谷崎由依「……そしてまた文字を記していると」(『鏡のなかのアジア』、pp.7-41)
曰く。
よい砂と悪い砂。この世はふたつの砂からできている。ふたつの砂が相争い、反目し、ときに混じりあい、一方が他方を圧倒し、またべつのときには形勢が逆転し、あるいはまたべつのときには、片方が優勢ではあるものの他方にも幾らか分はあって、という。その数々の様態から、この世の諸相は生まれるのだった。様態はどれも少しずつ違い、ひとつとしておなじものはないために、この世も過去とおなじ相を見せることは一度としてないのだ。しかしただひとつ言えることは、一方が他方を完全に駆逐することはないということである。たとえよい砂がすべてを覆ってしまったように見える場合でも、ただ一粒の悪い砂はかならず残っていて、そこからまったく形勢が逆転することもあるのだ。(p.16)