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『ローズ家 〜崖っぷちの夫婦〜』次に傷つけるのはどっち?

 

The Roses
制作年 : 2025年 / 監督 : ジェイ・ローチ

イギリス人夫婦のどぎついブラックジョークが飛び交う作品。この映画そのものが皮肉めいているので、笑って済ませてよいのか少々不安になります。
 
主人公は建築家の夫・テオと料理人の妻・アイビーのローズ夫妻です。運命的というか出会って数秒で婚約してしまった2人が、相性の不一致を起こして次第にめちゃくちゃになっていきます。テオは高圧的で権威を重んじる傾向があり、他人を見下しているような印象を受けますが、アイビーは庶民的な人物で、経営するレストランに名付けた「カニカニクラブ」というネーミングセンスからも伺えるように茶目っ気があり周囲との人間関係も良好な様子です。対照的とも言える2人ですが、根底の部分では結構似通っています。互いをジョークで容赦無く刺しまくる様子からも明らかですが、2人ともプライドがすこぶる高いです。一方がジョークを飛ばすと、他方も負けじとジョークを倍にして返します。思い切り笑えることもあれば痛々しく滑っていることもしばしば見られます。イギリス人の国民性は存じ上げませんが「イギリス人といえばブラックジョークなんだ」と言いたいのがよく伝わってきます。とはいえ「日本人は皆サムライの精神を持っている」的なものだとは思っていますが、内容が清々しいまでに辛辣なので言われる相手の気持ちを思うと居た堪れません。
 
映画の前半でテオがデザインを手がけた船舶博物館が記録的な大嵐に見舞われます。構造的に問題があると言われながらもデザイン重視で採用した帆をかたどったモニュメントが仇となり、渾身の作品は見事なまでに大破してしまいました。空っぽな中身を豪華絢爛な装飾で覆い隠す様相はテオという人物を象徴しているようにも見えますし、粉々になってしまった博物館はそんな彼の行く末を暗示しているようです。
 
また、アイビーはラズベリーアレルギーを持っているのですが、ラズベリーの入ったスイーツを自作して食べてはオピオイドを接種して発作反応を鎮めるという奇妙な遊びに興じていました。発作が重くなる直前に薬を打つという何とも危険な遊びですが、自傷行為とも言えるその行動からは彼女の精神的な脆さが窺えます。このように2人が繰り出す棘のあるジョークの背景には、彼ら自身の心の弱さが関係しているようです。
 
博物館の崩落事故によって彼は会社の信用を失いクビになってしまいます。さらには事故の瞬間に取り乱していた姿を切り抜いたショート動画が大バズりしてしまい、彼はネットのおもちゃにされてしまいます。一方テオの失墜と入れ替わるようにして妻のアイビーはレストランが批評家に絶賛されたことで地元で大人気となり事業拡大を果たします。仕事が忙しくなったアイビーに代わって2人の子供の面倒はテオが見るようになり(子育てというよりは人材育成や指導教育に近いやり方ですが)、やがて子供もその気になってストイックに体づくりに励むようになります。仕事と家事のバランスが180度変わってしまった夫婦はすれ違いを起こすようになり、徐々に険悪な仲になっていくのでした。
 
口を開けばジョークが出て口論が始まる2人の関係はカウンセラーに「修復能力がない」とまで言われる始末です。やはりここでもカウンセラーに対して職務怠慢だとジョークで一蹴する夫婦ですが、個人的にはカウンセラーの言葉はその通りではないかと感じました。ただ2人の関係性をというよりは個人のメンタルケアに対する言葉として捉えています。というのも、そもそもジョークとは相手との相互理解(これは冗談であるとお互いに認識し合っていること)を前提にして成り立つユーモアのことです。そのため相手がそれを真に受けてしまえば単なる悪口にすぎません。新居で友人を招いて開いたディナーの際には、2人が溜め込んでいた鬱憤が爆発し、周囲がドン引きするほどの喧嘩が始まります。その場にいたカップルが流れに乗じて的外れな言い合いを始めていましたが、ローズ夫妻の口論はその勘違いカップルのそれと本質的には大差ないように見えます。テオとアイビーは互いのジョークをジョークとして受け流すことができず、その内に込められた言葉の棘に傷ついていたのではないでしょうか。さらにはそのような本質を突かれた事実を受け入れることができずジョークを仕返して誤魔化しているように見えました。傷ついた自分を癒すことができないから、相手を貶すことでしか安心できない、幸せになれない。ヒートアップする2人の口論を見てそんなことを考えました。
 
テオはある日、いつものようにランニングをしていると海岸に打ち上がってしまったクジラと遭遇します。近くの道を走る車を強引に停めて人手を集め、一心不乱にクジラの救助に努める彼は人生で感じたことのないような深い感動を味わい、不意にある一つの疑問にたどり着きます。それは、なぜ好きでもないアイビーと一緒に過ごしているのかというものでした。自宅に戻ったテオはその言葉をアイビーに伝えますが、それはこれまでのどんなジョークよりも彼女の心を深く抉ったことでしょう。言葉の通じないクジラと本能レベルで心を通わすような原初的な経験は、残念ながらアイビーとは臨めなかったと思います。
 
本格的な離婚調停に突入した2人は主に新居の権利を巡って対立します。子供の親権は一切議論に挙がらず不動産が一番の争点になるのは潔いほどに残念な親の姿ですが、子供2人も離婚を歓迎していました。互いに譲らない権利争いはエスカレートし、ついにはアイビーのラズベリーアレルギーを利用して家の譲渡を承諾する契約書にサインするよう求めたテオですが、アイビーが仕返しとして誓約書にゼンデイヤと書いたのにはめちゃくちゃ笑いました。
 
激しい争いの末に2人は互いを許すことになりますが、家を破壊しまくった過程で年代物のコンロからガスが家中に充満していました。テオが音声操作で暖炉に火をつけようとするところで映画は終わりますが、どうやらこの家は彼らのことを許してくれていないようです。先ほど船舶博物館をテオに見立てましたが、この家もまた2人の荒れた内面を投影しているようです。ジョークにまみれたユーモラスな作品でしたが、やはりその裏にある心の脆さに焦点を当て、ケアを怠ることに警鐘を鳴らしているように受け取りました。




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