伊勢田哲治「著書を語る605 『宇宙開発をみんなで議論しよう』」『書標』(丸善ジュンク堂書店)526、pp.2-3、2022
呉羽真、伊勢田哲治編『宇宙開発をみんなで議論しよう』*1について。
この本は、「宇宙開発について「討論型サイエンスカフェ」というツールを使って議論しようと提案する本」であるという(p.2)。
本書の第一のセールスポイントは、宇宙開発について議論したい人が知っておくべき宇宙開発をめぐる基本情報がしっかりと盛り込まれているところです。もちろん(略)宇宙開発の歴史についてはすでにいろいろな本が出版されていますが、基本的な事項にしぼって全体像がわかるように国内外の状況をまとめた本は意外に少ないですし、ここ数年の宇宙開発をめぐる激しい状況の変化を反映した内容になっているのは注目してほしいところです。
本書の第二のセールスポイントは、「みんなで議論する」ための方法として「討論型サイエンスカフェ」という手法を提案していることです。国内で行われている通常のサイエンスカフェは一人の専門家が話題提供をする、講演会に近い形式になることが多いと思います。これだと参加者は「傾聴する」というスタンスで参加することになりがちです。これに対し、討論型サイエンスカフェは、少し立場の違う二人の情報提供者が前に出て異なる視点を提供し、それを聞いた参加者の方たちにも積極的に対話に参加いただくことで、問題の多面性に気づいてもらうことを眼目としています。特に宇宙開発についての講演会やサイエンスカフェは、宇宙飛行士など宇宙開発に直接関係する方たちが登壇する形になることが多く、宇宙開発推進という立場が最初から前提になっているようなところがあります。討論型サイエンスカフェという形式をとることで、開発ありきではない意見交換も可能になります。本書の第二部では実際に四つのテーマについて行った討論型サイエンスカフェの様子を紹介していて、一般向けの書籍でなかなかこういうやり方をすることは珍しいのではないかと思います。第二部を読んでいただくことで、四つのテーマ(ロマンを理由とした友人月探査、宇宙資源の開発利用、デュアルユース宇宙技術の研究開発、宇宙ゴミへの対策)について何が論点となるかが分かるだけでなく、討論型サイエンスカフェの進め方も分かるようになっています。第五部や第六部ではこうしたイベントのやり方のノウハウや、議論するときの注意点などもまとめられていて、自分でも討論型サイエンスカフェをやってみたいと思った方にも役に立つ情報が盛り込まれています。(pp.2-3)
(前略)私自身は哲学、もう少し詳しく言えば科学哲学、倫理学を専門としています。私が勤務する京都大学には宇宙総合学術ユニット(宇宙ユニット)という分野横断的な研究グループがあり、そのメンバーとして過去十年取り組んできたのが宇宙開発にまつわる倫理問題を考えようという宇宙倫理学の研究です。この共同研究の成果は『宇宙倫理学』(伊勢田・神崎・呉羽編、昭和堂、二〇一八年)という書籍にまとめられていますが、本書はその後継のプロジェクトということになります。『宇宙倫理学』は哲学者による議論がメインでしたが、宇宙開発を動かしていくには哲学者だけでなくいろいろな立場の人が問題意識をもって議論に参加する必要があります。そういう意識から、宇宙開発をめぐる議論の視点や参加者を拡大しようと試みたのが本書だ、という言い方もできるかと思います。(p.3)