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「現在」から「未来」へ

木村草太*1「ピッピの時間」『図書』(岩波書店)924、pp.6-9


ジョン・マクタガート*2の時間非実在説について;


(前略)マクタガートは、「時間」は単なる前後関係(A 系列)のことではなく、過去・現在・未来の三要素(B系列)からなる概念だとした。
B系列は、堪えがたい矛盾を含む。B系列を前提にすると、ある一点は、過去でもあり、現在でもあり、未来でもある。しかし、過去・現在・未来は相互に矛盾する。同じ一時点が全ての性質を持つのは矛盾だ。つまり、時間という概念は、筋の通ったものではありえない。だから、時間は実在しない。これが有名なマクタガートの時間の非実在説だ。大澤真幸*3によれば、この議論の意義は、「時間とはわからないものなのだ、謎なのだ、ということを論証した」ところにあるいう(大澤真幸『逆説の古典』朝日新書、2025年、三五頁)。
マクタガートは、明らかな矛盾を含む時間という概念を、筋の通った実在だと思わせる原因を論証した。それは、「現在」の特権化だ。過去・現在・未来の三要素中、現在の重要性は突出している。過去も未来も「線」だが、現在だけは「点」だ。時間とは、一直線の前後関係の中に、「現在」という特異点が生成し、それに伴い前後関係が過去と未来に分割されてできた概念だ。(p.8)
木村氏はアストリッド・リンドグレーンの『長くつ下のピッピ』は「この「現在」の特権性を扱う物語でもある」という(ibid.)。
そして注目するのは、物語の「最終章」(『ピッピ南の島へ』「12ピッピは、おとなになりたくありません」)。ここでは「現在」の特権性の自覚と破綻が描かれている。ここで「ピッピは、子ども時代があまりに楽しくて、「大人になりたくない」と言い出し、大人にならなくても済む薬を飲む」(ibid.)。

薬は、効いたのだろうか。効いたかもしれないし、「飲めば大人にならない」というのはいつもと同じ大ボラだったのかもしれない。リンドグレーンさんは、『ピッピは永遠に元気な子ども』とか、あるいは、『ピッピ婆さんの大冒険』といった続編は書いていないので、答えは謎のままだ。
ただ、私が思うに、薬に効力がないことは明らかだ。(略)
ピッピが薬を飲もうとしたきっかけは、「子どもの時間」が特権的だと意識したことだった。ピッピといえども、子どもの時間は限られている。大人になれば、義務や責任、仕事といったあれこれに囲まれて、生きていかねばならない。実際、ピッピのお父さんは、王様としての責任・仕事がいっぱいで、時間に追われて生きている。
ピッピは、それを認識した。この結果、現在(子どもの時間)は、この上なく貴重な瞬間として特権化され、自由に過ごした過去はかけがえなく、大人としての未来がこれからやってくるのが見える。ピッピは、時間の概念を受け入れた。
この段階で、ピッピは、もはや子どもとは言えないのではないか。確かに、この翌日も、ピッピはトミーやアニカと雪の中で元気に遊びまわるかもしれない。しかし、ピッピは、もはや無邪気に遊ぶことはない。この上なく貴重な、今、この子どもの時、として遊ぶ。それは、大人……とまでは言えないが、それまでのピッピではない。
だから、薬に効力があろうがなかろうが、あるいはそれを飲もうが飲むまいが、「大人になりたくない」と思った時点で、ピッピは引き返せない階段を一つ上ったのだ。(p.9)
マクタガートの時間論に関しては、滝浦静雄『時間』*4、秋葉剛史『形而上学とは何か』*5をマークしておく。

*1:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20160128/1453945912 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20170523/1495514424 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/09/01/020130 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/04/19/112314 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/05/01/020922 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/11/19/082529 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/12/25/091101

*2:See eg. Emily Thomas "John McTaggart Ellis McTaggart (1866—1925)" https://iep.utm.edu/mctaggar/ Kris McDaniel"John M. E. McTaggart" https://plato.stanford.edu/entries/mctaggart/ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%88 https://en.wikipedia.org/wiki/J._M._E._McTaggart

*3:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050707 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060121/1137869912 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070705/1183661994 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071027/1193510497 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080731/1217432394 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090607/1244348445 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090608/1244479972 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090729/1248840543 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090914/1252893716 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090920/1253472136 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100416/1271390292 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130704/1372890636 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131217/1387215045 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180429/1524983660 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180430/1525087347 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/02/06/125926 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/02/12/145835 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/02/19/120636 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/03/13/115444 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/12/11/100138 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2019/12/24/142223 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/05/23/150954 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2020/10/08/145016 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/03/07/103428 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/04/14/140523

*4:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20100714/1279129687 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180304/1520142007

*5:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2025/08/09/145833 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2025/12/08/100934




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