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なぜ任天堂は、スペック競争を降りることで世界一になれたのか?【新人さんのためのマーケティング講座 Season4 vol.14】

📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season4

Season3までは、事例を中心にマーケティングの原則を学んできました。
Season4では、Season3だけではご紹介しきれなかった事例をさらに発展的に取り上げていきます。

まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
Season 1【全14回まとめ】|▶ Season 2【全15回まとめ】|▶ Season 3【準備中】

2006年、ゲーム業界は「史上最大の軍拡競争」の真っ只中にありました。

ソニーのPlayStation 3は、最先端のCellプロセッサとBlu-rayドライブを搭載。価格は約6万円。マイクロソフトのXbox 360も映画のようなグラフィックを武器に、北米市場で猛威を振るっていました。

そこに任天堂が投入したのが、Wiiです。

価格は2万5,000円。処理性能はスペック上、一世代前のレベル。*1

そしてコントローラーは——ボタンだらけの精密機器ではなく、まるでテレビのリモコンのような、白くて細い棒でした。

業界関係者の多くは「任天堂は終わった」と思ったでしょう。しかし結果はどうなったか。Wiiは全世界で累計1億台超を販売し、PS3(約8,000万台)とXbox 360(約8,400万台)を大きく引き離したのです。*2

なぜ「低スペック」のゲーム機が勝てたのか? その答えは、マーケティングの教科書に載るべき戦略にありました。

「非顧客」を顧客に変える

当時のゲーム業界には、深刻な問題がありました。

2003年、任天堂の岩田聡社長(当時)は東京ゲームショウの基調講演で、こう警鐘を鳴らしています。「日本のゲーム市場では、ゲーム離れ現象が進行している」。*3

ゲーム機が高性能になるほど操作は複雑になり、ソフトの価格も上がる。結果として、コアゲーマーだけが残り、それ以外の人はどんどん離れていく。

ソニーやマイクロソフトは「残った顧客」を奪い合っていました。任天堂が目をつけたのは、その逆です。

「ゲームに興味がない、あるいは『難しそう』と敬遠している人たち」——いわゆる非顧客(Non-consumers)層です。

岩田社長が開発チームに出したキーワードは、こうでした。

 

「家庭のお母さんに嫌われないゲーム機」*4

ボタンを覚えるのではなく、「振れば動く」。リモコンのように持てば、テニスのラケットにも、ボウリングの腕にもなる。

競合が「よりリアルに、より複雑に」と進化する中で、任天堂はあえて「よりシンプルに、より直感的に」という真逆のベクトルに舵を切りました。

  PS3 / Xbox 360 Wii
ターゲット コアゲーマー 家族全員(非顧客を含む)
競争軸 グラフィック性能・処理速度 直感的な操作・体を使う楽しさ
価格 約5〜6万円 2万5,000円
設置場所のイメージ 自室でひとりで没入 リビングで家族と一緒に

その結果、「子供の遊び」だったゲーム機は、リビングの中心で家族全員がボウリングやテニスを楽しむ「フィットネス・エンタメ」へと生まれ変わったのです。

ブルー・オーシャン戦略とイノベーションのジレンマ

Wiiの成功は、2つの経営理論で説明できます。

① ブルー・オーシャン戦略——「誰もいない海」で泳ぐ

経営学者のキムとモボルニュが提唱した理論です。*5

競合がひしめく既存市場(レッド・オーシャン=血の海)で戦うのではなく、まだ誰もいない未開拓の市場(ブルー・オーシャン=青い海)を自ら創造する

任天堂は「グラフィック性能」という定規を捨て、「体験の直感性」という新しい定規を持ち込みました。すると競合は0社になる。戦わずして勝てる市場が生まれたのです。

② イノベーションのジレンマ——顧客の声が企業を滅ぼす

ハーバード大学のクレイトン・クリステンセンが提唱した理論です。*6

既存の優良顧客(コアゲーマー)の「もっとリアルなグラフィックを」「もっと複雑なゲームを」という声に応えすぎると、製品は高機能・高価格化します。

その結果、「そこまで求めていない大多数」が静かに離れていく

ソニーやマイクロソフトはまさにこの罠にはまっていました。任天堂は「既存顧客の声」ではなく「まだ声を上げていない人たちの沈黙」に耳を傾けたのです。

③ 心理的ハードルの除去——「リモコン」が壁を溶かした

従来のゲームコントローラーには十数個のボタンがあり、それだけで「自分には無理」と感じる人が大勢いました。

Wiiリモコンは、あえてテレビのリモコンと同じ形にすることで、「ゲーム機=自分には関係ないもの」という心の壁そのものを取り払ったのです。

これはプロダクトデザインの領域に踏み込んだ心理戦略でした。「高機能を足す」のではなく、「不安を引く」ことで市場を広げたわけですね。

理論フレーム Wiiでの作用
ブルー・オーシャン戦略 性能競争から離脱し、「非顧客」を取り込む新市場を創造
イノベーションのジレンマ コアゲーマーの声ではなく「去っていった人の沈黙」に応えた
心理的ハードルの除去 リモコン型デザインで「自分には無理」という心の壁を消した

「定規」を変える勇気を持てるか

さて、ここからは新人マーケターであるあなた自身の仕事に引き寄せてみましょう。

あなたのチームは、競合他社と「同じ定規」で競い合っていませんか?

価格で勝てないなら体験で。スペックで勝てないならシンプルさで。多機能で勝てないなら「初めての人への安心感」で。

定規そのものを変えてしまえば、競合は0社になります。

そしてもうひとつ。

「まだあなたの商品を買っていない人たち」が、なぜ買わないのかを考えてみてください。「高いから」「難しそうだから」「自分には関係ないと思っているから」——その理由のひとつひとつが、次のブルー・オーシャンへの地図になります。

岩田聡社長はこう語っています。

 

「正解は、静かに去っていったゲームファンが教えてくれた」*7

あなたの「正解」も、今いる顧客ではなく、まだ来ていない人たちの沈黙の中に眠っているかもしれません。

 

【本記事のまとめ】

1. 任天堂は「スペック競争」を降り、「非顧客」に目を向けた
コアゲーマーではなく、ゲームに興味がなかった人たちをターゲットにすることで1億台超の大ヒットを生んだ。

2. ブルー・オーシャン戦略で「戦わない市場」を創造した
性能ではなく「体験の直感性」という新しい定規を持ち込み、競合がゼロの市場を作った。

3. イノベーションのジレンマを回避した
既存顧客の「もっと高性能を」という声ではなく、「静かに去った人たちの沈黙」に応えた。

4. 高機能を「足す」のではなく、不安を「引く」ことで市場を広げた
リモコン型コントローラーが「自分には無理」という心理的ハードルを除去し、家族全員の手に届くゲーム機を実現した。

よくある質問(FAQ)

Wiiの成功は「一時的なブーム」で終わったのでは?

確かにWiiは2009年以降に販売が失速し、後継機のWii Uも苦戦しました。しかし重要なのは「結果」ではなく「戦略の構造」です。Wiiで証明された「非顧客に目を向ける」という思想は、その後のNintendo Switch(累計1億5,000万台超)に引き継がれ、携帯と据え置きの境界を溶かすという新たなブルー・オーシャン創造につながっています。

ブルー・オーシャン戦略はゲーム以外でも使えますか?

もちろんです。シルク・ドゥ・ソレイユは「動物ショーのないサーカス」で新市場を創造しました。QBハウスは「シャンプーのない理髪店」で10分カットという新カテゴリーを作りました。いずれも「業界が当然と思っている要素」をあえて取り除き、別の価値を加えることで、競合のいない市場を生み出しています。

「非顧客」を見つけるには、具体的にどうすればいいですか?

まず「あなたの商品を知っているのに買わない人」に注目してください。そして彼らが買わない理由——「高い」「難しい」「自分には関係ない」——をリストアップします。その理由のひとつを解消するだけで、新しい市場が見えてきます。任天堂の場合は「操作が難しそう」という1つのハードルを、リモコン型コントローラーで取り除いたことがブレイクスルーになりました。

(参考)

*1 任天堂ニュースリリース(2006年9月14日)。Wiiの希望小売価格は25,000円(税込)、2006年12月2日発売。PS3は同年11月11日発売で、20GBモデルが49,980円、60GBモデルが59,980円(オープン価格)。
*2 Wiiの全世界累計出荷台数は2013年6月末時点で1億4万台(任天堂2014年3月期第1四半期業績発表)。PS3は約8,000万台、Xbox 360は約8,400万台(各社発表)。
*3 岩田聡 - Wikipedia「2003年に開催された東京ゲームショウの中で岩田は基調講演を行い、『日本のゲーム市場では、ゲーム離れ現象が進行している』と、業界全体への危機感を示した」。
*4 Wii - Wikipedia「ゲームに関心のなかった人にも邪魔に思われないような、特に家庭のお母さんに嫌われないようなゲーム機というのがキーワードでした」と岩田は振り返っている。
*5 Kim, W. C. & Mauborgne, R. (2005). Blue Ocean Strategy: How to Create Uncontested Market Space and Make the Competition Irrelevant. Harvard Business School Press. 邦訳『ブルー・オーシャン戦略』ダイヤモンド社。
*6 Christensen, C. M. (1997). The Innovator's Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail. Harvard Business School Press. 邦訳『イノベーションのジレンマ』翔泳社。
*7 プレジデント2007年3月5日号「任天堂トップ直撃! 岩田社長が語る『Wii誕生の目のつけ所』」。岩田は「正解は静かに去っていったゲームファンが教えてくれた」と語っている。

▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season4

Season3だけではご紹介しきれなかった事例をさらに発展的に取り上げていきます。

Season1(全14回)はこちら|マーケティングの基礎概念からWeb広告の実務知識まで

Season2(全15回)はこちら|現場で成果を出すための実践スキル
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【プロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

スタディーハッカー 代表取締役社長
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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