
P&Gマーケティング本部、楽天 上級執行役員、Facebook Japan代表取締役を経てMOON-X Inc.を創業した長谷川晋さんが実践するのは、「1ページ思考」という思考法です。文書を作成したり自身の思考を整理したりする際に、重要で不可欠となるポイントを1ページにまとめるというものですが、具体的にどのように作成するのでしょうか。長谷川さんは、最初のステップとして「手書き」で下書きをつくることを重視しています。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【プロフィール】
長谷川晋(はせがわ・しん)
1977年8月9日生まれ、兵庫県出身。MOON-X Co-Founder/CEO。2歳から9歳まで米国シアトルで育つ。京都大学経済学部卒業。2000年に東京海上火災入社、法人営業担当。P&Gで10年間、Pampers・Gillette・BRAUN・SK-IIなどのマーケティングおよびマネジメントを統括。その後、楽天の上級執行役員としてグローバルおよび国内グループ全体のマーケティングを管掌。2015年、Facebook Japanの代表取締役に就任、在任中にInstagramの国内月間ユーザー数は810万から3300万に。2019年8月に「ブランドと人の発射台」をミッションに掲げるMOON-X Inc.を創業。共創型M&Aを通じてグループに参画したブランドの成長支援の他、社外ブランドのマーケティングやブランディングの支援などを行う。XではMOON-Xに関する情報発信に加え、次世代ビジネスリーダー向けに「#ビジネスの戦闘力」を高める情報を発信する(@ShinHasegawa8)。
「手書き」での下書きにこだわるわけ
私が提唱している「1(ワン)ページ思考」とは、自分の考えや議論の全体像をあえて1ページに凝縮し、相手に過度な負荷をかけない状態で内容を伝えるという思考フレームです。目的や背景、討議するべき論点、ネクストアクションを明確に整理することで、情報の取捨選択が促され、本当に重要なポイントだけが浮かび上がります。
その結果、ミーティング相手や会議の参加者との認識のズレを防ぎ、全員が同じ前提に立ったうえで合意形成や意思決定を進めやすくなります。1ページ思考はただの資料作成のテクニックではなく、人を動かし、仕事を前に進めるための実践的な思考法なのです(『なぜ優秀な人ほど資料を削るのか。成果を生み出す「1ページ思考」』参照)。
その1ページは、まず手書きで下書きをつくるところから始まります。そうする理由は、完成形をつくる前にしっかり考えるためです。もちろんパソコンで下書きをつくってもいいのですが、私自身は紙に手で書くということを大事にしています。なぜなら、手書きによって思考が整理されると個人的に感じているからです。さらに、自由度が高いこと、思ったことをすぐに書き出したり修正したりするスピード感に長けている点もまた、手書きにしている理由です。
加えていうなら、右脳と左脳の両方を働かせるためでもあります。これまでの経験から、なんらかの提案書など人を動かすことを目的とした文書の場合、ロジカルであればいいわけではないと私は思っています。
どこかに驚きや感動、想定を超えるようなものがなければ、そう簡単に人は動いてくれません。そのため、左脳を使ってロジカルに考えながらも、驚きや感動などの感情とかかわり、かつ空間認識やイメージを司る右脳を働かせるために、手書きにこだわっているというわけです。
また、私の場合、パイロット・フリクションボールの赤とブルーブラック、モレスキンのB5サイズのノートというように、使う筆記具を決めています。いつも決まった筆記具を手にすることでルーティン化を図り、「これからしっかり考えるぞ」というモードに入ることができるからです。

重要であり時間を割きたいものを大きく見せる
具体例を見てもらったほうがわかりやすいでしょう。これは、会社経営者との打ち合わせを想定した場合、どのような1ページをつくるかというイメージです。

画像引用元:『今すぐ結果が出る 1ページ思考』(ダイヤモンド社刊)
下書きでは、見開き2ページを使います。左ページには、誰あてのものなのか、ミーティングが終わったら相手にどう思ってほしいのか、あるいはどう行動してほしいのか、そのためになにを伝えるべきかなど、1ページの骨子となる情報をどんどん書き出していきます。
右ページは、実際の1ページのラフ版です。左ページを参照しながら、絶対不可欠のミーティングの「目的」、事前に共有するべき情報などの「背景」、議論して合意するべき内容である「討議ポイント」、誰がいつまでになにをするかという「ネクストステップ」という必要項目を、実際の仕上がりをイメージしながら書き出すのです(『なぜ優秀な人ほど資料を削るのか。成果を生み出す「1ページ思考」』参照)。
もちろん細かい言葉まではこの段階で決める必要はありません。どのようにスペースを使うのか、重要な要素をどのように見せるのかといったことを決めるイメージです。ポイントは、自分が重要だと考えるもの、ミーティングで多くの時間を割きたいものに大きくスペースを割くことです。それにより、相手は無意識のうちにも「これがいちばん重要なのだな」「メインディッシュはこれか」と認識してくれます。ここまでできればもう8割は完成です。あとはパソコンを使って仕上げていきましょう。
1ページというフォーマットにこだわることが本質ではない
仕上げのときも、やはり「情報を極限まで絞る」ことは重要だと考えます。小説ではありませんから、長文の文章自体がビジネス文書にはそぐわないのです。ですから、キーワードで済むものならそのキーワードのみで済ませます。
キーワードのみにするのが難しい場合も、ひとつの要素は1行に収めることを考えましょう。これが2行、3行となってくると、相手が直感的に理解してくれる可能性が低下していきます。過去の経験からも、「本当に人は思ったように動いてくれない」というのが私の実感です。だからこそ、「これなら誰もが理解してくれるだろう」というかたちにまで情報を絞り込むのです。
ただし、「全体を無理やり1ページに収めようとする」必要はありません。私が言う1ページ思考は、あくまでも思考法だからです。「なんでもかんでも1ページに収めればいい」というわけではなく、自分のなかできちんと思考を整理して、それを相手にとってわかりやすいかたちにするという考え方自体が1ページ思考なのです。
ですから、そのような過程を経て、1ページではなくスライドを数枚用意するなど、ちがうフォーマットのほうが適しているのであれば、それで問題ありません。また、1ページをオーバーするからと、文字を小さくして1ページに無理に収めるようなことをすれば、相手に伝わりにくくなってしまい本末転倒となるでしょう。
いずれにせよ重要なのは、相手の立場や理解度を踏まえたうえで、「相手を動かすために本当に必要なものはなにか」を徹底的に考え抜き練り上げることです。その思考のプロセスこそが、1ページ思考の本質だといえます。

【長谷川晋さん ほかのインタビュー記事はこちら】
なぜ優秀な人ほど資料を削るのか。成果を生み出す「1ページ思考」
いますぐ結果が出る! たった「1ページ」で人を動かす思考術
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。