるといっても過言ではないだろう。
文豪が眠る「文学の街・三鷹」

(協力:公益財団法人三鷹市スポーツと文化財団)
ところで、古本屋が多い理由には街の文化的背景も関係あるかもしれない。
三鷹にはかつて太宰治はじめ多くの文豪が住んでいたこともあり、実は文学の街としての顔も持っている。駅南口から歩いて10分ほどの「禅林寺」には太宰治の墓があり、斜向かいには森鴎外の墓も鎮座している。
厨二病真っ只中だった学生時代の私は、『人間失格』くらいしか読んだこともないのに、何度か彼の墓に手を合わせに行ったこともある。
太宰側としては「え……『人間失格』しか読んでないのに俺の墓参りに……? 待ってムリ……いや、そんな薄いヤツに来られても……いや、コイツ、神妙な顔つきだけヤケに上手いんかい!」という思いがあったに違いない。
なにはともあれ、「文学の街・三鷹」。時は流れ無くなってしまった店もあるが、最近ではまた良い古本屋ができてきているらしい。今度散歩ついでに覗いてみよう思う。
この街を彩る個性豊かな飲食店
うちは基本的に父が夜もおらず、母と妹の3人で夕食を取ることが多かった。稀に全員で食べる時は外食チャンスである。「何食べたい?」と問われた時のファーストチョイスはいつも焼肉だった。

「李朝園(りちょうえん)」は地元の老舗で、我が家のホーム焼肉屋である。本店は吉祥寺にあるが、私たちは近くの下連雀店に通っていた。
ここはゴマをすり鉢で潰し、タレにぶっかけて肉を喰らうという独特のスタイル。そのせいで、わりと大人になるまで焼肉とはゴマと食べるものだと思っていた。

牛タン、ハラミは特にオススメだ。タレが美味しいので、ご飯との相性が抜群。

基本的に私は焼肉においてご飯は注文せずに肉をツマミにお酒を楽しむスタイルだが、ここではそのスタイルを崩さざるを得ない。とにかく、白メシがすすむのだ。
一通り肉を楽しんだシメには、辛さが得意であればテグタンをおすすめしたい。ほぐれた牛肉や、牛骨を煮込んでダシをとったスープに唐辛子を入れ、さらにご飯まで入れちゃうヤンチャな一品だ。
辛さの中に旨みの爆弾ともいえるスープのマッチングが猛烈に美味しく、これでシメると幸せな気分で帰ることができる。あ、冷麺も美味しいです。
他にも、寿司屋だと「寿司金」、焼き鳥だったら「山もと」など、一通りジャンル別に名店があり、どこも都心よりリーズナブルにいただけるのがうれしいところだ。
そして忘れてはならないのがラーメン。最近どういうことか駅周辺がラーメン大激戦区と化している。
昔ながらの味を守る老舗「みたか」、元祖スタ満そば「すず鬼」、魚介豚骨の雄「文蔵」など、有名店が駅周辺に10店舗以上ある。銀河系軍団と呼ばれた2000年代のレアル・マドリードくらいの層の厚さを誇っているのだ。
これらの中から一つオススメを、と言われると難しいが、ちょっと前日の酒が残っている今の気分的に「満月」を推したい。
ここは山形の酒田に本店を持つワンタンメンの名店で、都内唯一の支店となる。スープは煮干しなど様々なダシが効いた、深くもスッキリとしたものでめちゃ美味。なによりもワンタンがトゥルンットゥルンでなめらか。メッシ、イニエスタが活躍していた時代のバルセロナのパス回しが相当なめらかだったが、それに匹敵するかそれ以上ではないだろうか。
マニアの方は1日かけて三鷹ラーメン行脚してみるのもいいかもしれない。
安らぎをくれる広い公園が複数ある豊かさ
数年前、当時の彼女(今の妻)と同棲を始めるタイミングで三鷹を離れた。品川区の武蔵小山。とても魅力的な町であった。都心でありながら、下町感があり、ながーい商店街もあり、肩肘張らずに自然体でいられる。今でもとても好きな町だ。
だが、たまにふと、三鷹の自然を懐かしむこともあった。三鷹は緑豊かな街でもある。三鷹市内で最も栄えている三鷹駅が最北端となり、そこから南下していくにつれ段々とのどかな風景が広がる。畑も出てくる。なんにせよ、公園が多いのだ。
メジャーどころでいうとやはり「井の頭公園」。文学少年気取りだった高校生のときは、なぜか真冬真っ只中にベンチに座り、ガチガチに震えながら読書に耽って悦に入っていた(読んでいたのは主に涼宮ハルヒをはじめとするライトノベル)。
また、20歳くらいの時分、一度だけセミ捕りをして全く捕まらなかった記憶もあるし、弾き語りをしようとギターを片手に颯爽と現れ、何もせず2分で帰ったこともある。思い出がありすぎて逆に思い出せないくらいだ。
ただ、井の頭公園は憩いの場であることは間違いないが、休日ともなると人も多い。もっとゆったりとした公園を求めるならばちょいと南に足を延ばして「野川公園」に向かうといい。
ここはとにかく広い。まぁ広い。だだっ広い芝生が広がっており、井の頭公園より更にスケールの広い自然を感じられる。BBQスペースもあり、休日には家族や仲間と集うのも良いだろう。豊かな自然ゆえ、5、6月になるとホタルも見られるらしい。
2019年にShiggy Jr.が一度解散したあと、野川公園の近くで友達とシェアハウスをしていた時期がある。コロナも重なってとにかく暇だったので、ちょくちょく野川公園に行っては読書して昼寝をしてを繰り返していた。
人口密度が低いため、ずーっとゆっくりできるのが素敵だったし、なにもやることがない私をただ優しく受け止めてくれるデッカさがそこにはあった。
すぐ近くには「国立天文台」もあり、もし時間に余裕があったら寄ってみるといい。行った人によると、「良かった」とのこと。私は行ったことがない。
ところで、三鷹でフルーツ狩りができるらしいということを最近知った。なんと、いちご・ブドウ狩りが楽しめるとのこと。今度私も行ってみようと思う。意外と行ったことない場所が多いな。
ちなみに「三鷹の森ジブリ美術館」は一回しか行ったことがない。徒歩圏内にも関わらずだ。
でもどうなんでしょう。地元だといつでも行けるからって理由でいつまでも行かないことあるよね?
三鷹にはいい「気」がある

三鷹の魅力が少しでも伝わってくれれば本望。占いの類いはあまり信じない私だが、街には「気」があると個人的に思っている。やはり街によって、気が合う・合わないがあるのだ。
で、私の感覚でいうと三鷹は「合う」。文化を感じるし、ギラギラもしていなくて、チェーン店も充実している一方で変な店、こだわりを感じる店もある。「つまらなくないけど疲れない」という絶妙な線をいっていると思う。
三鷹は多くの人に「合う気」を発信している街なんだと、この歳になって感じる。わざわざ遠くから来るような場所でもないが、近くに寄った際は顔を出してみてほしい。いつだってあなたを適度な距離感で迎えてくれるはず。
そして最後に、免罪符のように締めの言葉を叫ばせていただき終わりにさせてもらおう。
「リアル地元は三鷹です!」
編集:小沢あや(ピース株式会社)
